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三十九話 おせなか、ながします!

(^3^)

 午後のひと時を終えた二人は、楽しげに手を繋ぎながら帰宅した。夏に向かう時期という事もあり、日が落ちる時間になってもやや暑い。二人とも額に汗を浮かべ、体に服が張り付いている。

 

「はあ……お風呂入ろっかなあ」

「セルマも! セルマもいっしょにはいるー!」

「一緒に!?」

 

 急にどぎまぎとし出すメナド。いくら同棲しているとはいえ、実質幼女に手を出すのはいよいよ本格的にヤバいのでは無いだろうか? そんな危惧が心中に渦巻く。

 

「えっ、えっと……」

「だめなの……?」

 

 下から壮絶な威力をもって叩き付けられる、弱々しい上目遣い。メナドの返答は、半ば最初から決められているようなものだった。

 

「はいるー!」

「やったー!」

 

 玄関からとてとてと脱衣所まで直行し、ドアを開けたメナドはそのまま乱雑に服を脱いで籠に放り込む。対してセルマは、うまく服を脱げずうごうごともがいていた。

 

「あんたホントぶきっちょよね……それっ」

 

 見かねたメナドは、ボタンを一つ外して一気にすぽーんとひっぺがす。その振動で、その歳にしては十分に大きな二つの肉がふるふると踊った。

 

「……やっぱり大きい……」

 

 ふにゅん。

 

「ひにゃっ!? もー! なんできゅうにさわるの!」

「あやかるだけ! あやかるだけだから!」

 

 もにもにもにもに……。

 

「なんで、なんでその歳で手のひらに乗っかる様なブツが手に入るのよ!」

「うええ、おねえちゃんこわいぃ……」

 

 その後脱衣所で十数分間、ぎゃあぎゃあと喚きながら乳を揉み、揉まれ続ける声が響く。そしてふと、自分がしていることの虚しさを実感したメナドはようやく手を止めた。

 自分の成長期はとうに終わっている。目の前の夢に手を伸ばしても、今さら何が起きようはずもない。自分を恨めしげに睨みつける幼女の視線という代償を払い、平静を取り戻した彼女は一言、口を開いた。

 

「おふろ、はいろっか……」

 

 弱々しく、それでいてどこか吹っ切れた様な声色。のそりと立ち上がり、からからと浴室を開いて白い湯気の立ち上る室内へと足を踏み入れた。

 そして、身体を洗う為に腰掛けに腰を下ろす。それには必然、床を見下ろす動作が加わる。

 

 すとーん。

 

「……」

 

 濡れた床が広々と見える。セルマ程の成長があれば、この景色ももっと違ったものになるのだろうか。そんな事が脳裏によぎった瞬間、背中にこそばゆい感覚が走った。

 

「のわ!?」

「えへへぇ、さっきのおかえし」

 

 こそこそと背後へ忍び寄ったセルマが、背筋をついついっと撫で上げているのだ。細く柔らかな感触に、思わず身悶える。

 

「ふふん、おねえちゃんのおはだすべすべ、きもちいい……」

 

 いたずらっぽく笑いながら、いつの間にか周到に用意していたタオルと石鹸を擦り合わせ、くしゅくしゅと綿の様に泡立てる。

 そしてそれを、メナドの白く透き通る様な背筋へと押し付けた。

 

「くひひっ、おせなかごしごししますね〜」

 

 こしこし、こしこし。

 

 肌を傷つけない様に、優しく優しく泡の表面だけで撫でる様にして背中を洗う。こそばゆい以上の、別の感覚がメナドを背中から包み込んだ。

 

「ひっ……ひふぅ……」

 

 何これ、何これ……! き、気持ちいい……! 絶妙な力加減、痒い所を的確に突いていく感じ! 今度から毎日セルマとお風呂入りたい……!

 

 恍惚に浸っただらしない顔を晒す。目の前の鏡にそれが映り込むが、そんなことを気にしている余裕など彼女には無い。セルマが自分の背を洗い、それが滅茶苦茶に気持ちいい。それだけが、彼女の脳を占めていた。

 

「ふんふんふ〜ん……」

 

 背中を隅々まで綺麗に洗い、鼻歌混じりに泡を湯で流す。排水口に飲み込まれていく彼らを見て、このひとときも終わってしまうのか、と少しの寂しさを覚えるメナド。

 

「つぎは、あたまもどうですか〜?」

「はっ!」

 

 萎みかけていた心が、再びむくむくと元気を取り戻す。

 

 ——そうだ、体を洗ったら次は頭! 単純明快にして、至極当然。まさか、こんな当たり前の事が幸せに感じる日が来るとは思わなかった……!

 

「はーい、しゃわしゃわ〜」

 

 頭に湯を浴びせ、髪を湿らせてから、シャンプーを手に乗せて髪の毛を撫で付ける。ちなみに、このシャンプーは二人で選んだものだ。

 

「おいしょ、おいしょ……」

 

 腕の長さの事もあって正直洗えてない所も多いが、そこは自分でさりげなくわしゃわしゃすれば良い。

 ただ自分の髪の間をセルマの指が通り抜けて行く、その感覚を噛み締める事に全神経を注いだ。

 

 目を閉じれば、さわさわとこそばゆく、もどかしい指の動きと、一生懸命な息遣い。いつもおっとりとして余裕のあるセルマからは考えられない必死感。最高か。

 

「おねえちゃんのかみ、まっくろくてきれいだねえ」

 

 不意に、メナドの髪を一房手にとってじっくりと眺める。その一分の混じりっ気もない黒は、まるで夜の闇をそのまま糸束にしたようだ。

 

「あんたって、私の事何でも褒めてくれるわよね」

「え? そうかなあ」

「そうよ。初めての薬草摘みの後の事、覚えてる? あの時、頑張ったねって言ってくれたの、嬉しかった」

 

 背後から聞こえる、息を飲む微かな音。セルマは恥ずかしがる時、こうやって押し黙る癖がある事をメナドは知っている。

 

「は、はい! おねえちゃんのばんおわり! つぎはセルマのばん!」

 

 急に声を上げると、とてとてとメナドの前に回って腰掛けに尻を落とし、背筋を伸ばした。

 

「ん、じゃあ背中からね」

 

 手渡された泡の切れたタオルに石鹸を擦り、再び泡だててから目の前の白く、湯気で上気したつやつやの肌に触れる。

 

「あはは、セルマの体、あっちこっち小さくて可愛い。あんた、定期的に子供になりなさいよ」

「や、やだー! そしたらおねえちゃんのこと、おひめさまだっこできないもん!」

「え、お姫様抱っこ?」

「そうだよ! おねえちゃん、たまにソファでねちゃうでしょ。そんなときはわたしがだっこしてね、ベッドまではこんでるの!」

「知らなかった……何かいつのまにか寝てる所違うとは思ってたけど……」

 

 突然明かされた真実に、湯当たりしたように顔を赤らめる。しかし、それでめげる彼女ではなかった。

 

「そりゃ!」

「ひえっ!?」

 

 無防備な両脇の下に両手を差し込み、自分の膝の上へと引き込んで抱え込む。きょとんとした顔のセルマと、したり顔のメナドの目が合った。

 

「ふふん、どお? 逆に抱っこされちゃう気分は」

 

 驚いて硬直していた顔が、次第にゆるゆると緩んでいく。そして、薄い胸に体を押し当てた。

 

「……やっぱりセルマ、たまにはちっちゃくなっちゃってもいいかも」

「え?」

「だって、おねえちゃんのおひざのうえね、すっごくおちつくの」

 

 自分の胸の中で無防備に力を抜くセルマに、今までとは違う言い知れない感覚を胸の内に覚える。気がついた時には、彼女のぷにぷにの頰に手を添えていた。

 

「あっ……えへへ、あったかい」

 

 頰に添えられた手に小さな手を重ね、その温もり、感触を確かめるようにすりすりと頬擦りをする。そして、少し恥ずかしそうにおずおずと口を開く。

 

「えっとね、わたしね。おねえちゃんのことだっこしてるとき、いつもしてることがあるの。こんどは、それをわたしにしてほしいなって……」

「ちょ、わたしが寝てる間に何してるのよ」

 

 言っている間に、セルマの唇が少し尖る。

 

「えっと、ち、ちゅ……」

「ちゅ?」


 あまり上手く聞き取れないメナドは、耳を震える口元へと寄せた。

 

「なんて?」 

「んん〜……ッ、もう!」

 

 じれったそうに声を上げると、近寄ってきた頰に尖らせた唇を押し付ける。ちゅっ……と微かに唇が鳴ると、メナドはやれやれと苦笑をこぼした。

 

「へえ、あんた私の寝込みを襲ってこんな事してたんだ?」

「だ、だってかわいかったんだもん! それにほっぺたにだから! それで、ええと——」

 

 続けて何かを言おうとする彼女の顎を指で掴み、くいっと上に向けて角度を整える。

 

「今度からはこうしなさい」

 

 そう言い放ち、唇の先同士を軽く触れ合わせた。

 

「んふっ!?」

「んっ、柔らかい……」

 

 幼く、柔らかな感触を楽しむと、満足げな笑みを浮かべて顔を離す。そしてセルマの触れ合った部分をそっと親指でなぞり、話し出す。

 

「遠慮なんかしなくていいわ。その代わり、あんたも今度から寝る前には注意する事ね」

「……えへへ、なににかなあ」

「へえ、まだ分からない? じゃ、何度でも分からせてあげる」

 

 その後、風呂場で湯にも入らずしてのぼせ上がるまで、満足の行くまで触れ合った。そして湯船の中でも思う存分触れ合い、浴室から出たのは一時間後の事になった。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

良ければ、評価やレビューなどガンガンお寄せください。

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