第54話 大切
俺はそわそわしながら、そして新たな情報が手に入るかもしれないという微妙な気持ちで泉さんの部屋の前に辿り着いた。
インターホンを押す。
ピンp……
この遮断された音も、何かが関係しているのだろうか。気になる。
すぐにガチャッ、と音がした。
「……来てくれてありがとう。ついてきて。」
「はい。」
別の場所に移動するという泉さんの後ろを歩く。
変な宗教とか、人気のない場所に連れられて危ないことをされたらどうしよう、という不安が生まれた。
「……ここだよ。」
数分歩いた先に案内されたのは、白いマンションだった。少々劣化が入っているようにも見える。
「ここって、何なんですか?」
「…とりあえず入って。」
その言葉の指示に従い、俺たちはエレベーターで3階までのぼった。終始お互い無言だった。
やがて『302』と書かれた部屋の前で泉さんは立ち止り、ポケットから鍵を出した。
鍵を回してドアを開ける。
「どうぞ」
「ありがとうございます、お邪魔します。」
促されるまま俺は先に入った。
靴を揃え、リビングと思われる場所に進んでいった。
「……綺麗な部屋ですね」
整理整頓がちゃんとされている。この部屋が泉さんのものなのだとしたら、泉さんは几帳面な性格のようだと思った。
「そこのソファーに座って。飲み物は何も出せないけど。」
「ありがとうございます。お構いなく。」
テーブルをはさんで向こう側のソファーに俺は腰掛けた。
泉さんは俺が座ったところと反対のソファーに座った。
「……この部屋に誰かを呼んだのなんて、すごく久しぶりだな。」
泉さんが懐かしそうに微笑んだ。
「…さて、本題に入ろうか。…この部屋には、基本的に僕が住んでいます。氷室くんも知ってる、少女E……英美と僕は、知り合いでした。」
「え…!?」
あまりにも衝撃的だった。
泉さんは、ゆっくりと自分の記憶を話してくれた。




