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錬金術師のポーション屋。疲れたときはやっぱりこれ  作者: ChaCha


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22/36

夜泣きという最強モンスター

深夜直前の店。

クリムは棚の上で丸くなり、

ルゥは入口で「そろそろ閉店だろ…?」という顔をしている。


そこへ――


ガラッ!


疲れ切った、魂の抜けかけた親御さんがふらふら入ってきた。


目の下、真っ黒。

姿勢、限界。

ただただ、切実な声でこう言った。


「子供の夜泣きが酷くて…

毎日毎日毎日……2時間寝れたら良いところなんです……

助けてください……」


俺は、心の底から察した。


「……今日の客、いちばん強敵に挑んでるな」


クリムが思わず「きゅ……」と涙目になり、

ルゥは“これはヤバい案件だ…”と言わんばかりに背中の毛を立てた。


俺はカウンターから立ち上がり、真剣に聞く。


「子どもの年齢は?」


「一歳半です……

寝たと思ったらギャン泣き、抱っこしても寝ない、

やっと寝たと思って置いた瞬間また泣く……

無限ループです……」


「あー……夜泣き界のエリートだな」


親御さん、泣きそう。


俺は深呼吸して棚から数本取り出した。



◆1本目


【親用:微睡み支援ポーション(安全・弱)】


「まずはこれ。

“寝るタイミングで一瞬だけ深く落ちやすくなる”タイプ。

赤ん坊が起きても、短時間で回復する体力残量を残すように調合してある。」


親御さんの目が見開かれる。


「寝たいです……本当に……」


「分かる。

徹夜明け冒険者より、お前のほうがしんどい。」



◆2本目


【子ども用:安心香(無害・弱)】


「これは子どもに飲ませるんじゃない。

寝室に“ほんの少し香らせる”だけ。

魔力は極弱。

不安感が落ち着いて泣きの“初動”が減る。」


親御さんが震える声で言う。


「そんな……夢のような……」


「もちろん魔法じゃないから、泣くときは泣く。

でも“泣き出しの頻度”が落ちるだけで、

親の体力は別世界だ。」



◆3本目


【親子同調・眠気の波整えるポーション(微)】


「これは親が飲むタイプで、

親の眠気のリズムを“子どもが落ち着きやすい波”に合わせる。

親が落ち着くと、子どもも少し落ち着きやすくなる。」


親御さんはぽろぽろ涙を流し始めた。


「……店主……あなたは……天使……」


「いや、錬金術師だ」


クリムがそっと親の手に鼻先をあて、

ルゥは足元に寄り添ってしっぽを振る。



■最後に店主として大事なことを言う


俺はカウンター越しに少し前へ出た。


「いいか?

夜泣きは“誰が悪い”とかじゃない。

子どもも戦ってるし、親はもっと戦ってる。


これらのポーションは、

“戦いをちょっとラクにする”だけだ。」


親御さんは何度も頷く。


「……助かります……

本当に……限界だったので……」


「分かる。

夜泣きってな、“魔物より強い”。

討伐難度:Sランク。

勇者の装備より、睡眠のほうが大事だ。」


親御さんが少しだけ笑った。


その笑顔で、今日の仕事の価値が決まったようなものだ。



■帰り際


親御さんは3本の瓶を胸に抱えながら深く頭を下げた。


「この夜を……乗り越えられそうです……」


「おう。

一番大事なのは“親が倒れないこと”だからな。

泣いてもいい。

手抜きしてもいい。

生きてれば勝ちだ。」


親御さんは涙と笑顔を混ぜた顔で店を出ていった。


扉が閉まる。


静かになった店で、俺はコトリと棚の瓶を整えながら呟く。


「……夜泣きの親御さんには、どんな魔物より強い称号をやりたいな」


クリム:きゅ(称号:不眠の勇者)

ルゥ:わふ(最強だな)


さて、次はどんな“切実な依頼”が来るか。

このポーション屋、本当に何でも屋になってきたな……。



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