「今、戦ったら、どっちが勝つかな?」
* * *
「う、ん……」
目を覚ますと、女の子の姿が目に映った。
ボ~っとしちゃって、特に深くは考えたりしないけど、しばらくすると、ああ、ルリちゃんの家に泊まってたんだな~と思い出した。
そして、今日がイベント開催日だと言う事も……
「むにゃむにゃ……沙南を世界の頂点に君臨させる……」
そう、このイベントに勝って、私は世界の頂点に君臨する……
じゃなくて、お父さんを連れて帰る!
全くもう! ルリちゃんの変なの寝言のせいで、あぶない思考になるところだったよ!
私は寝ているルリちゃんのほっぺをプニッと突っついた。
「ふにゅ……沙南……」
その手はしっかりと掴まれて、抱え込まれてしまった。
も~ルリちゃんはかわいいなぁ。無理に引っ張ると起こしちゃうかもしれないし……。まぁいいや。私ももうちょっと寝よう。
そのまま目を閉じて、私は二度寝するのだった。
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「おはよ~。っといっても、もうお昼だけどね、あはは~」
完全に惰眠を貪った私達は、笑って誤魔化そうとしながら拠点に入った。
時刻は一時。二度寝をした私達は丁度十二時に目を覚まし、朝ごはんとお昼ご飯が一緒になってしまっていた。
しかしそんな私達の都合なんて知った事かと、部屋の中は異様な雰囲気になっているのに私は気付く。
中央のテーブルにはナーユちゃんとシルヴィアちゃんが向かい合って座っていて、黙ったまま真剣な表情をしていた。
端っこには狐ちゃんがガタガタと震えていて、心を落ち着かせようとしているのか、刀をジッと見つめている。
烏さんと瑞穂ちゃんはいないけど、蜥蜴さんもまた、その場の空気を読むように隅っこでおとなしかった。
「ねっこねっこにし~てやんよ~♪ にゃ~♪」
ルリちゃんが空気も読まずに、歌いながらテーブルに近付いていく。
「ル、ルリちゃんちょっと待ってー!」
「……?」
私は慌ててルリちゃんを取り押さえた。
――ガタッ!
すると、ついにシルヴィアちゃんが動いた!
「やっぱり納得がいきません。顔文字は必要なものです!」
ほへ? なんの話をしているんだろう?
すると向かいに座っていたナーユちゃんも口を開いた。
「いいえ、必要ではありません。使っても別に意味がないじゃないですか」
「ありますよ! だって可愛いですもん!」
え……? この空気の重さって、もしかして顔文字が原因なの……?
「可愛いというのは必要なんですか?」
「必要に決まってるじゃないですか! これを見て下さい。今SNSで人気の顔文字ですよ!」
そう言って、シルヴィアちゃんは操作画面を開くと文字を打ち始めた。そうするとすぐにクランチャットにメッセージが書き込まれる。
シルヴィア:(っ’ヮ’c)ウゥッヒョオアアァアアアァ
シルヴィア:ナユっちも顔文字使おうぜぇ~!
へぇ~。こういう顔文字が流行ってるんだね。でも、ナーユちゃんは顔文字に興味無さそうだしなぁ……
「か、可愛い……」
あれー!? なんかすっごい興味津々になってるー!?
「ふっふ~ん。どうですか? 可愛くないですか? ナユっちも使いましょう!」
「ま、まぁ可愛いのは認めます。けど、私が使ってもおかしいだけですから……」
「そんな事ないですよ! ナユっちも女子高生ならドンドン使いましょう! その方が親しみやすくて可愛いです」
「そ、そうなんでしょうか……?」
恥ずかしそうに、けどまんざらでもない感じだった。
「ま、まぁ私が顔文字を使うかどうかは一旦置いといて、シルヴィアさんこそ適切な状況報告をできるようにしてください。例えば近くに敵がいる場合、悠長に顔文字を使っている時間はありませんよね? 少しでも早く報告する事が大事なんです。見ていてください」
そう言うと、ナーユちゃんは高速で文字を打ち始めた。あまりの速さに指の動きが捉えきれないだ。
GMナーユ:現在A地点で地下ダンジョン攻略部隊のメンバーを発見。至急応援を送ってください。なお敵のレベル850。クラスはソルジャー。課金装備を複数所持。
こんな内容の文章を僅か数秒で打ち込んでしまった。
「す、すっご~い!! めちゃくちゃ早いじゃないですか!? ナユっちかっこいい~!」
シルヴィアちゃんも尊敬の眼差しをしていた。
「ふふん! 顔文字もいいですが、これも必要だと思いませんか?」
「けど、難しくて私には無理じゃないですか?」
「そんな事ありませんよ。ちょっと練習すれば誰でも打てるようになります。要は慣れですから」
「おお~!? それじゃあコツとか教えて下さい」
「いいですよ。それじゃあ私には、可愛い顔文字を教えて下さい」
「任せてくださいな!」
最初の険悪な雰囲気はどこへやら。二人はキャッキャと楽しそうに盛り上がっていた。
私はルリちゃんの背中をそっと押して、全てを託す。するとルリちゃんは珍しく空気を読んで、そんな二人に大声を上げた。
「お前ら仲良しか!! 心配してたみんなに謝れ!!」
みんなが思っているであろうツッコミを、ためらう事無く伝えてくれたのだった。
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「ところでナーユちゃん。地下10階の隠しフロアがわからないんだけど」
「それなら私が案内しましょうか?」
ナーユちゃんは嫌な顔もせずに、そう言ってくれた。
「ありがとう! 助かるよぉ」
「それじゃあ早速行きましょうか。割と時間もありませんから」
「うん。ルリちゃんも行くでしょ?」
するとルリちゃんがフルフルと首を振った。
「行かない。どうせ能力はガチャで全部揃えてる。私は他の事をして待ってるから」
「そっか。なら行ってくるね」
そうして私は、ナーユちゃんと一緒に地下10階に向かった。
【地下10階】
「こうしてナーユちゃんとパーティーを組むのは初めてだね」
「ふふ。そうですね。なんだかワクワクします」
そう嬉しそうに言ってくれた。そんな風に言ってもらえたら私までワクワクしてくる。
ナーユちゃんとは始め会った時に戦って、そこから仲良くなってクランに入ってくれたんだっけ。……あの時のナーユちゃんは本当に強かった。あの闘いは本気だったんだろうか?
私の中でゾクゾクと込み上げてくるものがあった。これは興味なのかな? 純粋に、もう一度戦ってみたいという興味。
けど、それがあまり良くないと言う事もわかっている。無駄に戦って今の関係を壊すような事はしたくない。けど……
――どっちが強いのか。それはやっぱりゲーマーなら確かめてみたかった。
「ねぇ、ナーユちゃん……」
「はい。なんですか?」
ドクン、ドクン、と、私の鼓動は大きくなっていく。
「ちょっと聞きたいんだけどさ、私達が初めて会った時に、対戦したじゃない?」
「……そう、ですね……」
ナーユちゃんの声が少し曇った気がした。
ナーユちゃんは、私をチート扱いをした事を今でも気にしているのかな?
「あの時ってさ、手加減してくれてたんじゃない?」
「……」
ナーユちゃんは答えなかった。私に気を使っているのかもしれない。
「私さ、あの時よりも強くなったよ? だからさ……」
「……」
ドクンドクンと、私の心臓はさらに跳ね上がる。
「今、戦ったら、どっちが勝つかな?」
「……」
ナーユちゃんが足を止めた。
「正直、私と沙南さんの強さはベクトルが違うと思います。例えるならライオンとサメはどちらが強いかと言ったら、そんなのは比べられませんよね? 私と沙南さんでは、そんな風に強さ基準が異なる気がするんです」
なんとなくわかる気がする。
けど、私とナーユちゃんは確かにここにいて、戦ったら確かに勝敗は決まる訳で……
でも、私にはこれ以上しつこく迫る事はできなかった。
そう思った時。
「少しだけ、勝負してみますか?」
そう言われて、ドクン! と、心臓が一際大きく高鳴った。
でも、振り返って私を見るナーユちゃんの表情はとても優しくて、ワガママを言う妹に付き合ってくれる、お姉ちゃんみたいに見えてしまった。
「いいの?」
「はい。けど、プレイヤーバトルをする訳じゃありません。ちょっとしたミニゲームです。ここから私が隠しフロアの場所まで全力でソニックムーブを使います。沙南さんは私を見失わないようにソニックムーブを使って追いかけて下さい。ちゃんとついてこれたら沙南さんの勝ちです」
なるほど。ここは迷宮のように入り組んでいるけど、多くのプレイヤーや魔物が出現するから広さは十分にある。ソニックムーブならお互いのAGIの差も関係ない。遺恨も残りにくいし、ある程度お互いの実力もわかるよね。
でも、若干ナーユちゃんが有利な気がするよぉ……
「あっ! それなら、帰りは普通に競争しない? どっちが早く入り口まで戻れるかっていう勝負!」
「いいですよ。受けて立ちます」
笑って承諾してくれるナーユちゃんが構えて、それに合わせて私も構える。
そして……
【GMナーユがスキルを使用した。ソニックムーブ+5】
【沙南がスキルを使用した。ソニックムーブ+1】
ギュン! と一気に超加速をして、私達は飛び出すのだった。




