夜は焚き火のそばで調合タイム。
それから数日。
俺は毎日、同じような生活を繰り返した。
朝起きる。
空を見上げる。
季節感がおかしい空を見て、「今日は夏っぽいな」とか「今日はちょっと秋だな」とか感想を言う。
クリムがお腹の上で伸びをして、俺の顔にふわふわの尻尾をかけてくる。
「おい、起きろって言うなら尻尾じゃなくて声で頼む」
そう文句を言いながら起き上がると、涼しい風が吹き抜ける。
遠くの木々がわずかに色づいている日もあれば、逆に新緑に戻っている日もある。
ここ、本当に時間の流れどうなってるんだ。
日中は素材集め。
草原の草を鑑定し、ポーションに使えそうなものを採取する。
たまに現れるスライムや小型魔物を倒して、魔石や肉を回収。
すべては生活のため、そしてスキルレベルのためだ。
夜は焚き火のそばで調合タイム。
「えーっと、これは体力回復ポーション。これは軽い筋肉疲労用。これは眠気覚まし……」
ポーションを並べていくうちに、なんとなく自分が薬屋の店主になった気分になる。
客はクリム一匹だけだが、文句は言わない。
「ほら、今日は前より飲みやすくしてみたぞ。ハーブ多めで」
クリムはお試し用の少量をぺろっと舐め、うっとりした顔でごろんと転がった。
「おお、気に入ったか。そうかそうか。じゃあこれを“ふわふわポーション”と名付けよう」
効果はほぼただの軽い疲労回復なのだが、そのあとクリムが気持ちよさそうに眠るので、名前はそれっぽい。
問題は、自分用のポーションだ。
素材を集めて、調合して、魔物とちょいちょい戦って、解体して、肉焼いて食べて――
正直、一日が終わるころには、身体がくたくたに疲れている。
「はぁ……俺、前世(前世じゃないけど)でもこんなに働いたことない気がする」
クリムを枕にして横になりながら、俺は空を見上げてぼやく。
そこへ、さっき作ったばかりのポーションを一つ取り出して、ぐいっとあおった。
「……っ、にがっ」
味はまだ改良の余地ありだ。
だが、喉を通り抜けたあと、じわじわと身体が軽くなる。
全身のだるさが和らぎ、筋肉の張りが緩む。
焚き火の光が少しだけ柔らかく見える。
「……疲れた身体には、やっぱりこれだな……」
思わず独り言が漏れる。
食事も大事。睡眠も大事。
それでも、限界まで動いたあとの一杯の回復ポーションは、やっぱり別格だ。
自分で調合して、自分で飲む。
材料の顔が全部分かっているだけに、変な安心感もある。
「そのうち、“疲労特化ポーション”とか作ってみたいな……」
そんな夢を見ながら、俺はクリムの柔らかさに沈み込み、眠りに落ちていく。




