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錬金術師のポーション屋。疲れたときはやっぱりこれ  作者: ChaCha


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14/36

で、出たんです……

店の扉が、ギィ……ッと不穏な音を立てて開いた。


入り口に立っているのは、

顔面蒼白、全身ガタガタ震えている青年冒険者。


クリムは「きゅ……?」と怯え気味に首をかしげ、

ルゥは毛を逆立てて低く唸った。


青年は震える声で言った。


「で、出たんです……」


俺はカウンター越しに眉をひそめる。


「……なにがだ」


「レ、レイスが……家に……出たんです……!!

昨夜から……ずっと……背後に立ってて……!!

祓ってくれませんか……!? 店主さん……!!」


店内が一瞬で静まり返る。


俺は思わず声を張り上げた。


「え!? ポーションで!?」


青年が「うっ……うっ……」と泣きそうになりながら首を振る。


「だ、だって……店主さん……なんでも作れるから……レイス祓いのポーションとか……あるかと……」


「あるかと、じゃないんだよ……!」


いや、無茶振りの歴史においては、

“惚れ薬ください”“痩せたいです”“締切がやばいんです”

など色々あったが……


レイス祓いは初だ。


俺は額を押さえながら言う。


「お前……俺をなんだと思ってる。

錬金術師であって、祓い屋じゃないぞ……?」


「で、でも……ダンジョンで魔物の残留思念っぽいのとか、なんか消してましたよね!?

ポーションで!!」


「あれは“魔力汚れを薄めただけ”だ!!

レイスはカテゴリー違う!!」


青年はテーブルに突っ伏し、涙目で叫んだ。


「家にいるんですよ……!?

寝てたら耳元で『うら……め……』って……!!

もう無理なんです……!!」


クリムが震えながら俺の肩にしがみつき、

ルゥは後ろ足でじりじりと後退していく。


……いや、怖がるな。お前ら看板モフだろ。


俺は深呼吸して、現実的に対応を考える。


「……いいか、レイス系は本来“神官”とか“祓術師”の仕事だ。

ポーションでどうこうできる問題じゃ――」


青年はガバッと顔を上げた。


「そこを!! なんとか!!!」


「なんで俺なんだ!!!」


「だって……他の祓術師さん、高いんです……

あと、怒られました……

『その家には前にも出てなかった?』って……」


(※出る確率が高い家らしい)


……そりゃ怒られるだろ。

お祓い常習犯の家じゃねぇか。


でも、このまま追い返したら

青年は確実に今日眠れないし、

店の前で泣かれたら面倒だ。


俺は棚を見つめながら、考える。


――レイスそのものを“祓う”のは無理。

でも、“弱らせる”“近づきにくくする”なら……

錬金術で魔力を散らすことはできる。


「……よし、分かった」


青年がガバッと顔を上げて輝く。


「ほ、本当ですか……!?」


「ただし、言っておくぞ。

“祓える”ポーションは作れない。

作れるのは――

“レイスが寄りつきにくくなる空間作り”。

つまり、“追い払う補助”だ。」


青年は全力で首を縦に振る。


「じゅ、十分です……!!」


俺は素材棚から香草を取り出す。


【聖木の灰】

【祓い花のエキス】

【魔力を散らす煙草】

【清浄ハーブ】


どれも神官ほどの効力はないが、

“レイスの形を保たせない”程度なら可能。


俺は青年に確認する。


「まずはっきり言っとくぞ。

これでレイスが完全に消えるわけじゃない。

ただし――

“家に近づけなくする”くらいの効果は見込める。」


青年は土下座しそうな勢いで叫んだ。


「もうそれで十分です!!

寝るときに耳元で囁かれなきゃいいです!!」


いや、どんな状況だよ。


俺は深く息を吐いて、調合を始める。


カチャン、コトッ――

瓶の中に香草を入れ、火で温め、

ほんの少しだけ魔力を流し込む。


淡い金色の蒸気がふわっと立ち上がり、

店の中に清浄な香りが広がる。


クリムが「ふぇぇ……」とリラックスして肩から落ちかけ、

ルゥは「なんだこれ……落ち着く……」と寝転んでしまった。


よし、効果は抜群だ。


「できた。

【簡易・結界香ポーション】だ。

これを家の四隅に撒けば、“レイスが姿を保ちづらくなる”。

近づいてきても形が崩れて消えるはずだ。」


青年は震えながら受け取る。


「す、すごい……店主さん……

これ、効きますよね……?」


「効く。“祓う”んじゃなく、“弱らせる”けどな。

あと、家にいるお前の精神状態にも効く。

“今は安全”って思えばレイスも寄りづらくなる。」


青年の目に涙が溜まる。


「……助かりました……

今日、生きて寝れます……!」


「ちゃんとした祓術師にあとで見てもらえよ。

このポーションは“応急処置”だからな?」


青年は深く頭を下げて走っていった。


扉が閉まると同時に、店内が静かになる。


俺はカウンターに突っ伏した。


「……マジで来たな、霊問題。

次来るのは“幽霊と仲良くなるポーション”とかじゃねぇだろうな……」


クリムが肩で「きゅ……(ありそう)」と鳴き、

ルゥが「わふ……(絶対ある)」とため息をつく。


今日もまた、ポーション屋とは思えない依頼が一つ終わった。


さて次は――

どんな無茶ぶりが飛んでくるんだか。



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