「もしかしてホモなんですか?」
* * *
シルヴィア:Qエリアで待ってます。急いでくださいね(*´з`)
そんなクランチャットを確認しながら、自分はようやくQエリアに到着した。
Qエリアといってもかなり広い。その中のどこにいるのかメッセージを送ろうと思った時だった。遠くの方に巨大な樹木が目に入る。
あれはシルヴィア殿のクラフトアイテムではないだろうか?
このイベントエリアは、総じて世界崩壊というコンセプトで作られている。今にも崩れそうな廃ビルや、ボロボロの家屋。フロントガラスの割れた車が乱雑に転がっている。
そんな中で葉の生い茂る巨木というのは、かなり違和感があった。
自分はその樹木を目指して走り出す。
小烏丸:シルヴィア殿、到着致しました。
樹木の下で、クランチャットを使って呼びかけた。
すると……
「きゃあ~。危な~い♪」
上から声が聞こえ、見上げてみるとシルヴィア殿がスカートを押さえて落下してきた。
ズシン!
そのお尻に押し潰されて、自分も含めて落下ダメージを僅かに受ける。
「シ、シルヴィア殿、何をしているのですか……」
「ごめんなさい。猫が木からおりれなくなっていたから助けようと思ったら、足を滑らせちゃって♪」
この人は何を言っているのだ……
しゃべり方も楽しんでいるようにしか聞こえない……
「イベントエリアに猫が木登りしている訳がないでしょう……」
「え~、でも、男の人ってこういうシチュエーションで女の子と出会うのが嬉しいんですよね?」
「どこのギャルゲーですか!?」
この人はび~すとふぁんぐの中で切れ者であり、強く信頼されている人物だ。
しかし、中の人はナーユ殿と同じく女子高生らしく、こうしてゲームを楽しんでいる姿は確かにまだまだ子供なのだと実感する。
「それで、自分とシルヴィア殿がペアになって行動するのですか?」
「その通り! 私は敵に攻撃をする手段はありますが、移動が苦手です。逆に小烏丸さんはAGIは高いですが、地下ダンジョン攻略部隊と渡り合えるだけの攻撃力はありません。だから二人で欠点を補えば、それなりに戦えると思うんですよ」
「なるほど。という事は、自分がシルヴィア殿を担げばいいのですか?」
シルヴィア殿は頷いて、自分の背中にしがみ付いてきた。
「はいど~シルバ~♪」
「馬扱いしないで下さい!」
取りあえず走ってみる。
人一人背負っても、忍者である自分のスピードはほとんど変わらない。
「お~速いですね~! 快適快適♪」
「それで、この辺で地下ダンジョン攻略部隊のメンバーを探せばいいのでしょうか?」
「いえ、ナユっちがYエリア、子狐ちゃんがTエリアにいます。私達もそれなりに近いエリアで情報を共有しながら探しましょう。ここから北のUエリアに向かって下さい」
「了解しました!」
W X Y Z
S T U V
O P Q R
K L N M
F G H I J
A B C D E
イベントエリアは全部でこのような区域に分けられている。
主殿がA~Mまで。ナーユ殿がO~Zまでのエリアを担当する作戦だ。
自分達がUエリアに辿り着けば、北にはナーユ殿が。西には小狐丸がいるので連携が取りやすくなるという訳か。
やはりこの人は色々と考えている。それにこのクラン少数精鋭なので刀剣愛好家にいた頃を思い出す。良いクランに移住できたものだ。
そんな思いにふけっている時だった。
「きゃ~♪ あまりにも速くて振り落とされそうです~」
シルヴィア殿がギュッとしがみ付いてくる。そのせいで胸が押し当てられる感触が背中に伝わってきた。
「シルヴィア殿、女性が自分の胸を強調するのはいかがなものかと! もっと恥じらいを持つべきです!」
「あれあれ? 小烏丸さん、もしかしてドキドキしちゃってます? 欲情しちゃってます?」
「いえ、自分は忍ゆえ、色仕掛けに耐性を作っています。この程度で取り乱したりはしません」
「ちぇ~。つまらないですね~。……もしかしてホモなんですか?」
「断じて違います!! 耐性があるだけです!!」
まったく、こんな風に男性をからかうような一面がなければ味方として本当に心強いのに……。どこか残念な人だと思ってしまう。
その時だった。目の端に一人の人物を捉え、その簡易ステータスを確認した。
「シルヴィア殿、地下ダンジョン攻略部隊のメンバーがいます!」
「本当ですか!?」
自分は建物の陰に隠れて、その人物から身を隠した。
レベルが612の、あやめという忍者。いわゆるくノ一だ。
赤い髪が特徴的で、スタイルは良く顔も綺麗。ただ、性格はかなり強気だったはず。
「小烏丸さん離れて下さい! このイベントでは物陰に隠れるのは無意味です!」
何!? それはどういう意味か!?
「そこに隠れている者、出て来な。あたしを狙ってんだろ?」
しかし、自分が逃げるよりも早く、相手に声を掛けられてしまった。
「出て行きましょう。それで戦う意思がない事を見せれば見逃してくれるかもしれません。レベルの低いプレイヤーを倒してもメリットは多くないですから」
シルヴィア殿を背負ったまま、自分はあやめの前に姿を見せた。
「な、なんでオンブしてんのさ!? まぁいいや。レベル588と322か。倒してもポイントは入らないね。雑魚はもうどっか行きな」
どうやら自分達と無駄に戦う意思はないようだ。
……だが、こっちはそうではない。
「シルヴィア殿。戦いましょう」
「……へ!?」
「この程度なら我々にも十分勝機はあります。ここは戦いましょう」
「レベル差が小烏丸さんの二倍近くありますけど、スピード負けしませんか?」
「大丈夫です。自分を信じて下さい」
「おい! このあたしに勝つつもりか!? 舐めた事を言ってくれるじゃないか!!」
そう言って、あやめがこちらに一歩踏み出した時だった。
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。大型地雷S】
そしてそれを見事に踏む。
「離れて下さい!!」
言われるまでもなく、自分はその場から離脱する。その瞬間に爆発が巻き起こった。
【あやめに3万9500のダメージ】
「これでもう逃げる事はできません! 私達には勝つ以外に生き残る方法はありませんからね!」
「わかっております! しっかり掴まって下さ――」
――ギュンッ!!
言いかけた時には、怒りで目を見開いたあやめが真横に並んでいて……
「死ね」
振るった小刀が、すでに目の前まで迫ったいた……




