第10話 氷室視点
俺たちが宮本の部屋に行った数日後、宮本はおかしくなった。
ひとりごとをぶつぶつとつぶやいていて、大学には大きな荷物を持ってきていた。
ごめんなさいごめんなさいと言っていたのがかろうじて聞き取れた。
美月さんが話しかけに行っても、助けてと縋りつくか、気付かないかの2択だったそうだ。
(ああ、ダメだったんだな)
きっと、宮本はあの部屋のおかしい部分に触れてしまったのだろう。
宮本が大学に来たのはその日が最後だった。
宮本の行動は、入居条件の
‘‘寝室越しに見えてはいけないものと目が合った場合は、次の日明るいうちに引っ越してください‘‘
に当てはまっている。
でも、どうして変わってしまったのだろうか。
俺と美月さんは管理人の泉さんという人に電話して、宮本について聞こうとした。
「あー、宮本さん?いやぁ、なんか夜逃げみたいな状態なんだよね。家具とかまだ残ってるけど、お金とか、スマホとか大事なものは部屋にないんだよ。」
「そうなんですか…」
「今回の子は長く保つと思ったんだけどねぇ」
その言い方が、何か引っかかった。
「っ、私!その部屋、住んでみても良いですか?」
突然美月さんがそう声を上げた。
「えっ、……正気?危ないから、やめたほうがいいって…!」
俺は慌てて止める。
「私、こんなに長続きした女子の友達は叶恵ちゃんが初めてだった。優しくしてくれて嬉しかった。だからっ、知りたいの。あの部屋のことを。」
「……」
俺は何も言えなかった。
「えぇ~?家具とか残ってるけど、それでいいなら、来週から入居可能だよ~。」
「お願いします!」
それから会う約束をして、電話を切った美月さん。
「っていうことで、私、あの部屋に住むことになった。絶対、解き明かすから。あの部屋のおかしい部分を。」
「……やめない?今からでも間に合うから。俺でさえ、何が待ち受けてるのか分からないのに…。もう、友達がおかしくなっていくのを見たくないよ…。」
「やめない。大丈夫。私、そんなに危ないことはしないから。」
美月さんは、そう言って、指切りをしようと言った。
その笑顔には逆らえなかった。




