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錬金術師のポーション屋。疲れたときはやっぱりこれ  作者: ChaCha


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29/36

朝に弱いのは呪いじゃなくて体内時計

店の扉がカラン、と鳴った。


入ってきたのは、目の下に夜更かしの影をくっきり刻んだ青年。

肩も落ちてるし、歩き方も半分寝てる。

クリムが「きゅ?」と首を傾げ、

ルゥは“こいつは寝ろ”って顔をしている。


青年はカウンターにたどり着くなり、しみじみと言った。


「朝に弱くて夜に強いんですよね」


俺は反射で返した。


「え? なぞなぞ?」


「……違います」

青年はゆっくり瞬きをして、瞼を押さえる。


「……瞼が重くて」


「あー……そっちか。

“朝だけ人体がバグる”タイプな」


クリム「きゅ(わかる)」

ルゥ「わふ(寝ろ)」


「いつから?」

「ここ数ヶ月です。朝だけダメで……夜は元気で」

「仕事は?」

「朝からです……」

「地獄だな」

「地獄です……」


俺は棚を見ながら質問を重ねる。


「夜は何してる?」

「通信魔道具と……あと、考え事」

「考え事の内容は?」

「明日のこと」

「お前、明日のこと考えて今日を燃やしてるな」


青年はぐうの音も出ない顔をした。


ルゥが足元でため息をつく。

クリムは青年の肩に乗って「きゅ」と鳴き、

“責めるな、でも直せ”みたいな圧をかけている。


俺は腕を組む。


夜に脳が覚醒し続けて眠りが浅い

朝に光を浴びない(体内時計がずれる)

寝不足+緊張で瞼が重い

“朝が苦手”というより、朝に起動できない体になってる


つまり必要なのは、

“朝だけ強くなる魔法”じゃなくて

寝る前と朝の環境を整える補助だ。



俺は小瓶を三つ並べた。


◆ポーション(補助)三本セット


◆一本目

【まぶた軽くなる滴(弱)】

(朝の目の重さを一時的にほぐす)


「朝いきなり使うやつ。

瞼の“固まり”をゆるめる。

ただしこれだけに頼ると、根本が治らん。」


青年がうんうん頷く。

“とりあえず今日が救われる”って顔。



◆二本目

【夜の思考鎮静ポーション】

(寝る前の脳内会議を静かにする)


「これが本命。

寝る前の“明日会議”を止める。

考えるのは悪くないが、寝る時間にやるな。」


青年は苦笑した。


「それ、俺の脳に一番必要です……」

「だろうな」


クリム「きゅ(ほんとに)」

ルゥ「わふ(寝ろ)」



◆三本目

【朝日スイッチ香】

(起床後の光の入り方を整える)


「朝、カーテンの近くでこれ焚け。

光が“優しく”入ってくる。

眩しすぎると逆に目が拒否反応起こすからな。」


青年の目が少しだけ開いた。


「……朝、痛いんですよね。光」

「お前は吸血鬼か」

「違います」


「あと、これだけ覚えとけ」

俺は指を一本立てる。


「寝る前の通信魔道具は、画面を暗くして、

“最後の十分だけ”でも手放せ。

ポーションは補助。

生活が敵だと、勝てねぇ。」


青年は真面目に頷いた。


「……やります。

十分快にすら出来てないんで、まずそこから」


「よし。

最初から完璧にしようとするな。

“朝の自分”を嫌わない程度に変えてけ。」



青年は瓶を大事そうに受け取り、

少しだけ背筋を伸ばした。


「店主さん……ありがとうございます。

朝が怖くなくなりそうです」


「おう。

夜に強いのは才能だ。

ただ、その才能で朝を殴るな。」


クリム「きゅ(名言っぽい)」

ルゥ「わふ(寝ろ)」


扉が閉まる。

俺はふっと笑って、棚を整えた。


「……次は“昼にだけ”とか来そうだな」


クリムが「きゅ」と笑い、

ルゥが“それはさすがにやめろ”って顔をした。



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