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ひとりぐらし  作者: 雨宮 叶月
管理人の記憶

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第58話 妬み

僕たちはちょっと広い本屋に行こうということでそこへと歩き出した。最近はそれが習慣になってきている。ここ一帯はそんなに都会ではないし、僕たちは勉強が好きだったからむしろ楽しみだった。


「…あっれー?泉じゃん!」

「わぁ、久しぶり!っていってもそんなに経ってないけど!」

「珍し~」

「私服かっこよ!」


途中で、僕のクラスメイトの女子4人と出会った。名前はもう忘れた。


「え、あ、うん。」


僕は高原さんを見た。

真顔だった。冷たい目をしていると感じたのは気のせいかもしれない。



「……お隣にいるのは誰?うちの学校の子…ではなさそうっぽいけど。」

「ね!背高い~!身長分けてほしいくらい。」


女子達の目が鋭くなったのに気付いた。


僕は高原さんに小声で謝った。


「…ごめん、僕のクラスメイト達。」


そうして向き直る。


「……僕の友達だよ。」


僕がそう言うと、雰囲気が柔らかくなった。



「なんだ~!良かった!」

「え、どこ中ですか!?同い年?」


高原さんはにこっと微笑んだ。先ほどの顔からは想像がつかないくらい。

なるほど、彼女は学校でそうやって演じているのだな、と思った。


「……初めまして。■■中学校2年生です。」


女子達は顔を見合わせる。


「おっ、同い年~!SNSとかやってるー?」

「いえ、スマホを持っていないので…」

「へぇ……」


意味ありげな視線だ。


「……宿題終わったの?え、中間テスト何点だった!?」

「確かに~!知りたい。」


ああ。


僕は意図を理解した。


女子達は塾に通っている。そして、少なからず僕に好意があるか、はたまた高原さんのことが気に入らなかったのかは分からないが、自分たちが上だということを示したいのだ。


(……はははっ!)


僕は心の中で悪い笑みを浮かべた。だって、結果は考えずとも分かるからだ。


「宿題はもう終わりました。中間テストは…具体的な数字は覚えていないのですが、470点は優に超えていたと思います。」



「………」


女子達が黙った。


「……そ、そうなんだ。塾はどこ行ってるの?」


「あ、塾は行っていません。独学です。」


完全に彼女の勝利だ。女子達は上手く笑えていない。


しかも、彼女は終始敬語。格が違う。


「じゃあ、そろそろ僕たちは行くね。また学校で。」


「う、うん。」

「…またね。」


そうして僕たちは再び歩き出した。



「……ごめんね。なんか……」

「いや。別に些細なことだし。逆に楽しかったな。私のほうが上だって分かってもらえたみたいで。泉くんの隣に私がいるべきだーって!」

「その通りだよ。」

「ふっ、でもやっぱり泉くんモテてるじゃん。運動部だからかな、それも花形のバスケ部。かっこよさそう。」

「ありがとう。でも、実は僕、あの4人結構苦手なんだよね。野心が目に見えてるっていうか。」

「あはははっ!」


彼女はツボにハマったように明るく笑った。


「へへっ、それじゃ私のほうがチャンスありそうだね。」


彼女が笑いながら言った。


「そうかもね。」


「あははっ!」



そうしているうちに、本屋に着いた。


お互い参考書のコーナーを5分ほどうろついた後、小説のコーナーに移動する。


彼女の家には参考書がたくさんあると聞いたことがある。

僕は塾のテキストがあるから。


「…読書って、やっぱり大事だよね。語彙力高めなきゃだし、読解力もつくから。」

「そうだね。読むのも楽しいし。」


彼女はふと横を見た。


「……へえ、最近は異世界ものが流行ってるんだね。アニメ化か…」

「らしいね。愛読者が増えてるのかも。僕もたまに読むよ、面白そうなやつは。」


彼女は本棚を熱心に見つめていた。


「…これ、内容とか結論がタイトルですぐ分かるようになってる。分かりやすいのは好きかも。」

「あ、そういう理由?」


僕たちは本屋を出た。


「…高原さんってさ、家が厳しそうじゃん。こんなこと言っていいのか分からないけど。僕と一緒にいて大丈夫?」

「…大丈夫!友達と遊ぶ、それか本屋か図書館で一人で勉強するって言ってあるから。……ずっと家にいても辛いだけだし。」

「そっか。」


彼女がぴたっと立ち止まる。


「…私、泉くんの目が好き。なんか、『生きること』を特別意識しているわけじゃないのに、私が今まで出会った中で、一番『生』が似合ってる。それに、たまにお世辞を言うけど、私が欲しかった言葉を本心から言ってくれる。」


「……高原さんの感覚はいい意味で不思議だね。俺は心地良いけど。」


彼女が振り返った。


「うん、ありがとう。……じゃあね。また、次のときに。」

「うん。またね。」


僕たちは分かれ道をそれぞれに進んだ。




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