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Lilly8. 敵と味方の分水嶺

やることが……やることが多い!

だいぶ遅れてしまいました。緩やかな投稿ペースになると思いますがどうぞよろしくお願いします。

「ぜ、全世界……ですか?」

「そうだ。これは先日本ギルドの全支部に送られた通達だ」


 エルドさんが一枚の紙を机の上に置く。そこには、プトレ皇国名義でのギルドに対する依頼。そこには私の名前と似顔絵が大々的に載せられていて、捕らえた者への報奨金もとてつもない額となっている。そして協力者の欄にはアーシャ姉の名前も書かれていた。


「リリシアナにも当然この情報が伝わっている。そして王様の勅令でもしもリリシアナ領内で二人を見つけた場合はすぐにリリエまで行くようにと言われているんだよ」

「つまりリリシアナにいる限りアルセーナの自由は保障されると」

「当然だ。プトレの敵は私たちの味方だからね」

 

 どうやらリリシアナとプトレが争っているという話は本当のようだ。アーシャ姉のリリシアナへと向かう判断はどうやら正しいかったのだと考えると、アーシャ姉への憧憬の念が強まる。


「それにしてもこの文面じゃアルセーナちゃんほぼ魔物扱いじゃないですか!」

「そこまでして狙われるって……よっぽど何かがあるんだろうね」


 エルフィナさんとミオが同じく通達を見ながらどこか憤慨した口調で呟く。私は何もしていない。ただ勇者さまといっしょに冒険をしていただけのはずだ。村を焼かれ、挙げ句犯罪者扱いされて後ろ指を指されるというのは到底変な話だと思う。


「とにかくまずはここでゆっくりしていくといい。プロリリの住民を代表してわしが歓迎するよ。後でわし達の家に招待しよう」

「よろしいのですか?」

「もちろん。エルフィナさんのご友人ということであればもてなさぬ理由がない」

「その提案、快く受けさせていただきます」

 

 エルドさんがほっほと笑いながらそんな提案をしてくれる。アーシャ姉もエルドさんに対する警戒感はないようで、素直に誘いに応じた。


「それともう一つお願いがあるのですが」

「なんでしょう? この老いぼれにできることがあればなんなりと」

「私とアルセーナを冒険者として登録してほしいのです」

「……ふむ、できなくはありませんがいくつか問題がありますな」


 エルドさんが二本の指を立てた。


「ひとつ、名前。ひとつ、戦闘技術。名前に関しては……まぁ想像通りですよ。データが共有される以上、そのままの名前を使えば皇国に居場所がバレてしまう。ここに関してはわしが何とかしましょう。ですがもう一つ、戦闘技術。これはどの冒険者にも課せられるミッションですからわしにはどうにもできないですな」

「そこは問題ありません。こう見えても鍛えてますから」


 アーシャ姉が自信満々といった感じで私に目配せをしてくる。私もアーシャ姉に同調する形で声を上げた。


「はっ、はい! 私もちゃんと戦えます!」

「うむ。では早速じゃが戦闘技能のテストといこうかの。ミュゼカ、案内してやってくれ」

「わっかりました! では皆さん、こちらへどうぞ!」


 ミュゼカさんに案内されながら私たちは街の中を歩いていく。案内された場所は、商店が立ち並ぶエリアを抜けてすぐのところにある大きな邸宅だった。


「あっ……ここって」

「はいエルフィナさん。アタシたちの家……ママとの大事な思い出が詰まってる場所です」

 

 リュミエラという名前の女の人が確かエルフィナさんのお師匠様だったはず。エルフィナさんにとってはずっと見慣れた場所だったのだろう。目をキラキラさせながら、辺りを見回していた。


「どこも変わっていませんねぇ……」

「はい。アタシたちが手入れしてますから」

「懐かしいなぁ……ここでお師匠様とたくさん稽古したんですよねぇ……」


 邸宅の前には広々とした芝生の広場があり、戦闘技術を磨くための鍛錬の舞台としてはもってこいと言える。ミュゼカさんがこちらに向き直ると、ニコニコした笑顔を見せながら私たちへと優しく話しかけはじめた。


「アーシャさんとアルセーナさんは今からアタシと戦ってもらいます。勝つ……というのはやり過ぎですけど、ある程度戦えるかどうかを見極めさせてください。冒険者として大事なのは『生き残ること』です。時には尻尾を巻いて逃げることも大事ですからね」


 確かにそうだ。私は生き残って、もう一度ユーヒ村へと戻らなければならない。その為には自分自身を守るだけでなく、仲間を守るための力が必要だ。それは単なる武力ということではなく、撤退の判断を迅速に下せるかどうかというのも大事なことなのだろう。


「ではまずアーシャさんから」

「……武器は何を使ってもいいのかしら」

「いいですけど死なない程度にお願いしますね? 降参の意思を表明したら攻撃は絶対に禁止です」

「問題ないわ」


 そう言ってアーシャ姉が剣を抜く。その剣を見てミュゼカさんが興味深そうな顔をしている。私から見る分には普通の剣のはずなんだけど……なにか変わったところでもあるのかな?


「私はこの剣で戦うわ。魔法の行使はしない」

「見た目によらず武闘派ですね……では私も」


 瞬間、無の空間からミュゼカさんの手に剣が握られた。だが、その剣は少し変わっている。長さこそアーシャ姉の剣ぐらいしかないが、剣には色とりどりの石がはめ込まれているのが見て取れる。……普通の剣じゃないと直感的に理解した。アーシャ姉の戦い方を見て何か対策を練る必要があるかもしれない。


「……魔法剣、存在していたのですね」

「これはママの形見なんですよ。カッコいいですよね」

「ええ。お互い悔いのない戦いをしましょう」

「死なない程度でお願いしますね!」


 こうしてアーシャ姉の試験が始まるのであった。

14キロの評価Ptによって作者 復活ッ!

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