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ゲーマー幼女 ~訳あって攻撃力に全振りする~  作者:
第二回イベント『バトルロイヤル』編
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「って小烏丸かーい!!」

「外に出ればこっちのもんだぜ!」


 武闘家の人が高速で私の周りを動き回る。障害物がないから動き放題だ。

 落ち着け。相手の攻撃にだけ反応して、それ以外の動きに惑わされるな!


【ランスが特技を使用した。閃光衝】


 槍の人が離れた位置から光り輝く突きを放った。それはレーザー光線のように真っすぐ私に飛んで来る!

 私は体を反らして回避をするが、そこへ武闘家の人が突っ込んで来た!


【ファイが特技を使用した。咆哮牙】


 獣の牙のように襲い掛かるその指を、横に跳んでなんとか回避する。


【ランスが特技を使用した。一閃突き】


 続けざまに鋭い槍が私に向かって伸びてくる!

 跳んだ反動でバランスが崩れて、もう回避が間に合わない!?


【小狐丸が特技を使用した。かざ斬り】


 私に向かって伸びる槍に、咄嗟に攻撃を当てる!


【小狐丸のアビリティが発動。相殺】


 激しい音を立てて槍を弾き返す! 

 攻撃力は私の方が上! ……なんだけど、槍士の人は私と距離を空けているせいで、相殺に勝っても攻撃が当たらない……


「くぅ~、惜しいな。けどその調子で援護頼むぜ」

「わかっているさ」


 二人は狩りを楽しむ猟師のように私を追い込もうとしている。

 ……そりゃあ私は名前にちなんで狐のアバターを使っているけど、そう易々と狩られる訳にはいかない。

 姫様の願いを叶えるため、姫様の力になるために私は戦ってるのだから!


【小狐丸が特技を使用した。回転乱舞】


 武闘家の人が接近をした瞬間を狙って、体を回して周囲に斬撃を与える特技で応戦する。

 しかしはやり、そのスピードによって私の攻撃はかわされてしまった。

 もっと引き付けるべきだった!? けど、そこまで相手の動きを把握できるほど私の目は良くなんてない。

 攻撃をギリギリで避けて、近付けさせないように刀を振るのがやっとなんだ……


【ランスが特技を使用した。流星弾】


 空中に飛び上がった槍士の人が、武器をこちらに向けて投げ放って来た。

 なんとかバックステップで直撃を避ける。が、地面に突き刺さった槍が爆発した!

 爆風とコンクリートの破片がつぶてとなって私の体にぶつかってくる。


「う、わあああああ!!」


 地面を転がって上下がわからなくなる。やっと動きが止まって、自分HPがまだ残っているんだと理解できた。


「立た……なくちゃ……」


 すぐに起き上がらなくちゃいけない。武闘家の人のスピードなら、すぐに追い打ちを仕掛けてくるはずだから。

 体を起こし、顔を上げる。


「オラァ! これでトドメだ!!」


 まだ足がふらつく所に武闘家の人が猛スピードで迫ってきて、その拳を構えていた。


『私達は人数が少ないので、各自地下ダンジョン攻略部隊のメンバーを三人倒すように心がけて下さい。これくらいの心意気が無ければ勝つ事はできませんから!』


 イベントが始まる前に、そうシルヴィア様に言われた事を思い出す。

 私は、まだ一人しか倒していないなぁ。姫様、シルヴィア様、私はもうここまでのようです。

 ……力不足で、本当にごめんなさい……


【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。墨煙S】


 突然目の前に黒いモヤが吹き出して、視界が一気に悪くなる。


「うおっ!? なんだこりゃ!?」


 タン、タン、タンと、武闘家の人が地面を蹴って後退していく音が聞こえる。


【ファイが盲目になった】

【小狐丸が盲目になった】


 これは……シルヴィア様のクラフトアイテム!? 間に合ったのか!?


「おい! 何が起こった!? くそっ! 視界が悪い!!」


【ファイがアイテムを使用した。万能薬】


「どうやら仲間が遠くから援護したみたいだ。ファイ、お前はあの狐を早く倒して来い。俺はこっちに向かって来る狐の仲間を相手する」

「一人で平気か?」

「問題ない。二人いるが、両方とも俺よりもレベルはかなり下だ」

「わかった。すぐに片付けて援護に向かうぜ」


 閉ざされた視界のなか、そんな相手の会話が聞こえてくる。


「さあ続きを始めようぜ! すぐに決着を付けてやる!!」


 武闘家の人が動き出した。凄まじく速い動きで私の周囲を回っている。

 ……私は本当にスピードの速い相手が苦手だ。攻撃は当たらないし、ちょこまかと鬱陶しい。

 ……だけど、今なら全てが見える!


【小狐丸のアビリティが発動。心眼】

 心眼:盲目になると発動し、周囲の動きを把握する事ができる。DEX二倍。


 一度刀を鞘に納める。そしていつでも抜けるようにと、柄をしっかりと握った。

 相手のスピードは……ナーユ様よりも少し遅いくらいだろうか。通常の私なら捉える事は難しいが、今なら手に取る様にわかってしまう。

 相手の瞬きも、小指の動きすらも感じることが出来る。まるで、相手と自分がリンクしたかのような感覚で、次にどこへ移動するのか、心が読めてしまうほどに先読みも出来る。


 これなら、斬れる!!


「へっ! 動かねぇならそろそろお終いにするぜ!!」


 武闘家の人が背後から飛びかかってきた。

 心を落ち着かせる。

 呼吸を整える。

 冷静に、ここぞというタイミングまで引き付けて……私は刀を抜いた!


【小狐丸が大技を使用した。奥義、抜刀燕返し】


 斬っ!!

 真後ろだろうがなんだろうが、この刀が届く範囲であるなら神速の太刀を入れる事ができる。それがこの奥義だ。


「ぐっ……な、バカな……ぐはぁ!?」


 私に拳を振るう事さえ叶わず、武闘家の人は地面に転がった。


【ファイの命の欠片が砕け散った】


 復活アイテムを持っていたか。一定時間は無敵だから、その間にもう一人を狙う!

 少し離れた位置で小烏丸に乗ったシルヴィア様と、対峙している槍士の人を感覚に捉える。

 全くあの人は何をしているのか。恐らく小烏丸に乗って移動速度を補おうという考えなのだろう。ふざけているようで大真面目。それが私の知るシルヴィア様だ。

 そして槍士の人と私の間に障害物はなく、しかも背中を見せている。今の私に背後を見せるとは迂闊な。

 再び刀を構え、足を開き、狙いを定める!


【小狐丸が大技を使用した。絶技、縮地の法・鬼神斬】


 斬っ!!

 相手と自分の距離を一瞬でゼロにするこの絶技において、私をフリーにすることは死を意味する。

 音もなく背後を取った私は、遠慮なく槍士の人を両断した。


「がはぁ!?」


【ランスの命の欠片が砕け散った】


 この人も復活アイテムを持っているか……

 その瞬間、私の心眼が武闘家の人が動き出したことを感知した。


「ウラァ! よくもやってくれたなコノヤロウ!!」


 とてつもないスピードで、再び私の背後から襲い掛かってきた!

 しまった! 絶技を使った後の硬直で、回避行動がとれない!?

 このままじゃ……


「子狐ちゃん、受け取って下さい!!」


 シルヴィア様の声が鮮明に聞こえる。


【シルヴィアが大技を使用した。秘技、リムーブメント】


 突然体が動くようになり、力が戻るような、そんな感覚が沸き上がる。

 リムーブメント:範囲にいる仲間の硬直時間とリキャストタイムをゼロにする。


 これなら……いける!!


【ファイが大技を使用した。絶技、獣神咆哮牙】

【小狐丸が大技を使用した。奥義、抜刀燕返し】

 

 相手が飛び込んでくる角度。

 腕の振り。

 現在の距離。

 その全てを把握して、私は刀を振り抜いた!

 『相殺』が発動しないよう。相手の拳をすり抜けるよう。

 その軌道は、まるで燕が弧を描くように相手の懐を切り裂いた!


「ば、ばかな……」


 武闘家の人は、その絶技を当てる事もなく地面にひれ伏せた。


【ファイを倒した】


 これで後は槍士の人だけ。

 そう思った時だった。


【ランスがスキルを使用した。槍高跳び】


 自分の槍を地面に叩きつけその反動で跳び上がると、槍士の人は空高く舞い上がる。


「あ、逃げましたよ! 追いかけましょう!! はいど~シルバー!!」


 シルヴィア様が小烏丸の頭をパカパカ叩いている。

 けれどここは私が行くのが最善だろう。


「シルヴィア様、ここは私にお任せください!」


 そうして刀を構え、狙いを定める。

 大丈夫、まだ『心眼』で捉えられる範囲を出てはいない。


【小狐丸が大技を使用した。絶技、縮地の法・鬼神斬】


 トン! と地面を蹴ると一気に空中まで移動して、槍士の人の背後まで飛んでいた。


「げっ!? ここまで!?」

「空だろうがこの技から逃げ切れると思うな!」


 斬っ!!

 刀を振り抜きトドメを刺す。これでようやく終わった……


【ランスを倒した】


 そしてそのまま落下していく。

 私は落下ダメージをなくすスキルを持っていない。このまま地面に落ちれば間違いなく戦闘不能になるだろう。

 けど不安はない。きっと大丈夫だ。なぜならば――


 ――ポフン!


 地面に直撃する瞬間、私の体は抱きかかえられた。

 そう。私には信頼する仲間がいる。こんな一振りの刀である私を、大切に扱ってくれるみんながいる。

 だから、不安なんて何もないのだ。


「受け止めてくれてありがとうございます。シルヴィ――」

「――お前も無茶をする。敵は倒せたようだな」


  ん? あれ? この低い声は……


「って小烏丸かーい!!」

「へぶっ!?」


 思い切り顔面を引っ叩いて吹き飛ばした。

 シルヴィア様はどこ!?

 心眼で周囲を探ると、パタパタと走って来る人物を感知できた。


「子狐ちゃん、無事でしたか」

「シルヴィア様~」


 私は緊張の糸が切れた事もあって、シルヴィア様に抱き付いていた。


「ふええ~。助けに来てくれてありがとうございます~」

「あらあら。もう大丈夫ですからね。しばらくは一緒に行動しましょうか」


 頭を撫でてくれるその優しい手つきと、つい甘えたくなる声に頭の中が蕩けそうになっていく。

 あまりの心地よさに力が抜けた私は、ゴロゴロといつまでもシルヴィア様の腕の中で頬ずりをするのだった。


「……なんか、自分の扱い酷くないッスか……」


 そして、尻を空に突き出した状態で倒れ込む小烏丸もまた、一人嘆くのだった……

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