「こいつはゲームに関して異常なんだよ!」
「は? 対戦?」
「うん。だってさ、お父さんが家のお金を持って行っちゃったから、お母さんは毎日大変なんだよ! だからね、私が変わりにお父さんにお仕置きするのっ! このゲームを始めた時から、そう決めてたんだからっ!」
するとお父さんは困った顔になった。
やっぱり、引け目を感じているんだと思う。
「うわ~……シンギさん、これ対戦っていうか、一発殴られた方がいいッスよ。じゃないとその子が可哀そうッス」
「金パクるとかマジパネェッス……」
お父さんの仲間の人も、私の加勢を始めてくれた。
「ぐぐぐ……わーったよ。んじゃあ沙南、一発殴れ! ただしスキルと特技は使うなよ。通常攻撃でだぞ!」
「いやいやシンギさん何言ってんスか? その子のレベル100もいってないんだから、通常攻撃なんて課金装備してるシンギさんになんてダメージ与えられないッスよ。普通にスキルと特技使わせてあげればいいじゃないッスか」
「うるせーよ! お前らは沙南の恐ろしさを知らねぇからそんな事が言えんだよ!! こいつは普通じゃねぇんだ。さっき偏った育成したって言うし、嫌な予感しかしねぇよ!!」
お父さん酷いよぉ。私普通だもん……
「だとしてもッスよ? シンギさん家族捨てたのは事実なんスよね? だったらここは本気で殴られないと」
「男見せて下さい。おなしゃース!!」
私の仲間よりも自分の仲間に文句言われてる。
なんだかちょっとかわいそうになってきたよ……
「えっとね、やっぱりお父さんを本気で殴るなんて出来ないから、デコピンでいいかな」
「んじゃ、スキル有りの特技なしでいいだろ。さっさと終わらせようぜ。公開処刑もいいとこだ……」
【シンギとプラクティスバトルが開始された】
「オラ沙南! デコピンでもなんでも好きなように攻撃しろ。……くっそぉ、こんな時に限って防御重視の装備をしてねぇなんて……」
お父さんはその場にドカッと座り、目を閉じる。私はそんなお父さんの目の前に立って、額の近くで弾く指を構えた。
【沙南がスキルを使用した。力溜め】
【沙南がスキルを使用した。ベルセルク】
【沙南がスキルを使用した。クリティカルチャージ】
【沙南がスキルを使用した。コンボプラス】
「お父さん! お母さんに迷惑かけちゃ、めっ!!」
【沙南の攻撃】
――ピンッ!
私はお父さんのおでこを指で弾く。
【沙南のアビリティが発動。コンボコネクト+2コンボ】
【沙南のアビリティが発動。先手必勝+1】
【沙南のアビリティが発動。HPMaxチャージ】
【沙南のアビリティが発動。状態異常打撲付与】
【沙南のアビリティが発動。アビリティブースト】
【沙南のアビリティが発動。無効貫通】
「ぐほおおおおおっ!?」
私がおでこを弾いたその瞬間、お父さんは電車に跳ね飛ばされたかのように吹き飛んでしまった!
そして遠くの岩山に激突してモクモクと砂煙を上げている。
【シンギに73万3204のダメージ】
【シンギを倒した】
「シ、シンギさーん!? うわっ、大丈夫ッスかー!?」
「娘さんマジパネェッス!!」
お父さんの防御アビリティがいくつか発動したものの、私の攻撃アビリティを抑えるところまではいかなかったらしい。
そんな私のデコピンにて、お父さんへのお仕置きは完了したのだった。
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「だから言ったじゃねぇか! こいつはゲームに関して異常なんだよ!」
「お、お父さんごめんね。痛かった?」
お父さんが拗ねてしまったので、私は後ろから一生懸命におでこをナデナデしている。現在、私達は輪を作るようにして座り込んでいた。
お父さんの左右には同じクランの仲間が座っていて、残りはび~すとふぁんぐのメンバーがゾロリと並んでいた。
「アンタらも沙南と同じクランなら分かるだろ!? こいつがどんだけとんでもない奴かって事がよぉ」
「とんでもないくらい……可愛い?」
シルヴィアちゃんがそう首を傾げる。
えへへ。照れるよぉ。
「とんでもないくらい……優しい!」
ルリちゃんがそう断言してくれた。
嬉しい!!
「とんでもないくらい……忠義を尽くしたくなります!!」
狐ちゃんも負けじとそう言ってくれる。
みんなそんな風に思ってくれてたなんて、私は幸せだよぉ。
「皆さん違います! そう言う事ではありません!」
ガーーーン!? ナーユちゃんに全否定された……
そ、そうだよね。調子に乗ってごめんなさい……
「あ、すみません沙南さん。否定するつもりは無かったんです……。けどお父様が言いたいのは、とんでもなくゲーム技術が卓越しているという事ですよね?」
ナーユちゃんがそう言い直すと、お父さんは力強く頷いた。
「そうだ。俺はこいつと昔からゲームで遊んでやっていたんだが、格ゲーなんかをやるととんでもない速さでうまくなりやがる。もちろん最初は俺が勝つんだが、三日も練習すればもう俺でも勝てなくなる。ゲームによっては十回対戦して一回勝てるかどうかってくらいまで実力差が出たりもする」
「そ、そんな事ないよ! お父さんゲームうまいもん! 私たまに負けたりするよっ!」
「うるせぇよ! だから十回やって一回勝てるかどうかって言ってんだろ! 下手なフォローされると余計ミジメになんだよ!!」
ふえぇ……。お父さんに怒られた……。ションボリ……
「特に、ブロッキングなんかの特有なテクニック、動体視力、反射神経なんかが必要なゲームだと尚更だ。はっきり言って、こいつのゲームの腕はプロゲーマーにだって引けを取らねぇ」
お~!! と、周りからは感嘆の声が上がる。
えへへ。それほどでもないよぉ。
「その代わり頭は悪い。ゲームをさせすぎてバカになっちまった」
あ~……と、納得するような声が聞こえてくる。
誰!? 今納得した人誰なの!?
「待って! 沙南は確かに頭悪いけど、やるべき事はちゃんとしてる!」
そう言って立ち上がったのはルリちゃんだった。
……今、はっきり頭悪いって言われた!?
「沙南はちゃんと毎日学校の宿題やってきてる! ただ、テストの時にいい点数が取れないだけ! 努力はしてる!!」
ルリちゃん……庇ってくれてありがとう。ただ、テストでいい点取れない事を暴露されるのはかなり恥ずかしいから止めてほしい……
「まぁそんな事はどうでもいいんですが――」
そうナーユちゃんが話題を変えようとしていた。
……って、私がテストでいい点を取れない事がどうでもいい!?
「――お父様はこれからどうするつもりですか?」
「ま、見つかった上にこれだけの人数にも知られちまったんだ。もうきっちりケジメを付けるしかねぇだろ」
ケジメ……。そういえば……
「お母さんもね、『男なら自分でやった事に対するケジメくらいつけるべき』って言ってたっけ……」
「そうか……。ん? おい沙南、まさか俺がここにいる事を佳南に言ったのか!?」
「ううん。まだ言ってないよ。多分お母さんには気付かれてないと思うんだけど……」
「あいつは勘がいいからなぁ。……他にも何か俺に言ってたか?」
「うん。『これ以上沙南を悲しませることをしたら許さない』って言ってた」
お母さんの言葉を伝えるだけなのに、これを自分の口から言うのはなんだか恥ずかしい。
「はは……あいつらしいな。ま、なんにせよ潮時だからな。もうゲームに課金するのは止めにする。仕事の方も安定した給料が入りそうだからよ、ちゃんと毎月生活費を送るわ。これで佳南の負担もかなり減るだろ」
よ、よかった~……。これで安心だよぉ。
「それじゃあお父さんはいつ帰ってくるの? また一緒にゲームしよ!」
するとお父さんは顔を落として黙ってしまった。
そして考え込んで、声のトーンを落として静かに答えた。
「俺はもうあの家には帰らねぇ」
その言葉が、私には一瞬理解出来なかった……




