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ひとりぐらし  作者: 雨宮 叶月
管理人の記憶

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第64話 燃えている

英美は、怒りと、信じられないという気持ちを含んだ目で僕を見た。


「……悠人、私、やっぱり担任が許せない。」


「……うん。」


「通知表にね、『消極的な性格』だって。

ありえない!私は自惚れてるわけじゃないけど、1年生の頃からたくさんのことに挑戦して、実績も積んで、頑張って生きてたのに!私が試験官だったら、そんな子欲しいとは思わない。抗議だって無駄だった。」


「……僕もおかしいと思うよ。何で、何で英美ばっかりそんな……」



「……私も分かんないなぁ。私のどこが、そんなことするくらい気に入らなかったのか。だってさ、聞いてよ。私の実績を。」


英美は、すらすらと資格や検定、能力、入賞などの記録を読み上げた。



「……すごすぎる。」


「……あはっ、私もそう思う。私は、学校の誇りだよ?でも、その数文字が、人生を壊す。」


彼女は立ち上がった。


「……ごめん、そろそろ帰るね。通知表なんて意味がないくらい、高得点を取るために勉強しなきゃ。……勉強しなきゃなぁ。」


彼女は靴を履きながらうつむいた。



「……落ちたらまた、否定されるんだろうな。私の努力も、人格も。また、曖昧な痛みの中で苦しむんだろうな。」



「………。」



「じゃあね、悠人。次会う時には、良い結果が報告できたら良いな。」



「……うん。」





次に会ったのは、2月の下旬だった。



彼女の外見は変わっていなくても、僕にはもう、ボロボロに見えた。



「……悠人、ダメだった。私はいつだって、自信があるときに限って失敗する。何回も聞きなれた暴言も、何回も殴られた場所も、いつまで経っても痛い。」



「………人生って、この世界って、理不尽なことに満ち溢れてるよなぁ。」


「うん。」



僕は自販機のボタンを2つ押した。


ガコン、と音がしてサイダーが2つ出てきた。


僕はそのうち一つを英美に手渡す。



「……私に?ありがとう。」


そのとき、彼女は今日初めて笑った。


僕は柵に体重をかけ、緑の山々に沈みかける赤い太陽を見つめるふりをする。


太陽は、『燃えている』という表現が正しいくらい美しかった。



僕はなんとかして笑顔を作る。


隣に彼女も来た。



いつしか叫んでいたときとは違い、ため息をつく。


彼女は精一杯笑顔を作った。


そして、口を開く。



「悠人、ありがとう。」


「……え?」



僕は耳を疑った。

それはただの感謝の言葉ではなく、なんだか、なんだか違う意味も入っている気がした。



「悠人がいたから、私はもっと頑張り続けることができた。……出会えることができて、本当に良かった。」


「ね、え英美、どうして……」


彼女の声がだんだん震えた。僕は尋常ではない雰囲気を感じ取る。



「………母の様子が、いつもと違っておかしいんだ。いつもなら、『私が死んだら…』みたいな風に言うのに、最近は、殺してやる、って。死ねばいいのにって言ってくるの。だから、だからね。もうお別れかな。」


彼女はその言葉からは連想できないような純粋な笑みを浮かべた。



「そんなこと、言うなよ……」



「………私、引っ越すのかもしれない。だから、もう会えなくなるよ。」


彼女は下手な嘘をついた。

僕の鼓動が早くなる。



「…またね、悠人。……大好きだよ。本当にありがとう。」


彼女は笑ったままそう言った。僕が手を伸ばすと同時に、彼女は踵を返した。


そして、車が彼女の姿を隠す。


その車が通り過ぎると、もう彼女はいなかった。



僕は次の日から彼女の通学路付近を彷徨さまよったり、マンションの近くにいたりした。


時間が違うのか、はたまた彼女が僕を避けているのか分からなかったが、

………僕が彼女に会ったのは、それが最後だった。



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