「うおおおおおおおおお!!」
「うわ~、なんだこれ! 派手にぶっ壊したなぁ」
地下ダンジョン攻略部隊。レベル1011。
そう表示されている男性プレイヤーが、そこにはいた。
一難去ってまた一難。こんなにも死にもの狂いで戦って、奇跡的に格上の相手を撃退したというのに、その余韻すら味わわせてくれないの……?
いや、そんな事はイベントが始まる前から分かっていた事じゃないの。こっちのクランメンバーがたったの8人に対して相手は30人。厳しい戦いになると覚悟は決めていた。こんな風に高レベルの相手がわんさか出てくる事だって十分に覚悟していたはずなんだ。
……覚悟していたはずなのに、実際に相手をするとやっぱり絶望感が物凄いよ。これはもうさすがに切り抜けるのは無理かな。
心が折れそうになる。全てを諦めてしまいたくなる。
だけど――
「まさかここに向かったみんなやられちゃった? だとしたらマジでび~すとふぁんぐってクランは侮れないな」
――それでも戦わなくちゃいけないんだ!
役に立ってみせるって決めたから。最後まで頑張るって誓ったから。
私がここで諦めたら、やられてしまったみんなに申し訳ない。だからHPが残っているうちは、最後まで抗わなくちゃダメなんだ!
「もうすでにボロボロな様子で気が引けるんだけど、トドメを刺させてもらうよ」
その男性が剣を向けた。
頭を金髪にしていて、ガッチリとした重装備を装着している。装備から見るに剣士かソルジャーか。
前もって調べたデータで見たはずなんだけど、もう記憶が曖昧だ。
とにかく一分でも、十秒でも、いや一秒でも時間を稼がぐしか手はない。秘技がまた使えるようになれば、まだチャンスはあるんだから。
【瑞穂が詠唱を開始した】
【瑞穂のアビリティが発動。高速詠唱+1】
「お? 頑張るねぇ。けど、その詠唱が完了する前に終わらせちゃうよ!」
【金色鯨が大技を使用した。秘技、天山爆波】
マズい!! この大技、前方広範囲に爆撃を放つやつだ。避けられない!?
彼が剣を地面に叩きつけると、爆発が巻き起こる。私はその爆発に巻き込まれて、咄嗟に目を瞑ってしまった。
もうダメだと思ったけど、なぜか爆発による衝撃は襲ってこない。恐る恐る目を開けると、私の前には一人の人間が護ってくれるように立っていた。
……人間というよりは、モコモコした毛皮を纏った獣だった。
【モフモフ師匠がスキルを使用した。デッドリーキャンセラー】
そのログに驚愕する。その人物は、私が以前に参加していたモフモフ日和のクランマスター、モフモフ師匠だったのだから。
「え!? モフモフ師匠? なんで?」
「ふん、そんな満身創痍になってもまだ頑張ろうとしている姿を見たら、助けない訳にはいかないモフ」
私の方を見ようともせず、モフモフ師匠はそう言った。
「お前達、瑞穂たんを後ろに下げて回復させるモフ!」
すると、モフモフ日和のメンバーが私に寄り添ってくれた。
みんな、私が知っている顔だ。
「みんな、来てくれたの!?」
「もちろんだよ。瑞穂たんが話し合いに来てくれたあの後、結構大変だったんだよ? モフモフ師匠が瑞穂たんを傷付けたってへこんじゃってさ~」
メンバーの一人が回復魔法をかけながら、そう教えてくれる。
「お、お前達、余計な事は話さなくていいモフ! べ、別にへこんでないモフ!!」
めっちゃ慌ててる。でもそっか。私はもう見捨てられたと思ってたけど、そんな事はなかったんだ。
「と、とにかく、もうこうなったら協力してやるモフ」
「……え? 協力!? 本当に!?」
「本当だモフ。今回は瑞穂たんの頑張りに免じて、地下ダンジョン攻略部隊を殲滅するのに協力するモフ!」
嬉しかった。もう繋がりは切れたんだと思ってた。けど、こんな風にまた一緒に戦える事が夢のように思えた。
「ありがとう! 私、クランチャットでみんなに報告するね!」
「ふん。勝手にしろモフ」
私は急いでクランチャットを打ち込んだ。
瑞穂:みんなに報告! なんとモフモフ日和が協力してくれることになったわ! 一緒に地下ダンと戦ってくれるって!!
すると、すぐにシルヴィアから返信がきた。
シルヴィア:本当ですか!? 実はこっちからも朗報です。以前に共闘関係を結んでいたフラムベルクがやっと動いてくれる事になりました! 地下ダン殲滅に協力してくれます!
す、すごい! これなら本当に勝てるかもしれない!
「モフモフ師匠聞いて! フラムベルクも協力してくれる事になったの! 仲間なの! だから攻撃しちゃダメなの! だからだから……」
「いや、少し落ち着くモフ」
胸が弾んで、興奮が治まらなくて、うまく言葉が紡ぎ出せない!
そんな私に苦笑いを浮かべながら、モフモフ師匠は大声を上げた!
「お前ら聞いたモフか!! これよりモフモフ日和は、『び~すとふぁんぐ』、『フラムベルク』と共闘して地下ダンジョン攻略部隊を殲滅するモフ!! 今回はもうランキングなんて関係ないモフ! 奴らを壊滅させることが出来るかどうか、それだけモフ! この事をクランチャットで全メンバーに通達するモフ!!」
「「「うおおおおおおおおお!!」」」
周囲から雄叫びが上がる。
モフモフ師匠を追いかけてきたのか、一人、また一人とメンバーが増えつつあった。
士気は上がり、やる気はみなぎり、その場の誰もが高揚していた。
「さぁ、瑞穂たんは下がるモフ」
「いや、私も戦う!」
私のその言葉に、モフモフ師匠は驚いていた。
「まだまだ戦えるわ! みんなにばかり任せておけない!」
「け、けど……」
「遠距離攻撃で援護射撃ならできるもの! みんなが来てくれて力が溢れてくるの。お願い、私にも戦わせて!」
するとモフモフ師匠は、やれやれと言った具合で首を振っていた。
「勝手にするモフ。ただし、誤射だけは勘弁してほしいモフ」
「うん。任せて!」
そしてモフモフ師匠は、改めて地下ダンジョン攻略部隊の金髪を睨みつける。
「さぁ話はまとまったモフ。取りあえず、元ウチのメンバーを可愛がってくれたお礼をしなくちゃいけないモフね」
クマの手でポキポキと指を鳴らしながら、ゆっくりと歩み寄る。
その後、その金髪の断末魔が響き渡るのだった。




