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錬金術師のポーション屋。疲れたときはやっぱりこれ  作者: ChaCha


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アトリエ・くぼ地一号店

クリムと一緒に歩きながら、俺はとりあえず拠点候補を探した。


と言っても、どこを見ても似たような草原だ。

遠くには森、その向こうに湖。反対側にも森。

見渡す限り、青と緑と、ところどころ白い雲。


「目印がないって、こんなに不安なんだな……」


俺がそんなことをぼやくと、肩に乗ったクリムが「きゅぅ」と鳴いた。

慰めてるつもりなのかもしれない。

可愛い。だが問題は解決しない。


それでも、少し歩くと地形に変化が見えてきた。

草原がなだらかに下り、小さなくぼ地になっている。

片側だけ、低い岩場がせり出していて、ちょっとした壁みたいになっていた。


「お、ここなら風も防げそうだな」


近づいてみると、岩場の下は少しえぐれていて、

自然のひさしのようになっている。

雨が降っても、ここならある程度しのげそうだ。


「今日からここが俺んちだな」


宣言したところで誰も拍手してくれないが、クリムはぴょんぴょん跳ねて賛成の意思を示している。

木の枝を拾い、岩場の前に立てかけて簡易の柵を作る。

ついでに、近くの草を束ねて敷き詰めて簡易マットを作った。


「……よし、俺のベッド」


クリムが当然のようにその真ん中で丸くなろうとするので、俺はそっと端に寄せた。


「いやいや、真ん中は俺の……まぁいいか。共同ベッドだな」


クリムは「きゅ」と短く鳴き、ふわっと俺の腰のあたりに移動した。

ふわふわの湯たんぽみたいで、正直ありがたい。


一日の終わりには、こんなふうに横になって空を見上げる。

静かに流れる雲、遠くで飛ぶ鳥型魔物。

ここがダンジョンの最深部なのか、中層なのか、それとも別ルートなのか、さっぱり分からない。


けれど、少なくとも――思っていたほど“地獄”じゃない。


「問題は、飯だな」


そう。生活の基本はまず食料だ。


魔物を倒せば、たまに肉が手に入る。

だがこの階層では、倒してからしばらくすると、死骸が光って消え、そのまま地面に吸い込まれるのを見た。


「ダンジョンに吸収されてる……?」


試しに、さっき倒した鳥型の肉をちょっとだけ遅れて取りに行ったら、骨ごと全部消えていた。

どうやら、“一定時間以内に解体しないと、素材も肉も消える”仕様らしい。


「初心者に、要求する操作量じゃないだろこれ」


文句を言いながらも、やるしかない。

俺はポーチからナイフを取り出し、クリムの目の前で鳥型魔物を解体した。


「見た目はちょっとアレだが、肉は肉だ。焼けば食える。たぶん」


クリムが心配そうに俺と肉を交互に見ているので、俺は笑ってみせる。


「大丈夫だ。こう見えても、冒険者ギルドの講習で“魔物肉の安全な扱い方”はちゃんと受けてる」


一応、鑑定もした。

「食用可」って出たから、たぶん大丈夫だ。たぶん。


焚き火用の枝を集め、火打ち石で火を起こす。

じゅうぅ、と肉が焼ける音が広がった瞬間、腹が鳴った。


「……おいしそうだな」


クリムも「きゅ~」と鳴き、よだれを垂らしそうな顔をしている。

お前も食うのか。草食じゃないのか。見た目にだまされた。


軽く塩をふって(塩は持参している。ポーション材料にも使うからな)、串に刺してあぶる。

香ばしい匂いがあたりに広がった。


「いただきます」


一口かじる。


「……うまっ」


想像していたより、ずっとおいしい。

少し硬いが、噛むほどに味が出る。

鶏肉とジビエの中間みたいな感じだ。


クリムにも小さく切り分けて渡すと、夢中でかじり始めた。

口の周りが油でテカテカだ。

可愛い。拭いてやりたいが、拭いたら拭いたで嫌がりそうなので、そのままにしておく。


あったかい肉。

あったかい焚き火。

あったかい毛玉。


「……なんだこれ、思ってたより快適じゃないか?」


もちろん、魔物は出る。危険はある。

けれど、少なくともこのくぼ地は風も弱く、焚き火の煙はうまく上へ抜けていく。

簡易拠点としては十分だ。


「よし、ここを“アトリエ・くぼ地一号店”ってことにしよう」


クリムがきょとんとした顔をしたので、俺はひとりで満足げに頷いた。


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