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錬金術師のポーション屋。疲れたときはやっぱりこれ  作者: ChaCha


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19/36

そして今日も扉は開く(性別相談編)

カラン、と扉が開く音がした。


昼下がり、棚の整理をしていた俺は顔を上げた。

クリムはコルク瓶の上で丸まり、

ルゥは地面で腹を出して寝ている。

平和な午後……だった。


入ってきたのは、長身でスッとした顔つきの青年。

ただし、雰囲気がどこか切迫している。


「……あの……店主さん……」


「どうした。

傷か? 疲労か? 病気なら軽いのは対応するぞ」


青年はきゅっと拳を握り、真剣に言った。


「女になりたいんですよね」


俺は反射で言った。


「女装したいなら、うちの店の3件先に専門の衣装店が――」


「そんっな単純な話じゃないんです!!」


……店内がピタッと静まり返った。


クリムは肩の上から目をまん丸にし、

ルゥは一瞬だけ起きて状況を確認し、

“あ、これ深いやつだ”という顔でまた寝た。


俺は咳払いして、慎重に向き合うことにした。


「お……おぅ。

じゃあ、単純じゃないってのは?」


青年は少し俯きながら言った。


「女装したいとかじゃなくて……

“自分の内側がずっと女性なんです”。

子どもの頃から違和感があって……

でも冒険者としてやっていくうちに無視できなくなって……

最近は、“本来の自分じゃない体”を動かしてる気がして……

どうにも苦しくて……」


……これは、本気だ。


俺は真剣にうなずいた。


「いいか、まず一つ確認する。

“本人の意志で、自分のためだけに”そうなりたいんだな?」


「はい」


「誰かに強制されたわけでも、誰かのために性別を変えたいわけでもなく?」


「もちろんです。

……自分が、自分らしく生きたいだけなんです」


クリムが肩でそっと鳴く。

“それは大事だよ”の音だ。


ルゥも静かに起きて、足元に寄り添った。

こういうときだけ妙に空気を読む。


俺は深く息を吸い、棚を開けた。



■結論から言う


「“完全な性別転換ポーション”は、倫理的に作らないし、作れない。

身体の根本を書き換える魔法は危険だからな」


青年の表情が曇る。


だが俺は続けて言った。


「だけど、

“なりたい自分で生きるための補助ポーション”

なら作れる。

“心の性と表の行動を一致させるためのもの”や、

“声や所作を整えやすくする後押し”なら、錬金術の範囲だ。」


青年の目が少しだけ光を取り戻した。



俺は3本の瓶を並べた。



◆一本目


【内なる自分を整えるポーション】


(自己像のぶれを落ち着かせる)


「性別どうこう以前に、

“自分を否定する苦しさ”で心の魔力が荒れる。

まずこれで、心の中がスッと静かになる。

誰かの声に惑わされにくくなる。」


青年は瓶をそっと撫でるように見つめた。



◆二本目


【声と仕草を自然に導く微調整ポーション】


「声色が“望む方向”に出やすくなる。

魔法で無理に変えるわけじゃなく、

普段の緊張を和らげて自然体を出しやすくするタイプだ。」


青年は唇を震わせながら聞いていた。



◆三本目


【自己表現ブースト(安全版)】


(服装・振る舞いの迷いを取る)


「周りの視線に怯えて動けなくなるやつだな。

これを飲むと“自分の意思で選んだ格好や行動を肯定しやすくなる”。

女装でも、女性的なしぐさでも、

“自分がそれでいい”と思える手助けになる。」


青年の肩が震えた。


「店主さん……

ちゃんと……本気で向き合ってくれるとは……」


「当たり前だろ。

“なりたい自分になる”ってのは、

惚れ薬や痩せ薬よりずっと大事な相談だ。」


クリムが青年の腕にちょこんと乗り、

ルゥは足元に鼻先を押し当てた。



青年は涙をこぼしながら深く頭を下げる。


「……ありがとう……ございます……

初めて……真面目に話を聞いてもらえました……!」


「おう。

ただしこれは“魔法で全部解決”じゃなくて、

“自分で選ぶ人生の後押し”だ。

その点だけは勘違いするなよ」


青年は力強く頷いた。


「はい……!

自分の道は、自分で歩いていきます……!」


瓶を抱え、青年は晴れた顔で店を出ていった。


扉が閉まったあと。


クリムが肩で「きゅ……(いいこと言った)」と褒めてきて、

ルゥが尻尾で俺の膝を軽く叩いた。


俺は照れながら呟く。


「……いや、今日はなんか店主っぽいこと言っちまったな……

でもまぁ、ポーション屋ってのは、

“その人が本来の力を出せるようにする”のが仕事だからな」


さて次はどんな悩みが来るんだか。


おそらく――

「人格三つあるんですが、同時に働けるポーションあります?」

とかいうカオスなやつだ。



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