第25話 あれ
そろそろ12時になっただろうか。
まずは、「見えてはいけないもの」について知ろうと思った。
ベッドで横になりながら、薄目でドアのほうを見る。
(本当に『見えてはいけないもの』が存在するのか…?)
頭では分かっていても、信じたくない気持ちから半信半疑になる。
その時だった。
「ア……アァ……ア」
(っえ……)
その声は、比較的近くから聞こえた。
まるで、俺の耳元で囁くように。
俺は瞬時に目を閉じた。
(……俺はいったい何を恐れているんだ?)
耳の奥で心臓が鳴る音がする。
「アァ……ア」
音とともに声も聞こえる。
しかし、今度はドアの外から。
恐る恐る薄目でドアの外を見る。
「…っ」
………白い服に、長い黒髪。
でも、どこか様子がおかしい。
ふらふらと歩いている。
後ろ姿を見ただけなのに、頭のどこかで危険のアラームが鳴っているようだ。
(ひとまず、確認は完了)
俺はバクバクとなっている心臓と共に、眠りについた。
見たものについては、考えないようにした。
□
大学が終わった後、俺は大橋さんの家に寄っていた。
新聞記事を見せる。
「これが、英美さんの事件ですよね……?」
「…そうだよ。」
大橋さんは窓の外を見ながら言った。
「……本当に、悲しい事件だよ。あんな素晴らしい子が、本来温かい場所である家庭に傷つけられた。それも、くだらない理由で。」
「…俺もそう思います。」
仮に。そう、仮に「見えてはいけないもの」がその英美さんだとして、今のマンションでの行動は素晴らしいものなのだろうか。
それから少し話をして大橋さんの家をあとにした俺は、メッセージを打った。そして、送信ボタンを押す。
…………英美さんの友人だった人に会うために。




