「覚悟は決まったようだな。じゃあ来いよ!!」
「へっへへ、久しぶりの対戦だなぁ沙南」
武器を構えたままお父さんがそう言った。
「そうだね。けど約束だよ。私が勝ったらお母さんにごめんなさいしてもらうから!」
「お前が勝ったらじゃなく、クランが勝ったらだろ」
お父さんが呆れ顔になる。けどすぐに真面目な顔で話し始めた。
「先に言っておくがなぁ沙南、このゲームは課金者が優遇される。まぁゲームなんてどれも課金した奴が強いのは当たり前だが、俺もこのゲームには散々課金してきた。万に一つもお前に勝ち目はないぜ?」
「そんなのやってみなくちゃ分からないもん!」
「……まぁ、口で言ったところで諦める訳ねぇよな」
ブンッ! と、構えた剣を大きく振るった。
【シンギがスキルを使用した。鋼鉄化+5】
【シンギがスキルを使用した。護りの構え+5】
【シンギがスキルを使用した。龍神降臨+5】
【シンギがスキルを使用した。気功術+5】
【シンギがスキルを使用した。ディフェンスバウンド】
「来いよ沙南。一発だけ好きに殴らせてやる」
指をクイックイッと曲げて私を挑発してきた。
……うん。これは罠だ。ここで私がバカ正直に防御無視の奥義を使ったとしたら、まず間違いなく『デッドリーキャンセラー』で無力化させられる。
かといって中途半端な特技を使ったら、何が起こるかわからない。
お父さんのスキル、ほとんどが+5ってなってる。これはつまりガチャを引きまくって重なっている事だよね。
けど最後の『ディフェンスバウンド』っていうスキルだけはプラスが付いてない。これって過去のイベントで上位を取ったときに貰えるレアなスキルなんじゃないかな?
「ねぇ、そのディフェンスバウンドってどんな効果なの?」
「あ~はっはっは! 教えるわけねぇだろ」
「むぅ~……お父さんのクラン、みんな初めて見るスキルが多くてズルいよぉ……」
『百万障壁』とか、『地潜り』とか、やたら強いし……
「そりゃ仕方ねぇだろ。俺達はそれだけ前からこのゲームをプレイしてるんだからよ。最近始めた新規に負けたらむしろヘコむわ!」
ピクリとその言葉に私は反応をした。
そうだ。私はなんのためにこのキャラを作ったんだっけ。新規でもお父さんに勝つためだったはず。
【沙南がスキルを使用した。力溜め】
プレイ時間という長い道のりを一気に覆すために、攻撃力に全振りをした。
その想いは本気だったし、半端な気持ちでもなかったはずだ!
【沙南がスキルを使用した。ベルセルク】
このイベントだって、お父さんが物理防御力に特化してくる事なんて分かってた。だから地下10階まで行ってもらえる物は全てもらってきた。レベルだって上げた。戦いの練習だってしてきた!
【沙南がスキルを使用した。気功術】
もう後は自分を信じるしかないんだ! 力を出し切って、渾身の一撃をぶつける事だけを考える! そのために集中して、全神経を闘いに向けるんだ!!
【沙南がスキルを使用した。クリティカルチャージ】
強化を終えて私は再度身構える。するとお父さんは口元に笑みを浮かべていた。
「覚悟は決まったようだな。じゃあ来いよ!!」
「うん! 行くよ!!」
私はお父さんに向かって走り出す。
……大技はまだ取っておこう。だから今使う技はこれ! レベル100になった時に覚えた技だけど、なんだかんだで今まで使う機会がなかった技だ。
この特技でお父さんとの実力差を計る!
「やあああああ!!」
拳を掲げて殴ろうとする瞬間に、私はスキルを使う。
【沙南がスキルを使用した。ソニックムーブ+1】
まずは軽くフェイントを入れて背後を取る。
用心するに越したことはないから。
そしてお父さんの背中に手のひらをかざした!
【沙南が特技を使用した。咆哮弾】
咆哮弾:消費100。遠距離物理攻撃と、遠距離魔法攻撃の両方の属性を持つ。攻撃力5倍。
解き放ったエネルギーはお父さんの背中にヒットした。
ゼロ距離からの遠距離攻撃! 威力も特技の中では高い方。これでどう!?
【沙南のアビリティが発動。コンボコネクト+64コンボ】
【沙南のアビリティが発動。ソニックスマッシュ】
【沙南のアビリティが発動。状態異常打撲付与】
【沙南のアビリティが発動。プレイヤーキラー】
【沙南のアビリティが発動。アビリティブースト】
【沙南のアビリティが発動。無効貫通】
【シンギに4万6935のダメージ】
「ぐほおおおおお!!」
お父さんが呻きながら吹っ飛んだ。
やった! ダメージを与えたよ!
「え!? いやちょっと待て! 俺がダメージ!? 嘘だろ!?」
起き上がってから分かりやすくパニくってる。
そして必死にログを読み返していた。
「って、コンボコネクト64コンボ!? なんだこりゃ!! おい沙南、お前ここまで来るのにどんだけノーダメージで相手を倒して来たんだよ!!」
あ~……そういえば色んな人に戦いを挑まれたからなぁ。スキルで『コンボプラス』も使ってるし、いつの間にかかなり増えちゃってたね。
「64コンボって事は……それだけで攻撃力12.6倍かよ! クッソ、これは計算外だぜ……」
お父さんが悩んでる。これはチャンスだよ! 一気に攻めた方がいいかも!
【沙南がスキルを使用した。ソニックムーブ+1】
ギュンと距離を縮めて追い打ちをかける!
【沙南の攻撃】
「くっ!? ソニックムーブは効かねぇよ!」
お父さんが瞬時に反応をして、軽々と避けられてしまった。
さらに体を捻り、その反動で私に武器を振り下ろす。
【沙南が詠唱を開始した】
私は跳び上がって空中に逃げた。
「なっ!? 詠唱キャンセルか!?」
「さすがお父さん。知ってたんだね」
「ったりめーだ! そもそもアクションRPGでお前に詠唱キャンセルを教えたのは俺だろうが!」
そうだったね。でも次はこっちの番だよ!
空中から身を回転させ、建物の側面を思い切り蹴る。そしてお父さんに向かって急降下を始めた。
【沙南が特技を使用した。震脚】
「蹴り……いや、範囲攻撃か!!」
私の蹴りが地面に突き刺さると、その周囲が激しく揺れる!
だがその前にお父さんは飛び上がって空中に避難していた。
「そこだぁ!!」
【沙南が詠唱を開始した】
【沙南がスキルを使用した。ソニックムーブ+1】
震脚の硬直をゼロにして、ソニックムーブで跳び上がる!
その勢いのまま、私は両手を突き出した!
【沙南が大技を使用した。絶技、獣神咆哮牙】
焦った表情のお父さんが両腕で防御を取る。
ガッチリとした課金装備が光沢で煌めく。その鎧に、私は渾身の一撃を叩きこんだ!!
「がはっ!?」
全力を出した。確かな手応えも感じた。
その衝撃で舞い上がったお父さんは力無く地面に叩きつけられて、動かなくなる。
私は息を呑んで、ログを確認した。
【シンギに373万8985のダメージ】
ログには、確かにそう表示されているのだった。




