“光る”の定義が違った件
昼下がり。
俺は棚の補充をしていた。
クリムは頭の上でぬくぬく、
ルゥは入口で番犬モード(たまに寝落ち)だ。
そこへ――
カラン!
勢いよく入ってきた青年冒険者が、開口一番こう言った。
「光るポーションないっすかね!」
俺は反射で聞き返した。
「ナイトパーティ参加?
身体キラキラさせる薬なら作れるけど?」
青年は全力で手を振った。
「いやいや“物理的に眩しすぎる”っしょ!
違います!
そういう光じゃなくて……
才能が光るって感じです!」
……才能が光る?
クリムが「きゅ?」と首をかしげ、
ルゥは“また抽象的なやつ来たな”とため息をつく。
俺はカウンターに肘をついて聞いた。
「……で、どんな才能を光らせるために?」
青年は、ずいっと身を乗り出して言った。
「俺、パーティで“なんか器用貧乏”って言われるんすよ!
戦闘もできるけど中途半端、
補助魔法も使えるけど中途半端、
罠解除もできるけど完璧じゃない……!
なんかこう……
“俺のコレ!”っていう才能を光らせたいんすよ!」
あー……
いるな、こういう冒険者。
俺は首を回しながら答えた。
「なるほどな。
才能を光らせるポーションは、
“才能そのものを作る”わけじゃなくて――
“持ってるはずのものを浮き彫りにする”タイプなら作れる。」
青年が目を輝かせる。
「マジっすか!!」
「ただし、何の才能もなければ何も光らないぞ?」
「し、しんどいこというなぁ!?」
クリムが「きゅっ(がんばれ)」と励まし、
ルゥは青年の足元でしっぽを一回だけ振った。
俺は棚から素材を出しながら続ける。
⸻
◆才能系ポーションの基本
「才能ってのは、“もともとあるのに気づいてない部分”を引き出すものだ。
ゼロを百にするんじゃなく、
十を三十くらいまで引き上げるイメージ。
光らせると言うより、“輪郭が見えるようにする”のが近い。」
青年は真剣に聞いている。
⸻
俺は三本の候補を並べた。
⸻
◆一本目
【集中点強調ポーション】
(“自分が得意な瞬間”にスポットライトを当てる)
「これを飲むと、
“無意識に得意な行動”をしたときだけ、
心の中に微妙なハイライトが入る。
たとえば、罠解除で手が自然に動くとか、
仲間の位置をすぐ把握できるとか。
本人が気づきやすくするんだ。」
青年は感動したように口を開いた。
「それ、めっちゃ良くないっすか……!」
⸻
◆二本目
【不得意の霧が晴れるポーション】
(何が苦手かを自覚できる)
「才能を光らせるのと同じくらい、
“苦手を把握する”のも必要だ。
これは変な万能感を消して、
本当に向いてない部分を自覚できる。」
青年はショックを受けた顔で言う。
「え、それ飲んだら……俺、傷つきません?」
「傷つくぞ」
「やっぱり!!」
「だが、その痛みで方向性が決まる。
“何でも中途半端”って言われるやつは、
自分の強みと弱みの線引きが曖昧なんだよ」
クリムがポンと青年の手にタッチする。
慰めているらしい。
⸻
◆三本目
【本質引き出しポーション(弱)】
(内面の“得意の種”を少しだけ表面化)
「飲んだあと、
気持ちが“自然と向く方向”がある。
身体が軽く動く、集中しやすい、
興味が沸く――そういう感覚が出てくる。
それが“才能の芽”だ。」
青年の目が一気に潤んだ。
「俺……ずっと……何が得意なのか分からなくて……
仲間に気を使って、何でもやってみて……
でも結果が出ないと、“器用貧乏”扱いされて……」
俺は瓶を3本まとめて押し出した。
「安心しろ。
お前みたいなタイプは――
“ちゃんと方向が合ったとき、一番伸びる”。
万能型じゃなくて、
**“方向性が見えた瞬間に爆伸びするタイプ”**ってやつだ。」
青年は胸を押さえ、
「う、うわぁぁ……言われたことなかった……」
と涙ぐむ。
クリムが青年の肩に乗って撫で、
ルゥは足元で優しく鼻先を押し当てた。
俺は苦笑しつつ言った。
「この三本飲んだからって即才能が光るわけじゃない。
ただ――“本来光るはずの部分”に
スポットが当たるようになる。
そこから先は自分で育てろ。」
青年は深く頭を下げた。
「店主さん……
俺、ちょっと……自分のこと嫌いじゃなくなりそうです……!」
「よし、その調子。
才能ってのは“自分を見るところから”光り始めるからな。」
青年は晴れやかな顔で店を出ていった。
扉が閉まると同時に、
俺はふうっと息を吐く。
「……“光るポーション”はそういう意味もあるんだな」
クリムが胸を張って「きゅぅ」、
ルゥは誇らしげに尻尾を振った。
さて次は、
「闇属性なのに光りたくないんで光を消すポーションありますか?」
とかいう面倒なやつが来る気がする……。




