「どっちが良い順位を取るかの勝負にしよう!」
「……え?」
「さ、これで話は終わりだ。解散解散!」
お父さんは勝手に終わりにして立ち上がった。
そのままどこかへ行こうとするお父さんの腰に、私はしがみ付いた。
「ま、待って! どうして帰らないの!?」
「帰れる訳ねぇだろ。沙南、お前にはまだ難しい話かもしれねぇけどな、俺のやった事ってのはそんなに軽い事じゃねぇんだ。お金を渡して、ごめんなさいして、それではい仲直りって訳にはいかねぇんだよ」
そういえば、お母さんも似たような事を言ってた……
「け、けど、私はまたみんなと一緒に暮らしたいよ!」
「沙南、お前の気持ちはわかるし、本当に悪いと思ってる。けどな、もう俺と佳南は終わってるんだよ……」
終わってる……? 終わるって何? もう一緒に暮らせないの……?
「そ、そんなのヤダ……。だったら私、なんのためにここまで来たの!? せっかく会えたのに……」
「だから、俺にケジメを付けさせるためだろ? これからはちゃんと金を送る。そうすれば佳南の負担が軽くなる。俺と遊びたきゃここで遊べる。それでいいだろ! これ以上ワガママ言うんじゃねぇよったく!」
ワガママ……? これって私のワガママなの……? 私だってずっと我慢してきたのに? いい子でいるように言いつけだってちゃんと守ってるよ? お母さんのために、毎日家事やってるんだよ? お父さんを探すためにヘッドギアは買ってもらったけど、それ以外は何も欲しがらなかったよ? クリスマスも、お誕生日も、プレゼントなんて何も貰ってないんだよ? お母さんが仕事を始めたから、運動会も授業参観も、誰も来てくれなくても我慢したんだよ?
ずっとずっとずっと我慢して、ようやく会えたお父さんに戻って来てってお願いするのがワガママなの!?
「こんなワガママな娘だが、どうか仲良くしてやってくれ」
お父さんがみんなに頭を下げるのを見て、私は憤りを覚えた。
お父さんを追いかけるためにこのゲームを始めて、お父さんを探すためにみんなに協力してもらって、お父さんを見つけるために今ここに集まって……。なのに、なんで私ばっかりみんなに迷惑かけてるように言われなくちゃいけないの!? 元々の原因はお父さんでしょ!?
「おい沙南! クランのみんなに迷惑かけんじゃねぇぞ? 俺が恥ずかしい思いをすんだからよ」
カアァァ……
その時、私の頭は熱くなり、怒りが限界点を越えた……
「お父さん、私と勝負しよ……」
「は? なんだよ急に」
私はお父さんから、二、三歩離れて正面に立つ。
「もう勝負で決めよう。私が勝ったら家に帰る。お父さんが勝ったら帰らなくていい」
「いやだから、ワガママ言うなって!」
「ワガママなのはお父さんだよ!!」
私は叫んだ。
熱くて自分を見失いそうになる。
「勝手にいなくなって、勝手にお金持ち出して、勝手に終わったとか決めつけて! 結局自分の事しか考えてない!! お父さんはただ、お母さんが怖いから帰りたくないだけでしょ!!」
「なっ!? 子供のくせに、いっちょ前に大人の事情に首ツッコんでじゃねぇよ!」
「そうだね。うん。そう言われると思ったよ。お父さん、いっつも子供が口出すなって言うもんね! だから勝負しようって言ったんだよ! 勝負に勝って、力づくで連れて帰る!!」
ピキッ! と、お父さんのこめかみに青筋が浮かぶ。
「さっき俺の事を吹き飛ばしたからって調子乗んなよ!? 俺が本気出せば、お前の全力攻撃でもノーダメージにできんだぞ?」
「そんなの試してみないとわかんないでしょ!!」
バチバチッと、私とお父さんの間に火花が散る。
「勝負か……はっ! おもしれぇ! なら久しぶりに本気でやるか? 勝った方の言う事をなんでも聞くっていうなら、勝負の内容は俺が決めるぜ?」
「わかってる。どんな勝負でも受けて立つよ!!」
ゲームという闘争本能に火がついて、お父さんが私を威圧する。けれど、頭に血が上った私もまた、本気でお父さんを屈服させるつもりで睨み返していた。
まるで空気を読んでくれるかのように、お父さんの両側に二人の仲間が並び、同じように私の周りにもみんなが集まる。こうして、び~すとふぁんぐと地下ダンジョン攻略部隊の二つのクランは、真っ向から対立した!
「よし! なら次のイベントでケリを付けようぜ。運営はまだお知らせを出してねぇが、今までのパターンから行けば次のイベントはバトルロイヤル形式になるはずだ。このクランイベントで、どっちが良い順位を取るかの勝負にしよう! これで俺が負けたら家に帰って土下座でもなんでもしてやるよ」
「わかった。約束だからね!」
再び私とお父さんは睨み合う。
「ちょ、ちょっと待って!」
慌てた口調で叫んだのは瑞穂ちゃんだった。
「地下ダンジョン攻略部隊よりも良い順位を取る!? 無理に決まってるでしょ!! 前回のイベント一位のガチクランよ!? せめて特定の人物を倒した方が勝ちとかにしてくれないと絶対勝てないわ!」
しかしお父さんはあっさりと首を横に振った。
「いや、特定の人物を倒した方の勝ちって条件はダメだ。仮に俺を倒したら沙南の勝ちとした場合、お前ら全員で襲われたらさすがの俺でも生き残るのは難しい。バトルロイヤルはそういう戦い方だって出来るからな。クランマスターを先に倒した方が勝ちってのも無しだ。たかが俺らの親子喧嘩で、ウチのマスターを巻き込む訳にはいかねぇからな。だからクランの順位で競うのが一番なんだよ。……沙南、お前は自分の喧嘩に仲間を巻き込むのか?」
お父さんは私を試すような、煽るような、意味深な目で見つめてくる。
「……みんなは関係ないよ。私一人でお父さんのクランを全滅させればいいだけの話でしょ!」
「くっははは! いくらお前でもそれはちょっと厳しいんじゃねぇか?」
お腹を抱えて笑うお父さんを無視して、私はその場を後にしようとした。
そのイベントに向けて、少しでもレベル上げがしたかったから。
「おい沙南、一つだけ教えてやるよ」
「……何?」
「俺はこの勝負の事をクランメンバーには伝えねぇ。ごく普通にイベントに臨むぜ。そうやってまた、いつも通りランキング一位を目指す!!」
「……」
そんな余裕を見せるお父さんを振り切るように、私はその場を去るのだった。




