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「相手の弱点を徹底的について、出来る限り有利な状況で戦おう!」

「それではこれより、地下ダンジョン攻略部隊を攻略するという作戦会議を始めたいと思います!」


 再びフィールドエリアに戻った私達は、お父さんに会わないようにコソコソと移動をして拠点へと戻った。そしてシルヴィアちゃんの仕切る中、ついに作戦会議は始まった。


「まず初めに、次回のイベントはバトルロイヤル形式の可能性が高い訳ですが、沙南ちゃんはバトルロイヤルって知ってますか?」

「うん。FPSでよくあるバトル形式でしょ? 一人になるまで戦って、最後まで生き残った人が勝ちっていうルールのやつ」

「はい。……まぁ逆に私はFPSをやった事がないんですが、その認識で合っています。けれどこっちのイベントはあくまでもクラン戦。ルールが大分変ってきます。ますはそのルール説明からしていきますね」


 私やルリちゃんはもちろんの事、実はナーユちゃんもこのイベントに参加するのは初めてらしく、真剣に耳を傾けていた。


「このイベントはポイント制になっていて、そのポイントを多く取得した順でランキングが決まります。そのポイントを得る方法は二つ。一つ目は自分のレベルよりも高い相手を倒す事です。そうすると、そのレベル差の分だけポイントを獲得できます」


 ふむふむ。レベル100の人がレベル150を倒せば、50ポイントを獲得できるんだね。


「そして自分よりもレベルの低い相手を倒しても、全くポイントは入りません。弱い者いじめをしても意味がないって事ですね」

「ちょっと待って。それじゃあお父さんみたいにレベルが1000を超えている人とかはどうやってポイントを稼げばいいの?」

「それが二つ目の方法です。このイベントは制限時間が二時間です。その間生き伸びた場合、自分のレベルがそのままポイントに加算されます。取得できるポイントの上限は1000なので、レベルが1000を超えている人が生き残った場合、得られるポイントは最大の1000ポイントになる訳ですね」


 なるほど。レベルの低いプレイヤーはポイントを得るために格上相手の隙を突いて襲い掛かる。レベルの高いプレイヤーは格下だけど、多くのプレイヤーに狙われ続ける。

 ……これは思った以上に複雑で難しいかもしれない。


「次に、現時点で分かっている地下ダンジョン攻略部隊の情報をまとめますね。メンバーは30人。そしてこのクランは、地下15階に到達している事をクラン加入条件としています。つまり、このクランメンバーは最低でもレベル300を超えているプレイヤーばかりという事ですね。中には沙南ちゃんのお父さんのように、レベルが1000を超えているプレイヤーもいます。基本的に、メンバーの大半は生き残りポイントを狙って防御に徹すると考えていいでしょう」


 つまり、と、ここでナーユちゃんが口を開いた。


「私達び~すとふぁんぐが地下ダンジョン攻略部隊に勝つためには、相手をほぼ全滅させなくてはいけないという事ですね。一人でも逃せば、生き残りポイントが多く入る可能性の高いクランですから」

「……私達8人で? それって無理ゲーじゃない?」


 そうおずおずと答えたのは瑞穂ちゃんだ。

 確かに厳しい。圧倒的に人数が違い過ぎるから。

 う~ん。もしレベルの高いメンバー同士が合流したら、攻め込む事すらできなくなるんじゃないかなぁ……


「シルヴィアちゃん、イベントエリアってどのくらいの広さなの? 開始した時のメンバーの位置は?」

「プレイヤーの開始位置は全員ランダムで決まります。あと広さはかなり広いですよ。東京都内くらいはあるんじゃないでしょうか。けどクランチャットとかは使えるんで、仲間と合流するのはそこまで難しくないですね」

「なら、地下ダンジョン攻略部隊のメンバーが全員合流しちゃったら手が出せなくなるよね? そうなる前に戦いを挑んだ方がいいのかな?」


 いえ、とシルヴィアちゃんは首を振った。


「固まってくれるとしたらむしろチャンスです。私達は強力な遠距離攻撃が使えるメンバーが多いじゃないですか」


 そっか! 私と、ルリちゃんと、瑞穂ちゃんは大技に強力な遠距離攻撃を持っている。これらをうまく使えば一気に壊滅させることもできるかもしれないんだ。


「このゲームは決してレベルだけが全てじゃありません。スキルやアビリティ次第でレベルの高い相手を狩る事は可能ですからね。なので、あまり大人数で固まっていても強力な範囲攻撃で一掃される可能性があるんです。恐らく地下ダンジョン攻略部隊は、2、3人ずつで逃げるように行動するはずです。私達はこの相手を確実に撃破しなくてはいけません」


 私達8人に対して、相手は30人。しかも全員レベルが高くて課金している可能性もある。

 厳しいけど、作戦が何もないわけでもない。


「シルヴィアちゃん。烏さん。そのクランメンバーの詳細なデータって調べられる?」

「できなくはないですが、どうするんですか?」

「私ね、こういうバトルロイヤルって相性があると思うんだ。瑞穂ちゃんみたいな遠距離攻撃が得意なプレイヤーは、遠くから戦士系を狙うのがいいと思う。逆に相手の魔術師を仕留めるのは、ナーユちゃんみたいに一瞬で距離を詰められる素早いプレイヤーだよ」


 そう、相手のデータがわかれば戦い方もわかる。戦い方がわかれば苦手な相手をぶつける事もできる!


「相手の弱点を徹底的について、出来る限り有利な状況で戦おう!」


 ヒュー! と、誰かが軽快な口笛を鳴らす。


「沙南ちゃん、意外と鬼畜ですね~♪」

「正々堂々と正面から挑める相手じゃないからね。やるならとことん弱点を攻めよう! 他のプレイヤーなんて関係ない。このイベントだけは地下ダンジョン攻略部隊だけが敵だよ。私達は地下ダンジョン攻略部隊だけを狩り、全滅させるクランになる!」


 ざわざわっと、その場が騒然となった。

 それも当然だと思う。下手をしたら地下ダンジョン攻略部隊と共倒れになって、揃ってランキング下位になるかもしれないんだから。

 けど、今回はそれでも構わない。地下ダンジョン攻略部隊よりもランキングが上なら私の勝ちなんだから!

 そんな特殊な戦い方に付き合ってくれる仲間に、私が感謝している時だった。シルヴィアちゃんが突然に手を挙げた。


「沙南ちゃん、私からも一つ、提案があります」

「なぁに?」

「他のクランに協力してもらうというのはどうでしょうか?」


 へ!? つまり共闘するって事!?


「そんな事ができるの!?」

「わかりません。けど、地下ダンジョン攻略部隊はここ最近のクランイベントで一位を取り続けています。確かこの前のイベントで九連続一位なので、次のイベントで十連覇になるはずなんです。それを良く思っていないクランもいるんじゃないでしょうか? そのクランと協力関係になれば、戦力はかなり大きくなるはずです!」


 おぉ~!! 確かにその通りだよ! その発想は無かった!


「シルヴィアちゃんも意外と鬼畜な事を考えるねぇ♪」

「いえいえ、戦いを有利にするために、仲間を集めるのは当然ですよ♪」


 くっくっく! と、私とシルヴィアちゃんが悪役のように笑う姿を、他のメンバーは呆れた目つきで見てくるのだった。

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