呪詛チェーンレターは営業妨害
店の扉がカラン、と控えめに鳴いた。
入ってきたのは町の郵便屋。
いつも通りの制服のままだが、
なぜか顔が“申し訳なさMAX”になっている。
「店主宛ての手紙です……」
「おう。サンキュ——」
受け取った瞬間、
クリムが「きゅ……?」と不安げにのぞきこみ、
ルゥは鼻先で手紙をつついて“嫌な予感しかしない”と主張した。
嫌な予感は得てして当たる。
俺は封を切り、中の文面を読む。
「……なになに?
……3人以上にこの手紙をまわさなきゃ……呪詛を受ける……!?」
店内が静まり返った。
クリム「きゅああぁぁ!?」
ルゥ「わふっ!?(はっ!?)」
郵便屋は両手をぶんぶん振って弁明した。
「ち、違うんです店主!!
正式な郵便じゃなくて……
村の若者たちの間で流行ってる“悪ノリ便”というか……!」
俺は手紙を指でつまんで持ち上げた。
「悪ノリで呪詛を郵送すんな。
この店の心臓に悪いわ。」
クリムが俺の肩にひしっとしがみつき、
ルゥは“これ本当に燃やしていいやつでは?”という目で見てくる。
手紙をもう一度読む。
『この手紙を3人以上に回せば幸運が訪れ、
回さなければ呪詛が降りかかるでしょう。
※呪詛の内容はランダムです』
おい、
呪詛に“ランダム”とかガチャ要素つけるな。
俺は手紙をカウンターに置き、ため息。
「まず言っとくが、
この手紙の“呪詛”は発動しねぇ。
魔法陣も呪符も霊力の刻印もない。
ただの紙だ。」
郵便屋は胸をなでおろす。
「よ、よかった……
昨日から“呪詛つき回覧板”が流行ってて……
皆、不気味がってて……」
「そりゃ不気味だろ。
一般家庭に“呪われるかも便”送るな。」
クリムがそっと手紙の端をつつく。
ルゥはその上にどっかり座って“封印完了”の顔をしている。
俺は手紙を一度ひっくり返し、そして——
「よし、燃やす」
郵便屋「即決!!??」
クリム「きゅ!!(燃やすの!?)」
ルゥ「わふ(賛成)」
「呪詛系は“物理的破壊”が最も安全。
ただの紙でも、気味悪さを残す意味がねぇ。」
俺は火皿の上で軽く焚きつけ、
手紙をぽいっと乗せる。
しゅわぁ、と燃えていく。
燃えたあと、
クリムは“終わった?”と覗きこみ、
ルゥは鼻で灰を押しのけて確認した。
「……はい店主、完全にただの灰です」
「知ってる。」
一応、郵便屋にも対策を
「お前んとこにも同じの届いてるだろ?」
「は、はい……」
「村の若造に“呪詛の基礎”だけ教えてこい。
こういうデマ呪詛は“呪いごっこ”で済まない事もある。
悪ノリは、線引きしとかねぇと危ない。」
郵便屋は真剣に頷いた。
「分かりました……!
ちゃんと注意しておきます!!」
「おう。
あと、“呪わなきゃ幸せになれません”みたいな文言は、
錬金術師の営業妨害だからな。」
クリム「きゅ(まじで)」
ルゥ「わふ(言ったれ)」
郵便屋は平謝りしながら帰っていった。
⸻
扉が閉まった後、
俺は灰を片づけながらぼそっとつぶやく。
「……こんな営業妨害もあったんだな」
クリム「きゅ(やだね)」
ルゥ「わふ(次は本物の呪符が来そう)」
やめろ。
その未来が一番怖い。




