「使えるのですよ?」
「ケケケ。いつまでも逃げられると思うなよ?」
【ネークスがスキルを使用した。地潜り】
またストンと落ちるように地面へ吸い込まれていく。
このスキル卑怯だよぉ。どうやって対処したらいいのか全然わかんない……
「チコちゃん、もう一度相手の場所を私に教えて!」
「わかったのです!!」
チコちゃんは地面を指差しながらトコトコと走り出す。
出てくる場所さえわかれば、頭が見えた瞬間に攻撃をして先制が取れるかも!
私は拳を構えて、チコちゃんの指差す場所を目で追った。そして……
ドンッ!
「わぷっ!?」
「んきゃ!?」
地面を見ながら走り回るチコちゃんと正面衝突してしまった。
「ご、ごめんなさいなのです……」
「ううん。こっちこそ……って!!」
待って! チコちゃんが私にぶつかってきたって事は、ネークスさんは私の足元を通過して背後にいるって事じゃ……
【沙南がスキルを使用した。ソニックムーブ+1】
直感的に危険を感じた私は、チコちゃんにラリアットをかます勢いで前方に跳んだ。その瞬間、後ろの首筋を何かが掠める感触が伝わる。
「くぅ……ダメージは!?」
チコちゃんを腕に抱え、前に飛ばしながらログを確認すると、ダメージは記録されていなかった。
ホッと安堵したものの、これからどうしよう。一旦このまま逃げようかな? けど、あの人はこれからもび~すとふぁんぐを狙うはず。今ここで私が倒さないと、他のみんながやられちゃうよ……
そう。私にはチコちゃんがいる。潜伏が見える分だけまだマシなんだ。ここで私が倒さなくちゃ!
ソニックムーブを解除してから自分のAGIで走り出す。もちろんチコちゃんは米俵のように担いだままだ。
「チコちゃん、あの人は追っかけてきてる?」
「え~っと……はい。地面に潜りながら、もの凄い勢いで追いかけてくるのです」
うん。これでいい。他のみんなの所へ行かないように、私が引き付けないと。けどホントにどうやって倒したらいいんだろう。せめてチコちゃんがネークスさんにダメージを与えられるだけの攻撃力があれば勝算はあるんだけど……
チコちゃんのレベルは377だったはず。という事は、大技を習得している可能性はかなり低い。『奥義』は地下20階で習得できるはずだから、大体レベル400前後が目安なんだよね。
「ねぇチコちゃん。ちょっと聞きたいんだけど、大技はまだ習得してないよね?」
「ほえ? 大技って、あの奥義とか秘技とかいうやつなのですよね? 使えるのですよ?」
だよねぇ……。使える訳ないよねぇ……
「って使えるのー!?」
「ですです! 地下一階の隠し通路を見つけたら、そこで習得できたのですよ」
あのチュートリアルの階層にいるおじいさんの試練のやつだ。
「じゃあ、絶技とか使えたりしないよね?」
「使えるのですよ?」
だよねぇ……。使える訳……
「って使えるのー!?」
「なんか、全力で防御してたらもらえたのですよ」
あの試練色々と試されるやつだけど、チコちゃんの防御面が高く評価されたんだ!
だとしたら、この状況を覆せるかもしれない!
「チコちゃん私ね、作戦を思いついたんだけど協力してくれない?」
「するのです! 私、先輩の力になりたいのです!!」
チコちゃんは本当にいい子だなぁ。って、ほっこりしている場合じゃないよっ!
私は考えた作戦を細かく説明をする。
「ほへ~、そんな使い道があったのですか!」
「うん。じゃあ作戦を開始するね!」
私はチコちゃんをその場に降ろしてから、振り返った。
そして――
【沙南がスキルを使用した。ソニックムーブ+1】
――今まで走ってきた道を一気に戻る。
これによって地面の中にいるネークスさんを、私とチコちゃんで挟んだ形となった。
【沙南がスキルを使用した。力溜め】
【沙南がスキルを使用した。ベルセルク】
【沙南がスキルを使用した。クリティカルチャージ】
【沙南がスキルを使用した。気功術】
【沙南がスキルを使用した。回復功】
【沙南がアイテムを使用した。魔法薬】
私は準備を整えてから少しずつ後退しながら様子を見る。
私の作戦はこうだ。まずは私とチコちゃんでネークスさんを挟む。チコちゃんはネークスさんが見えているから、私と直線になるように移動をしてもらう。
つまり、私はチコちゃんだけを見ていればいい。そうすれば直線上のネークスさんが出てきた瞬間に攻撃ができる!
もしも背後に回られたら合図をしてもらうように言ってあるから、それだけに気を付ければ必ず反撃できるタイミングが来るはず……
チコちゃんが私の左側に移動していく。ネークスさんも私の左側にいるって事だ。
私は両手を構えて、いつでも技を出せるように心がける。すると、この位置から一メートルほど離れた地面からニュッと頭が出現した!
「今だっ!」
【沙南が大技を使用した。秘技、獣王咆哮波】
渾身の遠距離攻撃を解き放つ!
しかしネークスさんは、少しだけ頭を出しただけですぐにまた地面へと引っ込んでしまった。
「ケケケ。やっぱりな。盾士を使って俺が出た瞬間を狙ったんだろうが、そんな作戦はお見通しなんだよ!」
当然、私の秘技はネークスさんに当たる事は無く、直線に並んでいるチコちゃんに向かって飛んで行く。
「ケケ! これで俺の攻撃力じゃ倒せなかった盾士を始末できる! 次はいよいよお前な番だぁ!!」
ネークスさんが動こうとしている!?
だけどその前に、チコちゃんは私の飛ばしたエネルギー砲に盾を構えて……
【チコリーヌが大技を使用した。奥義、ハイパーガード】
ハイパーガード:一定時間、受けるダメージが0になる。
その大きな盾で、正面から私の攻撃を受け止めた!
さらに……
【チコリーヌが大技を使用した。絶技、マシラ型魔導剣】
その瞬間に、私が放出したエネルギーがチコちゃんの盾に吸い込まれていく。そして盾は虹色に輝き出す。
「先輩、伏せてなのです!!」
その叫び声の通り、私は地面に身を伏せた。多分、背後にネークスさんが忍び寄っているんだ!
「沙南! 死ねえぇぇぇ!!」
予想通り、背後から声がする! 後はもう、私の運命はチコちゃんに託すのみ!!
正面から駆け寄るチコちゃんは、虹色に輝く盾に右手で触れる。するとその右手には虹色の剣が形作られた!
その剣を真横に振るうと、刀身が伸びて一気に私の背後まで薙ぎ払う!
「ぐはぁ!?」
後ろを振り返ると、ネークスさんの攻撃が私に届く前に、チコちゃんの一撃が全てを吹き飛ばしていた。
「ケケ……。盾士の攻撃なんざ大した事――」
【ネークスに1億0109万1368のダメージ】
「――って、はああぁぁ!? 俺はダメージを四分の一にできんだぞ!? なのになんでこんなダメージを受けるんだよ!? おかしいだろ!?」
そう。これが私の本当の狙い。
イベントが始まる前にシルヴィアちゃんが言っていた。盾士にだけは気を付けたほうがいいと。それは、盾士の大技の中には、相手の攻撃を跳ね返したり吸収する技があるからだ。
マシラ型魔導剣:相手の魔法攻撃をガードした時に、そのダメージをそのまま武器にすることが出来る。
けれどいくらチコちゃんでも、私の本気の一撃には耐えられそうにも無かった。だから奥義との組み合わせが必要だった。
まず初めに、ハイパーガードで受けるダメージをゼロにする。この奥義はあくまでも『自分が受けるダメージをゼロにする』のであって、私の技のダメージがゼロになる訳じゃない。だから奥義で耐えている間に、絶技を使って私のダメージを武器に変えた。
ネークスさんは基本的にはチコちゃんの攻撃は眼中になかった。だから油断して、今の一撃を喰らってしまったんだね。
【ネークスの命の欠片が砕け散った】
むぅ。復活アイテムを持ってるんだ。でも逃がさないよ!
チコちゃんの攻撃で吹っ飛ばされたネークスさんに駆け寄って、私はその服をしっかりと掴んだ。
基本的に『命の欠片』が使用されると、その相手は一時的な無敵状態となる。これは、せっかく復活したのに連続攻撃ですぐにやられてしまわないようにという救済措置だ。
だから今、私が続けざまにネークスさんを攻撃してもダメージは入らない。でもそれだと、また地面に潜られてしまう。
「ケケ? お前、なんで俺を掴んでいるんだよ?」
「だってネークスさん、すぐに地面に隠れちゃうでしょ? でもね、そういう潜伏スキルって割とありきたりな弱点があるんだよ。そのスキルってさ、誰かに触れられていても発動できるの?」
その質問に、ネークスさんの顔色は青ざめていく。
やっぱり、誰かに触れられている場合は地面に潜る事はできないんだ。
「ケ、ケケケ! だが密着しているとい事は、この俺に殺して下さいと言っているようなもんだぜぇ!!」
そう言って、ネークスさんは短刀を振り上げる。そしてそのまま私に振り下ろしてきた!
……まぁ、もちろんこれも狙い通りなんだけどね。
私はその短刀を押し返すように手を伸ばす。
【沙南のアビリティが発動。ブロッキング】
「ケケ!? しまっ……」
仰け反るネークスさんに、私は両手を構えた!
これで、ホントの本当におしまい!!
【沙南が特技を使用した。咆哮連牙】
ガガン! と、連撃が決まり、再びネークスさんは吹っ飛ばされていく。
「ち、ちっきしょーーーーーー!!」
【ネークスを倒した】
……はぁ~。倒せたぁ~……
今回はホントに危なかった。ってか、チコちゃんがいなかったら最初の不意打ちの時点でやられちゃってたよ。
「わわっ!? ダメージ一万を超える者!? 百万!? 一億!? 称号が沢山増えたのですよ!?」
大ダメージを叩き出した称号が一気に届いたようで、チコちゃんは慌てふためいていた。そんな様子がなんだか微笑ましい。
「チコちゃん。協力してくれてありがとう。本当に助かったよぉ」
「ふぇ!? そ、そんな。私なんかが先輩のお役にたったのなら嬉しいのですよ!」
物凄く謙遜してプルプルと首を振っていた。
「ううん。チコちゃんの防御力に私の攻撃力。今のチコちゃんは最強の戦士だよ!」
「はっ!? そっか。これは先輩が私に与えてくれた力なのですよね? うぅ~! 凄く嬉しいのです!!」
感極まって、チコちゃんはそのまま私に抱き付こうと飛びかかって来る。
「う、うわ~!? ちょっと待ってぇ! 一応私達って別クランだから!! その剣が私に触れたら即死だから!!」
「はぅ~! ごめんなさいなのです~!!」
なんともバタバタと騒いでいる、そんな時だった。
「ははは。楽しそうだな~沙南」
後ろから聞き覚えのある声がして、私はその動きを止めた。
「いや~やっと見つけたぜ~。お互いに飛ばされた場所が近くて良かったなぁ?」
「……お、お父さん……」
振り返る私の目には、紛れもないお父さんが佇んでいるのだった。




