【S2】 おじいさん執事のぼやき
先々代のころから仕えている執事さんのぼやき
本日は最初からココット様が険しい顔でなさるので旦那様も
警戒されるお顔になりいつもの和やかな空気も今日は終始張り詰めた
ものになり周りの者もお二人の動向を固唾を呑んで見守っておりました。
「本日の報告は以上です」
いつもは笑顔を絶やさないココット様は
旦那様を少し眉間に皺を寄せながら見つめられ報告なさりながらも
何かお考えのご様子でした。
「今日は、何かあったのか?」
旦那様が居心地悪そうに問いかけられるのですが
当のご本人は「いえ…」と口ごもりながらも集中して
何かを考えておられるのかそれ以上口にされなくなりました。
いつもの旦那様ならお部屋にお戻しになるのですが
ココット様の変化が気になるご様子で
次のお言葉を待っていらっしゃるようでした。
ココット様の中では色々考えをめぐらされているようで
何かを発しようとしても黙りこみ、そしてまた考え込まれるを
繰り返しておいででした。おおよそ予想はつきますが…
昼ごろココット様のお部屋から外に十分聞こえるくらい
大きなお声でお嬢様が泣いてらっしゃる様子が窺えましたので
お嬢様付きの侍女サナに聞きましたところ今後の不安などを
ココット様に吐露しているところだと言っておりました。
レフィリアお嬢様はお小さいころから大変聡明なお方で
出自が特殊なせいかとても周りに気を配られるご令嬢でいらっしゃいます
ですがそのせいか周りに気を遣わせまいと悩みなどを
お心にためこんでしまいしばしば体調を崩される様子も見受けられました
今回のお誕生日のお披露目もお見合いの意味合いも兼ねていると
お嬢様はお察しなのでしょう日に日に食欲をなくし塞ぎ込んでいる、と
報告を受けておりました。
しかし、我々使用人に遠慮をされているのか距離を置かれる
お嬢様にサナやミセス・フェブリーの問いかけに応じようとはされず
口を閉ざし寝込まれたままだったそうです。
そんな中お嬢様がとても信頼されているココット様とのお茶会の折
ココット様に不安を口にしあふれた感情が止まらず
あのようになったのでございます。
本当にココット様は不思議なお方です。
飾らず真っ直ぐに行動される愛情あふれる思いやりのあるお方。
旦那様をはじめ皆がその朗らかなお姿に励まされ好印象を抱いております。
そしてお嬢様を妹のように護り可愛がっておいでのココット様のこと
お嬢様の今後について旦那様にお聞きしたいのでしょうが
ココット様は真っ直ぐに行動されますが大変奥ゆかしいお方
よそ様のことに踏み込んではとお思いなのでしょう
「………ぁ……」
なかなか言い出せずにいたココット様が旦那様を見ながら
やっと一言でましたが、やはり言い出しづらいのか俯かれました
大丈夫でございます!
旦那様はココット様のことなら何でもお許しになるはずです!
旦那様のココット様に対する想いの強さに
常にお側にいる我々も大変驚いております。それくらい大切にされております
お小さいころから存じ上げる旦那様の女性に対する…申し上げにくい
対応からすると目の前のお方が全くの別人かのように感じるのでございます。
(ホホホ…これはこれは皆々様にはご内密にお願いいたします)
「…………あの…」
「どうした?」
旦那様は、ココット様が極力言葉に圧力を感じないようにと
優しくお声かけをされますが内容が内容なだけに
ココット様は今ひとつ踏み込めないご様子。
旦那様も少しくらいなら事情を知っているという内容をにじませながら
問い掛けられるとココット様もお話ししやすいのに…
と使用人として口を出すのをこらえつつ一向に先に進まない状況を
じれったく感じておりました。
「……………あの…申し上げていいのかわかりかねますが…ぅんと…ぅぅ…
あの…あのっ…レフィリア様のお誕生日パーティは…ただのお披露目、
………ですよね?」
「勿論だが。彼女が何か言ったのか?」
「いえ…何かいろいろな情報が出回っているらしくて
色々混乱されていて、も…もし…もし!よろしければ
私の家に招待したいのですが!」
「……………?」
「レフィリア様は、ご自分のことで色々お考えのご様子ですが
もしっ、もしもですよ!?
もしもレフィリア様のことで…えーその…あのっ、もしもですよ?
そのウィルソン様の、そのプライベートなことがその…うー。
…………………………ちょっと問題なのならウチで引き取る…は
イキナリすぎか。あの、エルベリーにちょっとお泊りにくるとか
そういうのは出来ませんか?」
ただの“お嬢様の縁談の有無”を聞きかれると思っていた周りの皆は
“お嬢様の存在が旦那様の私的交際の弊害になっているから
エルベリー家に長期逗留させる”という提案に驚きを隠せないようだった。
旦那様も顔をこわばらせより張り詰めた空気で問い掛けます。
「レフィリアが言ったのか?」
「違います!違います!!私がそう思っただけです!」
怒りをにじませ重く低い声を出される旦那様に
ココット様は立ち上がり首や手を振りながら訂正されているようですが
たぶん違うと思います。ココット様はご存じないので仕方ないとはいえ
意中の方である貴女様から、自分以外の女性と交際・結婚されるだろうから
特殊な事情を抱えているお嬢様と一緒に実家に帰ります。と
旦那様を異性としてまったく意識していない
ご発言に苛立たれているのだと思います。
しかし、旦那のお気持ちを一切知らない
(旦那様もお伝えしてませんし周りも口外することを禁じられておりますので…)
ココット様は、お嬢様と一緒にエルベリーに行きたい。
彼女は外に出て自然に触れ合うことに興味があるようだからと
数ヵ月後に迫るココット様のお勤めの任期満了後の話について
一生懸命語られております。
さらに険しい顔をされた旦那様がおもむろに立ち上がり
その話しはまた後日に、と話しを切られました。
「ですが、もうすぐこの仕事も終わってしまいます。
できれば私と一緒にエルベリーに来ていただいたほ…」
「後日と言ったはずだが?」
「…っ!」
「少し訂正するが、私のプライベートにレフィリアは関係ない。
また彼女の意思を無視して強引に嫁がせるつもりもない。
今日はもう遅い、トールマン彼女を部屋まで送り届けろ」
「畏まりました、ではココット様。参りましょう」
「……………ウィルソン様…あの…
先ほどは失礼いたしました。お先に失礼します」
何かまだ仰りたそうなココット様と、
何故かまだ険しい空気がとかれない旦那様。
普段の旦那様なら言いよどむ女性には背を向け相手を遮断しますが
まだお心晴れずなココット様を気遣わしげに横目でご覧になって
ドアに向かうココット様に…
「ココット嬢…おやすみ」
といつもの挨拶をされました。
(そう、いつも少し甘さを醸し出しながらお互い“おやすみ”を
言われるのですよ。“ご苦労”とか“お疲れ様でした”とか相槌ではなく…
おかげで毎回むず痒いです…旦那様方には内緒ですが)
すると、ココット様もはにかんだ笑顔で
「おやすみなさいませ、ウィルソン様」
と仰り退出されました。(あぁ、痒…コホン、何でもございません)
静かな廊下を歩く2人の足音。
やはり先ほどのことがまだ気がかりなのかすっきりしないご様子。
「トールマン、少しいいかしら」
「はい、何でございましょう」
「最近、兄様からのお返事がないのですが…まだ届きませんか?」
その話か…
「はい、まだ」
「もう次のお仕事の話とか、レフィリア様のこととかお話ししたいのに
ちゃんと迎えの馬車をよこしてくれるのか…連絡ないと動きようがないのに」
「では、エルベリー家からお手紙がきたら
すぐにココット様にお届けにあがります」
「お願いします…」
少しほっとされたようなココット様をお送りし
執務室へ向かった所で従僕からある客が来たことが知らされる。
深夜の来客を執務室へ案内するよう玄関へと向かう。
これで、決定的になってしまった。
あまり深く語れないのに傍目から見たバージョンで書いたら
あっさりしすぎて泣けてきた。
先々代のころに見習いとして入り先代のころから本格的に仕えた人なので
当主ウィルソンのことを子供のように思っています。
普段はウィルソンの身の回りや屋敷内の運営を総括しています。
お仕事の使用人はまた別ということで。伝言くらいはしますが。
ココットは安定の話しぶっ飛ばしバージョンでお送りしています。
結婚の有無の話しなのになんでレフィリア引き取ります宣言になってんだか…
早くくっつかないかなー。
(競走馬ペース上げたいのになまけものペースで泣けてくる)




