「あの子やるじゃない!」
「行くのです~!!」
チコリーヌが七色に揺らめく光の剣を全力で振るう。しかし、忍者は大きく跳んでかわしてしまった。
【服部半蔵がスキルを使用した。闇討ち】
すると忍者の持っている武器が闇に紛れて見えにくくなる。
あのスキルは……
「チコリーヌ! 『闇討ち』は相殺のアビリティを無効にするスキルよ! もうアイツの攻撃に合わせても相殺は発動しないわ!」
「わ、わかったのです! それなら直接狙うだけなのです!」
空中へと跳び上がった忍者を狙って、チコリーヌが再び攻撃を仕掛けた。
七色の剣はその刀身を伸ばし、忍者へと迫っていく。
【服部半蔵がスキルを使用した。空中蹴り】
タン! と、空中を蹴り一瞬にして地上へ降りた忍者は、凄まじい速さでチコリーヌの懐へ入り込んだ!
【服部半蔵が特技を使用した。十文字斬り】
攻撃モーション中のチコリーヌを素早く切り裂いていく!
「んきゃっ!」
【チコリーヌに0のダメージ】
ヒヤッとしたけど、それでもチコリーヌはダメージを喰らわなかった。
「ふむ。やはり相当DEFが高いでござるな。なら――」
【服部半蔵が特技を使用した。火遁の術】
チコリーヌが炎に包まれてしまった。
というか火遁の術は私と戦闘が開始した直後に一度使ってるんだけど、もうリキャストタイムが回復したの!? 私はまだなんにも使えないのに!
まぁ忍者って攻撃力が低い代わりに、リキャストタイムが短くて手数が多く使えるクラスなんだけどね。
私の魔術師は、逆に威力が高い代わりに一度使うと中々リキャストタイムが回復しなかったりする……
【チコリーヌに0のダメージ】
「へへん! そんな攻撃効かないのですよ~って、あれ?」
平然と炎の中に佇むチコリーヌだけど、突然慌て始めた。
「わ~っ!? なんかHPが減り始めたのですよ!?」
「スリップダメージよ!! はやくその炎の中から移動して!!」
私のアドバイスを聞いてようやく炎から脱出しようと動き始める。
スリップダメージとは、その効果内に居ると徐々にHPが減っていくギミックだ。
【服部半蔵が特技を使用した。毒霧】
やっと炎から脱出したチコリーヌに、忍者がさらに攻撃を仕掛ける!
【チコリーヌに0のダメージ】
「それも効かないのです! ……って、またHPが減っていくのですよ!?」
「毒を与えられたのよ! 早く状態異常を回復して!」
【チコリーヌがアイテムを使用した。解毒薬】
また私がアドバイスをしてからアイテムを使い始める。まさかスリップダメージだけじゃなく、毒ダメージにも対応が遅いだなんて……
「あの子、このままじゃマズいかも……」
ルリがポツリとそう言った。
「攻撃力も防御力も桁外れに高いけど、戦闘経験に差がありすぎる」
確かにルリの言う通りだ。チコリーヌの動きには作戦というものが何もないように思える。
あんなふうにただ闇雲に武器を振るうだけでは、あの忍者は絶対に倒せない……
早く私達が援護をして隙を作ってあげなくちゃ相手が何を仕掛けてくるか分からないけど、まだリキャストタイムの回復には時間がかかりそうだった。
「お主のステータスが高いのは分かった。だが、それだけでは我には勝てぬ!」
【服部半蔵がスキルを使用した。空蝉】
空蝉!? 確かあのスキルは……
「チコリーヌよく聞いて! 空蝉は一度攻撃を喰らっても必ず回避できるようになるスキルなの! あいつを倒すには二度攻撃を当てないと……」
絶望的だ。一発でさえ当てる事が遠いのに、その一発目を必ず回避できるスキルを持っているなんて……
「全ては無駄な助言よ。これで終わりにしてくれる!」
【服部半蔵が大技を使用した。絶技、児雷也召喚】
ボフンと煙が巻き起こり、その中から巨大な蛙が出現する。そんなトラックほどの大きさもある蛙が見えた瞬間にルリがソニックムーブを使用して、一気に壁の端まで退避した。
煙から現れた蛙が地面に着地をすると、凄まじい振動で建物が揺れる。周囲のプレイヤーを硬直させる効果もある厄介な能力だ。
「う、動けないのです……」
「HPが多少でも減っているならばこれはチャンスよ!」
忍者は手を振りかざして合図を送る。すると蛙の口に光が集まり出した。
「チコリーヌ! それは魔法攻撃だから!」
精一杯助言を送る。今の私に出来るのはこれくらいだから。
「う~……魔法攻撃は若干苦手なのです……」
足が動かなくなっているチコリーヌが盾を構える。
蛙は口に集めた光をレーザー光線のように放出した!
【チコリーヌが大技を使用した。奥義、ハイパーガード】
そのレーザー光線を盾が弾く!
「凄い。あんな攻撃でも凌いでる」
「あれは盾士の完全無敵になる大技よ。あの子やるじゃない!」
ルリも私も、その激しい攻防に圧倒されていた。
そして蛙の攻撃を完全に耐えきると、蛙は再び煙になって消えていく。これで忍者の絶技は凌いだ!
後は……――
どんな技が残されているかを考えた時、私はゾッとした。
「チコリーヌ! 忍者は防御無視の大技を持ってる! 次は必ずそれで攻めてくるわよ!!」
叫ぶ! 少しでも勝てる確率が上がるようにと助言を続ける!
しかし私が叫ぶのと同時に、忍者はそのスピードで素早く間合いに入っていた。
「左様。絶技はハイパーガードを使わせるための布石よ。本命はこっちでござる!」
盾士は当然DEFが高い。けれど逆を言えば、その防御力を無視する技が最大の弱点となる。
「くっ! 仕方ないのです……」
【服部半蔵が大技を使用した。奥義、斬鉄一閃】
【チコリーヌが大技を使用した。秘技、カウンターシールド】
カウンターシールド:相手のダメージの1/2を跳ね返す。
そうか! これなら素早い忍者にもダメージを返せる!
けど……
「無駄でござるよ! 我には『空蝉』がある!」
「ならもう一つ使うのです!!」
【チコリーヌがスキルを使用した。コンボプラス】
コンボプラス:その戦闘中、どんな攻撃でも1コンボ加算されるようになる。
うまい! 空蝉は最初のダメージは回避できるけど、コンボプラスなら2HITするようになる! 『相手にダメージを跳ね返す』という効果が2HITになるなら、もしかすると空蝉を超えられるかもしれない!!
でも正確には分からないから、あとはゲームシステムがどう反応するか……
――ズシャッ!!
忍者の防御無視の一撃が決まり、チコリーヌの巨大な盾をも切り裂いた。
無残にも地面に倒れ伏すチコリーヌだけど、カウンターの効果によって切り裂かれた盾は光玉となって、忍者に向かって飛来するのだった。




