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「り!」

『地下9階の隠しフロアは巨人の目線と同じ高さにありますよ』


 そうシルヴィアちゃんに教えてもらった私は、ルリちゃんと一緒に探索を始めていた。

 探し始めてから三十分。ついに隠しフロアを見つけた私は宝箱を開ける事に成功した。


【沙南は新たなスキルを習得した。回復功】

 回復功:消費50。味方一人のHPを80%回復させる。


 おお!? これは!? ……意味があるのかな?

 私、攻撃力に全振りしてるから大抵の攻撃は即死だと思うんだけど……

 まぁいいや。味方の回復も出来るしね。とりあえずこの階層をクリアしちゃおう。

 昨日はルリちゃんの修行でウロウロしてるだけだったから、まだボスも倒していない。イベントは明日だから、パッパとクリアしちゃおう。そう思って、私達はボスのフロアを目指した。

 そうしていつものドクロマークが描かれている扉の前までやってきた。中へ入ると、これまた巨大なボスが待ち構えていた。


【ダイダラボッチがあらわれた】


「おっきいね……」

「……うん」


 普通のフロアに出てくる巨人の二倍くらい大きい……


「これ、勝てるのかな?」

「沙南なら勝てる」


 ルリちゃんは簡単に言ってくれた。


「……なんで?」

「みんな言ってる。沙南はナーユや小狐丸に勝ってるんだから、地下30階まで到達するだけのスペックはすでにあるって」


 そっかぁ……

 でもさ、ナーユちゃんと戦った時は、あれでも手加減してくれてたと思うんだよねぇ……

 けど戦うしかないよね。この後も予定がいっぱいだし。


「じゃあ、攻撃してみるね」

「頑張って!」


 そうして、私は巨人に突撃してみるのだった。

【ダイダラボッチを倒した】


「勝った! ふぅ~危ないところだったよ」

「……楽勝だったようにしか見えなかった」


 甘いねルリちゃん。私は一発喰らったら死ぬ。つまり、いつでも死と隣り合わせなんだよ。


【沙南は新たな称号を手に入れた。ダイダラボッチを屠る者】

【沙南は宝箱を開けた。ガチャチケット】


 これで一旦区切りがついたけど、そろそろお昼ご飯の時間かな?


「ルリちゃん、そろそろログアウトする?」

「うん。お腹減った」


 私達は一旦落ちてからお昼ご飯を食べる事にした。


 ――時刻13:30


 昼食を終えた私達は、再びログインをしてガチャを引く事にした。

 これは地下8階と、9階の分だ。


「へい、それじゃあ回してね!」

「いくよぉ……そーーい!!」


 ガランガラン。コロン。

 銀色の玉が出てきた。


【沙南は新たなアビリティを習得した。カウンター+2】

 カウンター+2:相手が攻撃モーション中、または仰け反り中はダメージ2.4倍。


 被ったー! で、でももう一枚あるもんねっ!

 ガランガラン。コロン。

 今度は虹色が出てきた。


「やった! 虹だ!」


 なんだろう!? タイムストップかな!? それともタイムストップのアンチアビリティかな? それともデッドリーキャンセラー!?


【沙南は新たなアビリティを習得した。プレイヤーキラー】

 プレイヤーキラー:対人戦で攻撃力が2倍になる。


 また攻撃力が上がったー!? これじゃ私、本格的に攻撃力お化けだよ!? もっとルリちゃんみたいに色んな事ができる能力がよかったなぁ……


「……殴った相手を絶対殺す幼女」

「……はい? なんて?」

「……殴った相手を絶対殺す幼女」


 二度も言われた!? いや聞き返したの私だけど……


「最近だと、偏った能力を持った人をこんな風に呼ぶらしい」

「そうなんだ。でも女の子が『殺す』とか言っちゃだめだよ?」

「……? 沙南がそう言うならもう言わない」


 そんな事を話しながら、私達はガチャ屋さんを後にするのだった。


 ――時刻14:30


 私達は地下9階のレア魔物を探しながらレベル上げをしていた。一時間ほど討伐していると、ようやく出くわす事ができた。


【沙南は新たな称号を手に入れた。大理石の巨人を狩る者】

 大理石の巨人を狩る者:レア魔物である大理石の巨人を討伐した者に贈られる。ステータスに100ポイントの振り分けができる。


 実は見た目が変な模様だったので気付かなかったけど、どうやら称号は手に入ったみたい。もちろん全てのポイントはATKに入れて、次の目的に移る事にした。


 ――時刻16:00


 地下6階にて、私達はひたすら罠を踏みまくっている。


シルヴィア:地下6階のレア魔物ですか? ボスフロアの近くに魔物が出現するトラップがあるので、それを踏みまくるとたまに出てきますよ。


 そうチャットで教えてもらって、レア魔物を討伐するために自ら罠を作動させまくっていた。


「あ! 出たよ沙南!」

「了解!」


 私はソニックムーブを使って瞬殺した。苦労して見つけたのに逃げられたらたまったものじゃないからね……


【沙南は新たな称号を手に入れた。伝説のトラップマスターを狩る者】


 こうして、私達は迅速に行動していく。

 次は地下10階だよっ!


 ――時刻17:30


 地下10階の隠しフロアを探すために、私達はくまなく探索を行った。

 地下10階は一言で言うなら巨大な迷宮だ。迷路のように入り組んだ作りで、ちゃんと覚えていないと帰り道もわからなくなりそう……

 隠しフロアどころか自分の位置さえ把握が難しいこの階層で、私達はレベル上げも同時に行うことにした。

 ルリちゃん秘蔵の経験値3倍薬。これを使って一時間ガッツリ敵と戦った。


「ふぃ~。今日はもう疲れたね。この辺で止めとこうか」

「ん。レベルも結構上がった」


 どうやら迷路では、どちらかの壁に沿って歩くと迷わないらしい。

 こうして私達は、着実に明日のイベントに向けて準備を進めて行くのだった。


現在の沙南のステータス

LV :154

HP :13540

MP :915

ATK:7960(11144)

DEF:1165

INT:263

RES:648

AGI:1354

DEX:1028


パワーグローブ・改:ATK+10%

気合いの手甲・改:DEF+100。ATK+10%

闘争のチャイナドレス・改:DEF+100。ATK+10%

闘魂のハチマキ・改:DEF+100。ATK+10%

護りのリボン:全状態異常無効


* * *


 ――フラムベルク拠点。


「くぅ様。び~すとふぁんぐとの共闘の件を全メンバーに伝えました!」


 いつも連絡を担当してくれているメンバーが、私の部屋で敬礼をしながらそう言った。


「ありがとう。みんな納得してくれた?」

「はい。全てくぅ様に従うとの事です!」

「そう」


 び~すとふぁんぐ。シルヴィアには悪いけど、精々利用させてもらうわよ。両者が潰し合ってここぞという所でウチのクランが一位をいただくんだから!


「はっ!? でも迅速に助けに入ったら、シルヴィアに感謝されてウチのクランに移住してくれるかも!? そうなったらシルヴィアは私のモノ。わ、私好みに染め上げて、もう私無しでは生きられないくらいに調教して、ハァハァ……」


 妄想が捗っていると、連絡係のしもべが困惑しながら立っているのに気が付いた。


「なに見てるのよ!? あなたはもう下がりなさい! 期待値減少よ!!」

「す、すみませんでした~」


 しもべが慌てた様子で出て行った。

 あ~ん、シルヴィアに久しぶりに会ったから欲しくて欲しくて仕方ないわ~。好感度を上げるにはどうしたらいいかしら?

 そんな妄想にふけりながら、夜もまた更けていくのだった。


* * *


 ――地下ダンジョン攻略部隊拠点。


「なぁハルシオン。明日のイベントで『タイムストップ』は俺に使わせてくれねぇか?」

「なに? 使わなくてはならない理由でもあるのか?」


 そうマスターに返された。


「あ~……まぁなんだ? イベント中にケリを付けたい奴がいてな。多分戦う事になんだよ」

「シンギ、お前ほどの男がタイムストップを使いたいとは、かなりの強者なのか?」

「まぁな。けどクランに迷惑はかけねぇ。俺一人で十分だ」


 ま、俺達の親子喧嘩にクランを巻き込む訳にもいかねぇしな。


「いいだろう。地下ダンジョン攻略部隊の名前は十分に知れ渡っている。明日のイベントも我らに挑もうとする者なんていない。黙っていても一位は転がり込んでくる。タイムストップくらい好きに使わせてやる」

「サンキュー。けど油断してっと足元すくわれるぜ?」

「ふっ。そんな風に挑んでくる者がいるなら少しはイベントも面白くなるんだがな」


 まぁ確かに、地下ダンジョン攻略部隊って名前だけでみんな逃げていくようになったしな。ぶっちゃけ、イベント中は散歩してるだけで終わるだろうよ。


「それに俺を熱くさせるのは、ゲームマスターだけだしな……」


 ウチのマスター、ハルシオンはゲームマスターにご執心なんだよなぁ。

 って、ん? そういや沙南のクランにゲームマスターがいたよな?


「そういえばゲームマスターがび~すとふぁんぐってクランに入隊してたぜ? 明日のイベントにも参加するんじゃねぇか?」

「な、何!? マジか!? マジなのか!?」


 突然興奮しながら詰め寄って来る。


「ああ本当だよ。あと『マジ』って言葉を無理して使おうとするな!」

「そうか。ならタイムストップは俺が使う。ゲームマスターが相手なら本気を出さなくてはな」

「待て待て! タイムストップは俺に使わせてくれよ! ゲームマスターのレベルは700くらいだったぜ? お前なら普通に勝てるだろ?」

「そんな簡単に終わらせてくれる相手ではない。ならこうしよう。お互いにその相手と戦って見て、タイムストップが必要だと思った時に早い者勝ちで使おう」


 チッ! まぁ仕方ねぇか……


「わかったよ。けど普通に勝てそうなのに、無駄にタイムストップを使うのはよしてくれよ? クラン内で一回しか使えねぇんだからよ」

「り!」


 ……ん? 今なんて?


「『り』ってなんだよ?」

「ふっ、知らんのか? 最近若者の間で使われている、『了解』という意味だ。こんな事も知らんとは、シンギも歳を取ったな」


 こ、こいつは……


「中身は俺と同じオッサンのくせして若者ぶってんじゃねぇぞ! そうやって無理して使いたがるところが痛々しいんだよ!」

「何を言う。俺は永遠の18歳だ」

「ほざけ!!」


 こうして、なんだかんだと言い合いになるのだった……


* * *


 ――地下21階。


「チビ子、慎重に進みなさいよね」

「はい。……って、私はチビ子ではなくチコなのです……」


 確かに私はちっちゃいかもしれませんけど……


「そこの曲がり角、魔物がいるかもしれない。気を付けるのよチビ子」

「ですから、私はチビ子ではなくチコ――」


 ――ドン!

 わぷっ!? 後ろを向いて歩いていたら、何かにぶつかっちゃったのです……


【グランドドラゴンがあらわれた】


 ほへ? おっきなドラゴンが――

 ――ズシンッ!!


「チビ子が踏みつぶされたー!?」

「気を付けてって言ったそばからー!?」


 目の前が真っ暗になったと思ったら、私、踏みつけられちゃったみたいなのです……


【チコリーヌに0のダメージ】


「よっこいしょー!!」


 ぽーい!


「チビ子がドラゴンの足を放り投げたー!?」

「ってかあれでダメージ受けないのー!?」


 私は急いでみなさんのそばに駆け寄りました。


「す、すみません。私が前を見ていなかったせいで……」

「う、ううん。いいのよ。チビ子が無事だったんだから」


 わ、私の心配をしてくれたのですか!? なんて良い人達なんでしょうか!


「私達の大切なチビ子を踏みつけた魔物を許すわけにはいかないわ! 戦うわよ!」

「はい! 頑張るのです!」

「それじゃあチビ子、あなたはドラゴンの囮になってちょうだい。出来るだけ気を引き付けるのよ?」

「はい! 頑張って囮をやるのです!」

「もし私達が襲われたら、その防御力でちゃんと守ってね!」

「はい! 頑張ってみんなを守るのです!」

「それじゃあ作戦開始! チビ子、突撃しなさい!」

「はい! 行って来るのです!!」


「「「いってらっしゃーい」」」


 こんな良い人達のバーティーに入れてもらえて本当に良かったのです。こうして進んでいけば、び~すとふぁんぐにもきっと会えるはず!

 ……でも、地下何階まで潜ればび~すとふぁんぐのマスターに会えるんでしょうか……?

 まぁとにかく、明日はイベントですし、きっともうすぐ会えますよね? そしてもし会う事ができたら……しっかりとやっつけてやるのです!


 ――こうして様々な想いが交錯する中、ついにバトルロイヤルが始まろうとしているのだった。

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