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ゲーマー幼女 ~訳あって攻撃力に全振りする~  作者:
第二回イベント『バトルロイヤル』編
98/147

「いや、なんかおかしくないですか?」

「今度はこっちからいくよぉ!」


【沙南がスキルを使用した。ソニックムーブ+1】


 ザッ! と背後に回り込んで、私は拳を構えた。


【沙南の攻撃】


「だからソニックムーブは効かねぇよ!」


 背中を狙った一撃は寸でのところで避けられた。


「お返しだ!!」


【シンギの攻撃】


 飛び込んだ私に、お父さんが剣を振り下ろす。


【沙南が詠唱を開始した】


 すぐに攻撃モーションを解除して、お父さんの攻撃を回るように回避する。

 そして剣が目の前を通過した直後、私はまた拳を振るった!


【沙南の攻撃】


「甘ぇよ!!」


【シンギが詠唱を開始した】

【シンギの攻撃】


 お父さんも詠唱キャンセルを使用して、私の攻撃をまた回避する。そのまま振り下ろした剣を引きずるようにして切り上げる攻撃を飛ばしてきた。


【沙南が詠唱を開始した】

【沙南の攻撃】


 横に跳んで回避しながら、そのまま攻撃を仕掛けてみた。


【シンギが詠唱を開始した】

【シンギの攻撃】


 体を曲げて、私のリーチの外から突きを放ってくる。


【沙南が詠唱を開始した】

【沙南の攻撃】


 またそれを回避して攻撃を仕掛ける。


【シンギが詠唱を開始した】

【シンギの攻撃】

【沙南が詠唱を開始した】

【沙南の攻撃】

【シンギが詠唱を開始した】

【シンギの攻撃】

【沙南が詠唱を開始した】

【沙南の攻撃】


 繰り返す。何度も何度も攻撃が当たるまで繰り返す。

 まるで演武のように、絶え間ない攻めと回避を高速で繰り返していた。


「ここだぁ!!」


 その攻防を見切ったのは私が先だった。

 私の中で『これならいける!』という直感のまま、体を前に押し出すと、


【沙南のアビリティが発動。ブロッキング】


 バキン! という音が鳴ってお父さんが仰け反っていた。


「しまっ――」


 動けなくなったお父さんが声をあげる。そんなお父さんに、私は体を向けて地面を踏みしめた!


【沙南が大技を使用した。奥義、咆哮牙・極】


「これで終わりだよっ!!」


 防御力無視。確実にダメージを与えられる一撃を、全力で繰り出した!

 お父さんを倒せるだけの大技で、もうデッドリーキャンセラーも使い切っている。これが本当に最後の一撃になるはずだと思っていた。

 ……しかし、私の攻撃は直撃の瞬間に止まっていた。

 何が起きたのかわからない。けど、金縛りにあったように体が動かなくなっていた。


「な、何、これ……」


 仰け反っていたお父さんが元に戻って動き出す。固まったのは私だけだった。

 そんな状況の中で、目だけでログを確認する。すると――


【シンギがスキルを使用した。タイムストップ】


 ――そう書かれていた文字に、私は全てを理解した。

 時間を止められたんだ。イベント中にクランで誰か一人だけが使えるという、最悪のスキルを。


「やれやれ、結局このスキルを使う羽目になったか……」


 お父さんがため息交じりでそう言った。

 そしてそのまま私の右側に移動をして、剣を構える。


「くぅ、動け、ない……」

「当然だ。これはガチャから出るアンチアビリティがないと対処できない。課金できないお前じゃ攻略できないんだよ」


 そうして構えた剣を高々と振り上げた。


「言ったろ? 無課金じゃ課金してる奴には勝てねぇって」

「ん~! ん~!!」


 必死になってもがくけど、体はビクとも動かない。

 それでもなんとか動かそうと力を込めた。


「沙南、チェックメイトだ」


【シンギが特技を使用した。爆炎破斬】


 お父さんの剣が燃え上がり、振り下ろされた一撃が私の体に直撃した。

 ズガンという爆発が発生して、その衝撃と爆炎で私は大きく吹き飛ばされた。


【沙南に2089万5540のダメージ】


「っ……わあああああああ」


 ゴロゴロと地面を何度も転がる。そうしてようやく止まった時に目を開けると、私のHPゲージはドンドン減少して、空っぽになるところだった。


【沙南の命の欠片が砕け散った】


「ほう? 復活アイテムを持ってたか。まぁ、課金装備はトレード出来なねぇが、課金アイテムはトレード出来るからな。仲間から貰っていたわけだ」


 そう。これはルリちゃんが私にくれた物。というか、び~すとふぁんぐのメンバーは全員ルリちゃんからこの復活アイテムを渡されている。


「くぅ……まだ、だよ……」


 私はふら付きながらも立ち上がった。


「いや、チェックメイトと言ったろ。もうお前に勝ち目はねぇ」

「なんで!? まだ終わってない!!」

「わからねぇか? お前が俺にダメージを与えたのはその膨大なコンボ数があったからだ。攻撃を喰らった今、お前のコンボ数はゼロに戻った。その分だけ攻撃力は激減してんだよ」


 そう、だ。アビリティのコンボコネクト。この能力は自分がダメージを受けるまでコンボが続くという効果だった。だからもう白紙に戻ったんだ……

 ど、どうしよう。ここは一旦逃げた方がいいのかも……

 私が周りを見渡して、逃げられるかを確認した時だった。


【カズがスキルを使用した。結界陣】


 突然光の壁が私とお父さんを囲って閉じ込めてしまった。

 その広さは25メートルのプールくらいある。


「こ、これは……」

「カズのスキルだ。コイツはお前を逃がさないために連れてきた。MPの消費が激しいから、ギリギリまで使わせなかったけどな」


 今、私が逃げようかと迷っていたのが読まれたんだ。


「この結界は燃費は悪ぃがその分強固だ。中からはまず壊せねぇよ」

「け、けど、まだだよ! またコンボ数を溜めれば勝ち目はあるもん!」


 そう、例えダメージを与えられなくてもコンボは溜まる。スキルで『コンボプラス』を使っているから、60コンボ溜めるのに30回ノーダメージで攻撃を当て続ければいいんだ!

 それでそれで、大技のリキャストタイムが回復するまで逃げ回って、また使えるようになればいいんだよ! そう、まだまだ終わりじゃない!

 私は足を広げて拳を構えた。


【沙南がスキルを使用した。回復功】

【沙南がスキルを使用した。回復功】


「諦めが悪ぃなぁ。ま、『自分に都合の良い解釈でもいいから諦めるな』って教えたのは俺か」


 取りあえずHPを全回復させる。

 そう、最後まで諦めない。まずは一発……当てる!


【沙南がスキルを使用した。ソニックムーブ+1】


 回りくどい事はしない。最速の一撃を正面から当てる!


【沙南が特技を使用した。咆哮牙】


 全力で駆け抜ける勢いの一撃を、お父さんのお腹へ直撃させた。

 バチンッ!!

 その瞬間、私の体がビクンと跳ね上がる。何が起きたのかわからなかった。


「そういや俺が最初に使った『ディフェンスバウンド』ってスキルな、アレは相手から受けるダメージをゼロにすると、衝撃を跳ね返して仰け反らせる事ができるんだよ」


 そう言って、お父さんは剣を横にして腰の隣へ持っていく。

 ま、まずい。私、仰け反らされたんだ……


【シンギが大技を使用した。秘技、真空破斬】


 抵抗する間も無く、ザンッと煌めく一撃が私の体を突き抜ける。


「ぁ……ぅ……」


 ノックバックが発生して、五、六歩後ずさるとガクンと体が崩れ落ちた。

 膝を付き、そのまま地面にうつ伏せの状態で倒れ込んだ私は、もう体が動かなかった。


【沙南に1億0647万8420のダメージ】


 目に映るのは、そんな膨大なダメージが残るログだけで……

 ああ、私は負けちゃったんだ……。でも、仕方ないよね。だって相手はお父さんだもん。


「シンギさん、お疲れ様です。マジパネェっす!」

「おう! カズも付き合わせて悪かったな」


 これ、勝負はどうなるんだろう。私達勝てるのかな……? また一緒に家族で暮らせるのかな……?

 やっぱりみんな一緒がいいよ。だって家族だもん。幸せだったんだもん。だから私、ここまで頑張ってきたんだもん……


「次はどこに向かいます?」

「あ~……沙南が逃がしたチコリーヌって奴を追うか。確かFエリアに向かったはずだ」

「了解です」


 そう言えばお父さんと本気で対戦したのっていつ以来だろう。

 久しぶりの対戦だから懐かしくて、ちょっと嬉しくて……でも、悔しい!


「ん? あれ?」

「どうした? 早くFエリアに向かうぞ?」

「いや、なんかおかしくないですか?」


 お父さんは確かに強いけど、この戦いは負けられなかった。負けちゃいけなかったんだ! 負けても仕方ないはずなかったんだ!

 だからやっぱり、すごく悔しいよ!


「何がおかしいって?」

「いやだって、戦いに負けたら光になって消えるじゃないですか。なのに娘さん、まだ倒れたままですよ? ログにも戦闘不能宣告が出てません」

「はぁ? もしかしてバグったか?」


 ――ジジッ……パリッ


 嫌だ……嫌だよぉ。こんな結果納得できないよ!

 だって家族なのに、ずっと一緒だったのに、なんでバラバラにならなくちゃいけないの? 

 お父さんもお母さんも、私を無視して話を進めてさぁ、みんな勝手だよぉ!

 だから私が引き戻さなくちゃいけなかったんだ! 私がバラバラになったもの全部戻さなくちゃいけなかったんだ! なのに負けちゃって……。凄く悔しいっ!!


「うぅ……うわあああああああああっ!!」


 ――ジジジ、バリバリバリバリバリバリ!!


 何かけたたましい音が鳴り響いた。

 電気がスパークするような音。何かを引き剥がすような音。

 そして私の目の前は真っ白になって、フワリと体が浮かび上がる。……これ、私自身が光ってるの!?


「なんだ!? 何が起こった!?」

「わかんねぇです。マジパネェっす!!」


 お父さん達が慌てふためいて、何かを騒いでいる。私はそんな二人を少し上の方から見下ろしているのだった。

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