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「それは出来ないわ……」

「はい。単刀直入に言いますと、次のイベントでバトルロイヤル形式が来た場合、うちのび~すとふぁんぐと共闘してほしいんです!」

「まぁ!」


 くぅさんは目をまん丸にして驚いていました。取りあえず私は順を追って説明を始めます。


「これはうちのマスターの事情なので、私の口から詳しい事は言えないのですが、うちのクランは次のイベントで地下ダンジョン攻略部隊と対決する事になりました。内容は、イベントランキングで順位の高い方の勝ちというルールです」

「あの地下ダンジョン攻略部隊と!?」


 また驚いているくぅさんに、私は説明を続けます。


「しかし、今の少ないメンバーでは私達に勝ち目はありません。だからくぅさんに協力してほしいんです。くぅさんのクラン、フラムベルクは前回のイベントで二位。いや、ここ最近ではずっと二位ばかりで、地下ダンジョン攻略部隊の事を良く思っていないのではありませんか?」

「……」

「ならば私達と共闘して、地下ダンジョン攻略部隊を一位の座から引きずり降ろしてはどうでしょうか」


 するとくぅさんは口元に手を当てて考え始めました。そして――


「それは出来ないわ……」


 そう言いました。

 まぁ、そう簡単に承諾されるとは思っていませんでしたけどね。


「確かに私達はここ最近はずっと二位ばかりで、もう奴等のクラン名を見るだけでムカムカしてくるけどもぉ~――」


 目を吊り上げて、かなりご立腹のご様子。相当気に入らないんじゃないですかね……?


「――それでも、蹴落とすために他のクランと協力して優位に立とうだなんてスマートではないわ。私達は自分の力だけで一位をもぎ取ってみせる!」

「くぅさん、別に相手の土俵で戦う必要はないんです。協力するのは卑怯な戦法ではありません」

「け、けど、それだと自分達が相手よりも弱いと認めてしまっているようで癪に障るわ!」


 そう言って、ぷぅ~っと頬を膨らませています。

 なかなかプライドが高いんですね。まぁ気持ちはわからなくもありませんが。


「はぁ……そんなんでは、むしろ相手に笑われてしまいますよ? 地下ダンジョン攻略部隊は九連続でイベント一位。向こうはこう思っているでしょうね。『毎回二位のフラムベルクは正面からぶつかって来るばかりで大した事がない。これなら十連覇も楽勝だ』、とね」

「な、なんですてぇ~!! ムッキ~!!」


 今のは私の妄想ですが、ハッキリ言ってそう思われている可能性は十分にあります。

 そしてくぅさんはどこから出したのか、悔しそうにハンカチを噛みしめていました。


「……けど、仮に私達とあなたのクランが手を組んだとして、どんな作戦で戦うつもり?」

「作戦なんてありません。強いて言えば、地下ダンジョン攻略部隊のメンバーを見つけた場合、お互いにチャットで居場所を教え合います。そうして、その相手に勝てる可能性の高いプレイヤーを向かわせるんです。これを見て下さい」


 私はくぅさんに資料を渡しました。昨日、私と小烏丸さんと蜥蜴丸さんで集めた情報です。


「こ、これは!?」

「はい。地下ダンジョン攻略部隊、全てのメンバーのステータスや戦い方をまとめた資料です。これである程度は事前にどの相手と戦うべきかのシミュレートができるはず。ですが向こうも複数で行動するはずなので、あとは臨機応変に対応していきましょう」

「……」


 くぅさんは渡した資料を食い入るように読んでいます。


「シルヴィア、あなたとあなたのクランを疑いたくはないけれど、これだけではまだ信用する訳にはいかないわ」


 そして、静かにそう言いました。


「仮に協力するとして、私達と地下ダンジョン攻略部隊がぶつかれば、この資料があったとしても共倒れする可能性は十分にある。一位と二位が潰し合い、漁夫の利が生まれやすくなるわよね?」

「……」

「そこに付け込んで、あなた達のクランは上位に食い込もうとする。そういう作戦だと考えるのが普通じゃない?」


 まぁそう疑われても仕方のない事だとは思ってましたけどね……


「こればかりは信じてくれとしか言いようがありませんね。私達は次のイベントで上位に食い込もうなどとは考えていません。地下ダンジョン攻略部隊よりも良い順位になる事だけを考えています。だから他のプレイヤーには目もくれず、地下ダンジョン攻略部隊のメンバーだけをターゲットにする予定なんです! ランキング100位だろうと、200位だろうと、1000位まで落ちようとも、地下ダンジョン攻略部隊よりも上ならそれでいいんです。そのためには、くぅさんのクランと協力する事が必要不可欠なんです!」


 想いをぶつけます。

 真剣に、私達がどれだけ必死化なのかが分かるように真っすぐに!

 伝わるか伝わらないかじゃありません。伝えなくちゃいけないんです! 熱意をもって、くぅさんの心に響くように!!


「ふぅ。口だけならいくらでも言えるわよ」


 低く、小さく、そう言われました……


「だから行動で証明してみせて。私達は普通にイベントに参加するわ。その中で、あなた達が本当に地下ダンジョン攻略部隊を超えようとする動きが目に見えて分かった時、私達は加勢する。この条件でどうかしら?」

「はい! それで構いません! ありがとうございます!」


 ふぅ。なんとか約束を取り付ける事に成功しました。イベント開始直後から協力してくれるわけではないけれど、これでも話し合いはうまく運んだ方でしょう。

 こうしてくぅさんとの話し合いを終えた私は、び~すとふぁんぐの拠点に戻ろうと外へ出ました。くぅさんも外へ出て、私を見送ってくれています。


「あなたは今クランがよほど好きなのね」


 突然後ろから、そんな事を言われました。


「ほへ?」

「あなたは昔から、自分の好きな事しかやらなかった。誰かの装備を作ったり、チャットでおしゃべりばかりしていたり……。ダンジョンに潜るのは、そんなアイテム作成のための素材を集める時だけだったわ。正直、かなり変な子だと思ったもの」


 あなたがそれを言いますか!? くぅさんもかなり変わり者ですけど!?


「けど、自分のプレイスタイルをきっちりしているのは好感が持てるわ! そして、そんなあなたが特定のクランに留まって、地下ダンジョン攻略部隊を超えようとこうして駆けずり回っている。び~すとふぁんぐというクランはそんなにも楽しいのかしら?」


 くぅさんが少しだけほっぺを膨らませて、そんな事を聞いてきました。自分のクランよりも、び~すとふぁんぐを選んだ事が面白くないと言わんばかりです。

 だから私も、本音で答えます。


「楽しいですよ。あのクランには面白いメンバーが揃ってますから。それに、とっても尊いんです」

「……そう」


 やっぱりちょっとだけ悔しそうな表情をしています。

 どんだけ私を引き入れたかったんですか!?


「なら精々、私達が応援に駆け付けたくなるくらい頑張りなさいよ」

「わかってますよ!」


 そうして、私はようやくフラムベルクを後にします。言われるまでもなく負けるつもりなんてありませんよ。

 ……って、あれ? よく考えたら、私が今び~すとふぁんぐを自慢しちゃったから、くぅさんは怒って助けに来てくれないかもしれません。あそこはもっと、くぅさんのクランをおだてておくべきだったんじゃないでしょうか?


「うあ~!? 失敗しました~……」


 詰めの甘さで不安を感じた私は、そんな事を嘆いてしまうのでした……

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