「『タイムストップ』の詳細が載っていました」
「はい。ミズっちの装備、完成しましたよ」
私がモフモフ日和の話し合いに失敗した次の日、シルヴィアから装備一式を渡された。
「ありがと。……って、これ性能凄くない!?」
「当然じゃないですか。私はDEX全振りのクラフターですよ? 課金装備とまではいかなくても、限りなくそれに近い性能に仕上げる事はできますからね!」
フフン、とドヤ顔で胸を張っている。
だけど本当に凄い。前にモフモフ日和のメンバーに仕上げてもらった装備よりも、格段にステータスが上がっていた。
「……モフモフ日和の所に交渉へ行ったんですか?」
シルヴィアが、急に真面目な声でそう聞いてきた。
まぁ、ヤケクソになって装備のほとんどを押し返して来たのだから、バレても仕方がない。
「うん。けど失敗しちゃった……」
「……」
「そんな顔しないでよ。もうこうなったら、私がガンガン敵を倒しちゃうんだからねっ!」
渡された武器防具を装備すると、案の定グンとステータスがアップする。
……主にINTが。
「注文通り、ミズっちの装備は特にINTが上昇するように調整をしました。元々魔術師は防御力は低いので、この装備で地下ダンジョン攻略部隊の攻撃を受けたら即死すると思って下さい」
「わかってるわよ。けどこれでいい。スナイパーの狙撃が当たっても、一撃で倒せなくちゃ意味がないでしょ?」
そう、私が地下ダンジョン攻略部隊のメンバーを倒すのに必要なのは攻撃力だ。元々魔術師は魔法攻撃力特化のクラスだけど、私はまだまだレベルが低い。課金している相手だと、同レベル相手でも仕留めきれない可能性がある。
確実に仕留めるには、沙南のように防御を捨てて火力を上げる事!
「沙南のために、必ず勝つ……」
心を強く持つ!
意志を固く保つ!
「私がどうかした?」
振り向くと、そこには沙南がキョトンとして立っていた。
「ひ、ひょわあああああ~~~!?」
逃げようとしたら足元に並べられている武具につまずいて、盛大に転がってしまった。
「だ、大丈夫!?」
沙南が駆け寄ってきて手を伸ばす。
「だだだ大丈夫だから!! へへへ平気だから!!」
ヤバい無理! 昨日あんだけ二人の前で大泣きした事を意識しちゃってどんな顔していいのかわかんない……
顔が熱い! 心臓がバクバクいってるぅ……
「沙南ちゃんの装備もできてますよ~」
「え!? 本当に!?」
装備に釣られて沙南がシルヴィアの方へと駆け寄っていった。
はぁ……。後は少しでもレベル上げよっと。
* * *
『今週は沙南の家にお泊りしたい』
そうルリちゃんから言われた時は、心臓が飛び出るかと思った。
だって、ルリちゃんの家ってお金持ちでしょ? 食事とか凄くゴージャスだったでしょ? そんな相手を貧乏な家に迎え入れるとか恥ずかしすぎるよぉ……
『み、身分違いだよっ!』
『ん……それはそれで興奮する』
えぇ~……
そんなグイグイ来るルリちゃんをなんとか説得して、今週も私がルリちゃんの家に遊びに行くことになった。
・
・
・
『イベント予告。日曜日の午後三時から、クランイベント、バトルロイヤルが開催決定!』
土曜日の午前中、先週のようにルリちゃんのベッドからゲームにログインすると、そんなお知らせが告知されていた。
ついにきたんだ。このイベントで、地下ダンジョン攻略部隊よりも高い順位を取る!
取りあえず私達は、自分の拠点へと向かった。
「沙南ちゃんの装備もできてますよ~」
そうシルヴィアちゃんに言われた私は、並べられている武具に駆け寄った。
「私の装備、どれ?」
「これです。現在沙南ちゃんは、装備品で攻撃力を30%上げていますよね? 私が加工した装備は四つ合わせて40%上昇させる事ができます」
「凄い! そこにアクセサリーを加えれば50%まで上がるね!」
「そうですね。けど、アクセサリーには状態異常を完全に防ぐ物を装備した方がいいと私は思います。特に今回のイベントはバトルロイヤル。どこから狙われるかわからないし、敵は一人じゃありませんから」
そう言って、シルヴィアちゃんは大きなリボンを私に差し出してくれた。
「そっか。そうだよね。じゃあアクセサリーにはこのリボンを装備する事にするよ」
装備すると、私の頭に大きなリボンが追加された。
「沙南可愛い~!!」
「ふ~ん。まぁいいんじゃない?」
ルリちゃんと瑞穂ちゃんも褒めてくれた。
「えへへ。二人共ありがと。シルヴィアちゃんも装備を作ってくれてありがとう!」
「いえいえ。私はこうして何かを作る事が生きがいですので。それで沙南ちゃん、イベントの詳細は見ましたか?」
「ごめん。実はまだ詳しくは見てないんだ」
「一番気にしていた『タイムストップ』の詳細が載っていました」
タイムストップ。最近ガチャに加わった超大当りのスキルだよね。確かルリちゃんも使えたはず。
効果は、戦闘が始まってからすぐにリキャストタイムが発生して、それが終わると周囲の時間を止める事ができるというもの。
今のところ、同じガチャでアンチアビリティを引く以外に対処する方法はないらしい。
「バトルロイヤル形式だと常に戦闘中なので、リキャストタイムを消化するのが簡単です。どこかに隠れてリキャストタイムが終わるまで待てばいい訳ですからね」
「それだと、タイムストップが使える人が断然有利だよね?」
「はい。ですがさすがにイベントでは規制するようです。まず、タイムストップが使えるのはイベント中に一回のみです。しかも一人一回という訳じゃなく、クランで一回のみです」
え~っと、という事は、地下ダンジョン攻略部隊は課金している人が多いけど、そのクランメンバーの誰かが一回使えば、あとはもう誰も使えなくなるって事!?
「この仕様はうちにとって嬉しいね!」
「そうですね。うちのメンバーだと、タイムストップを使われたらその時点で負けが確定ですから」
「……私はアンチアビリティ持ってる」
ルリちゃんがそう言った。
……ホント、どれだけ課金してるんだろう……
「すみません。装備が出来たって聞いたんですが」
今度はナーユちゃんと狐ちゃんが入ってきた。
「あ、ナーユちゃん、狐ちゃん、素材を集めてくれたんだよね。ありがとう」
「そんな。大したことないから構いませんよ」
いや、これ結構いい素材使ってるんじゃないかな? それとも最深部まで進めている人にとってはこれくらい普通なのかな?
正直、未だにナーユちゃんのスペックが未知数なだけに価値観に違いを感じる。
「姫様のお役に立てたのなら幸いです」
狐ちゃんは謙虚に振る舞っているけど、モフモフの尻尾はユラユラとせわしなく動いている。
期待しているのかな? そう思って頭を撫でてみた。
「ふわあああ……」
すごく嬉しそうに狐耳がビックンビックンしていた。
「皆様、お疲れ様です」
次に烏さんと蜥蜴さんが入ってきた。
やっぱり装備を取りに来たみたい。
「主殿、もし時間があれば自分達の修行を見てもらいたいのですが」
装備を受け取った二人がそう持ち掛けてきた。
「えっとね、今から地下9階と10階の隠しフロアを回収して、レベル上げもしなくちゃいけなくて、経験値三倍薬の効果が一時間だから……」
やらなくちゃいけない事が多すぎて手が足りないよぉ。
「もしよければ私が相手になりましょうか?」
そう言ってくれたのはナーユちゃんだった。
「ナーユ殿!? よろしいのですか?」
「はい。私は今更レベル上げはしませんし、素材集めももう終わりましたから。的確にアドバイスも出来ると思います」
「おお! かたじけない!」
「その代わり、私の訓練にも付き合って下さい。一人だとどうも勝手がわからなくて」
「承知いたしました!」
そうして三人は拠点を出て行く。
明日のイベントに向けて、メンバーの追い込みが始まるのだった。




