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錬金術師のポーション屋。疲れたときはやっぱりこれ  作者: ChaCha


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幽体離脱は軽率にするもんじゃない

店の扉がカラン、と鳴いた。


入ってきたのは、背は高いが雰囲気だけやけに薄い青年。

いや、薄いっていうか……存在感が“ひゅるん”としてる。

クリムが「きゅ?」と半歩引き、

ルゥはそっと耳を伏せる。


なんか……嫌な予感しかしない。


青年はカウンターの前に立つと、

深く息を吸い、静かに言った。


「幽体離脱したいんですよね」


………………。


俺はゆっっっっくり顔を上げた。


「え? 天に召されたいの?」


「それもいい……じゃない!! 違います!!」


おい、今“それもいい”って言ったな?

絶対言ったよな?


クリム「きゅぅぅっ(怖っ!?)」

ルゥは「これは重い案件だぞ…」と言わんばかりに尻尾が下がる。


俺は両手を広げて止めた。


「落ち着け。まず、死にたい方向の話なら絶対止めるからな?」

「違うんですっ!!」


青年は胸に手を当て、震える声で続けた。


「……その……

あいつが……“ダンジョンで先に行け”って言った仲間が……

ちゃんと天国にいるか……見届けたいっていうか……」


………………………。

……………………………………。


(いやヘビーすぎるだろ……!)


声には出さないけど、心の中の俺は土下座して逃げたい。

クリムは完全に俺の腰に隠れているし、

ルゥは“やめとけ店主、深入りすると泣くぞ”って顔でこっち見てる。


俺は深呼吸して、できるだけ柔らかい声を出した。


「……まず言っとくが。

幽体離脱なんて危険すぎて絶対に作らない。

魂を無理に引きはがす類は、洗脳や死者蘇生並みに禁術だ。」


青年はうなずいた。


「分かってます。でも……

あいつが“笑ってる場所”にちゃんと行けたのか……

もし苦しんでたら、俺……」


その表情は、泣きたいのに泣けず、

ずっと“何かを背負ったまま歩いてきた”みたいな顔だった。


ああ、ダメだ。

こういうのを放っておけるタイプじゃねぇんだよ俺は。


・仲間を亡くした

・最期の言葉を自分が受け取ってしまった

・責任感と罪悪感を抱えている

・“救われてほしい”という願いがある

・でもどうしたらいいか分からない


つまり青年が欲しいのは、

“幽体離脱”じゃなくて


仲間が安らかであってほしいと、信じられる心の余裕

だ。



俺は棚からいくつかの瓶を取り出し、順に並べる。


「幽体離脱は作らねぇ。

でも——

“心が地面に戻ってこれるようにする”

“罪悪感の刃を鈍らせる”

そういう補助はできる。」


青年は肩を震わせ、小さく頷いた。



◆調合するポーション


◆一本目

【深呼吸のともしび

(胸の奥の焦りと罪悪感を和らげる)


「まずこれ。

心の奥で刺さってる“あの時こうすれば”ってやつを、

少しずつ緩める作用がある。」


クリムが青年の袖をちょん、とつつく。

慰めようとしてるらしい。



◆二本目

【静かな夜明けポーション】

(悲しみを否定せず、少しだけ前に進める)


「これは……喪失の夜を明けやすくする。

泣けないやつを泣けるようにする、みたいな方向。」


青年の目がわずかに潤む。


「……泣いても、いいんでしょうか」

「当たり前だバカ。泣けるやつほど強い。」


ルゥが青年の足元に鼻先を寄せ、そっと押す。

“泣け”という犬の無言の圧。



◆三本目

【祈りのめぐり香】

(亡くなった者を想う時間を、穏やかに保つ)


「最後はこれ。

あんたが仲間を想う時間を、静かで温かいものにする。

“天国を見に行く”必要はない。

想う側が落ち着いてりゃ、その想いはちゃんと届く。」


青年は瓶を両手で包むように持ち、

長い間止めていた息を、ようやく吐き出した。


「……俺、

あいつを置いてきたってずっと思ってました。

でも……

想っていいんですね。」


「ああ。

むしろ、“想わないほうが不自然”だ。」



青年は静かに涙をこぼした。

クリムがその手をぺちぺち叩き、

ルゥが足元で寄り添う。


俺は腕を組みながら言った。


「仲間はな、

“先に行け”って時点で、

もうお前に託してるんだよ。

生きて前に進むことを。」


青年は泣き笑いみたいな顔になった。


「……ありがとうございます。

俺……ちゃんと前に行きます。」


「おう。

仲間の分まで、地に足つけて歩け。」


青年は深く頭を下げ、

店を出る時には少しだけ背が重力に戻っていた。



扉が閉まったあと、

俺は天井を見上げてため息をひとつ。


「……幽体離脱とか言われて心臓止まるかと思ったわ」


クリム「きゅ(わかる)」

ルゥ「わふ……(疲れた)」


まったく、

次はどうせ「魂見失いました」系が来るんだろうな。


……やれやれ。

でも来たら来たで、ちゃんと向き合うけどさ。


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