表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひとりぐらし  作者: 雨宮 叶月
管理人の記憶

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/68

第55話 出会い

彼女と初めて出会ったのは、中2の頃だった。


学校から応募した作品が賞をもらったとかで、表彰式があった。


5、6つくらい中学校が集まっていたが、中学2年生は俺と彼女だけだったようで、自然と目で追っていた。


(礼儀正しい子だな…)


姿勢は常によく、微動だにしない。先生たちとも、笑顔で話していた。


でも、そのときはそれだけだった。中学校も違うし、これから関わることもないと思ったから。



表彰式が終わった。



その日は雨が降っていた。


たまたま彼女の中学校と隣だったため、会話が断片的に聞こえてきた。


「…大丈夫です。迎えがあるので。」

「そう?挨拶したいんだけど、今いる?」

「あっ、恐らく車で待っているので…すみません。」

「それなら大丈夫、気をつけて帰ってくださいね。」

「はい。ありがとうございました。」


話はそれで終わったようで、彼女は先生のもとから離れた。


それから数分後、僕の中学校も解散した。


「泉くん、大丈夫?雨降ってるけど帰れる?」

「大丈夫です、傘持っているので。」


先生にそう答え、さようならと言って帰ろうとした。


親が仕事で忙しいため、ほかのみんなとは違い、僕は車ではなく電車で来ていた。



外に出て、傘を差そうとすると、隣で空を見上げている少女に気付いた。


その顔を見た瞬間、僕の背筋はゾクッとした。



その目は、空よりも遥か遠くを見ているように僕には見えた。何の感情も宿していなかった。彼女は、灰色の世界を見ているのではないかと思うほどだった。



やがて彼女は顔を前に向けた。そして意を決するように息を吸うと、そのまま悠々と歩き出した。雨に打たれるまま。


「え……」


僕はどうすれば良いのか分からなかった。でも自然と傘をさして、彼女のもとへ駆けだそうとした。



「あの、傘、ないんだったら一緒に入りませんか?」


気付いたら彼女に声をかけていた。彼女は驚いた顔をしていた。


「……え、いや、大丈夫です。そこの屋根の下を歩いていくので…。迎えがありますから気にしなくて構いません。ありがとうございます。」

「あ…じゃあそこまで一緒に入らせてください。」


彼女は困ったように微笑んだ。


「……すみません。実は迎えが来るというのは噓なんです。でも、本当に大丈夫ですから。」

「え?でもさっき先生に迎えがくるって…」

「聞こえてたんですか………雨が降っているのに迎えがない、って知ったら先生に迷惑をかけるでしょう?それに、一人で帰るのにも慣れましたし、楽なので。」


そんなことを考えていたとは思わなかった。


「…僕も一人で帰るんです。道がちょっと不安なので、一緒に帰りませんか?」

「……そういうことなら、良いですよ。」


彼女はしぶしぶ了承してくれた。傘を持ってくれようとしたが、僕のほうが彼女より背が高いと知ったからか、二人で一つの傘の下、歩いた。


彼女はほっとしたような、でも迷惑そうな顔をしていた。


「……▲▲中学校の方ですよね。最寄りは夜風駅ですか?」

「…はい、そうです。あ、僕、泉悠斗です。」

「…私は、高原…英美、です。」


それからずっと雑談をして過ごした。思っていたよりも話は弾んだ。

話すのは楽しくて、彼女のことをもっと知りたいと思った。


「あの……また、会えませんか?」


だから、別れ道についそう言ってしまった。


「……いいよ。いつなら空いてますか?」

「あ……月曜日と、水曜日以外ならいつでも。」

「じゃあ、明後日、またここで会いましょう。」

「はい。」


「ありがとう。楽しかったよ!」


そう言って手を振る彼女に、手を振り返した。



僕は口元が緩んだまま、自分のマンションの部屋の鍵を回す。


「…ただいま。」


しんと静まり返る部屋。


両親は忙しくて、帰ってくるのはほぼ夜。夜ご飯を一緒に食べることができる日もあるが、ほとんど僕が起きるころにはいない。


でも、別に寂しいとは思わなかった。それがもともとの僕の性格なのだろう。


賞状をファイルに挟み、夜ご飯を一人で食べる。


明日の学校の計画を立てて、布団を被った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
Xの方では先に感想書かせて頂きましたが、いいホラーです。 心理描写すごく上手く引き込まれます。更新楽しみにしています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ