「パパと一緒におうち帰りましょうね~。デュフフフ♪」
「自分が見つけましたのは、前回のイベント十位。『アニメの語り部屋』というクランに所属する、トントンというプレイヤーです」
烏さんについて行くと、小川に架かる橋の上で一人の男性が佇んでいた。私達が近付いていくと、その人もこっちに気が付いて歩み寄って来る。
「ふむ、吾輩を呼び出したのはキミ達でふか?」
なんだか妙なしゃべり方をするその人は、ふくよかなお腹をしていた。モジャモジャのパンチパーマに大きなリュックを背負い、キラリと丸メガネを光らせる。
「左様。自分がお主に連絡をした小烏丸だ。こんな時間に呼び出して大変申し訳ないのだが、なんとしても確認したい事があってご足労いただいた」
「ふむ。して、吾輩になんの用でふかな?」
「単刀直入に聞こう。お主は過去に未練がありながらも、このゲームを続けているな?」
烏さんが一気に本題へと持っていく。
「そりゃあ未練なんて沢山あるでふよ。録画が壊れた時に限って見たいアニメとゲームのイベントが重なったり、聖地で秘蔵の品を見つけたはいいが、同士に先を越されたりと――」
「そんな些細な事ではない! お主、以前家族を捨てた事はないか!?」
「へ? 家族を……?」
キョトンとするトントンさんだけど、その時に私と目が合った。
まさにその瞬間だった……
「フォーーーーーーーーー!!」
突然トントンさんが奇声を上げた!
「リアルアバターキターーー!! リアル幼女キターーー!! 萌えーーー!!」
唖然となる。
私は得体のしれない恐怖によって、その場ですくみあがっていた。
「と、突然なんだ!? 主殿が怯えているではないか! お主は主殿の父君ではないのか!?」
「デュフ? あ~、そう言う事ね。うんうん。そうだよ。吾輩がその子のパパだよー」
う、嘘だー!! 萌えーとか言ってたもん! この人絶対なりすましだよ!!
「さぁ沙南たん。パパと一緒におうち帰りましょうね~。デュフフフ♪」
「違うー!! お父さんは私の事を『沙南たん』なんて呼ばないー!! っていうか私を見る目がなんか怖いー!!」
名前は簡易ステータスで見れば分かる事だし、どう考えても変だよぉ……
「違う違う。久しぶりに会ったから、大きくなったな~って見てただけでふよ。ほら、大分前に別かれたよね? 沙南たんあの時はもっとちっちゃかったよね?」
「曖昧すぎる~! 言ってる事が微妙に曖昧でどうとでも取れる内容だよぉ~!」
私は烏さんの後ろに隠れて様子を伺う事にした。
「私のお父さんなら、お母さんとケンカした理由を知ってるはずだよ! 答えてみて!!」
「ぬぅ!? そうきたかぁ……」
そうきたかって何!? もうほとんど偽物で間違いないんだけど!!
取りあえず本物なら、このゲームに課金しすぎてケンカした理由を知ってるはずだよ!
「ケンカの理由かぁ……。ほら、アレでしょ? 女性? 女性とのぉ……浮気……?」
「違うもん! 浮気じゃないもん!!」
「だよね!? 浮気じゃない方の理由だよね!! 知ってたよ? 金銭トラブルでしょ?」
「ズルい!! 今言い直したよ!! この人ズルっ子だよ!!」
「そ、そんな事ないでふよ~? ママとは沢山ケンカしてたから、どの理由の事だか分からなかっただけでふよ?」
「嘘!! 私知ってるもん! そうやって近付いて、私の事を誘拐する気でしょ!!」
私は烏さんの足にしがみ付いて、一瞬たりとも警戒を緩めない。
気を抜いたら、さらわれる!!
「ええい貴様、やはり偽物か!? 主殿、ここは自分に任せてお逃げください!」
「う、うん」
私は元来た道を走り出した。
「あぁ、沙南たん待ってー!」
「ええい、よくも騙してくれたな! ただのロリコンではないか!!」
後ろからはそんなやり取りが聞こえてくる。
「沙南! こっちこっち!」
遠くの草むらから見守っていたルリちゃん達が、必死に手招きをしていた。
私はその草むらへ飛び込んで、ルリちゃんに抱き付いた。
「うわーん! ルリちゃん怖かったよぉ……」
「もう大丈夫。よしよし」
ルリちゃんが私をあやす様に抱きしめながら頭を撫でてくれた。
「おのれぇ! よくも姫様に怖い思いを!! アニメの語り部屋というクラン、潰す!!」
狐ちゃんが殺気をゴウゴウと放ちながら刀を抜きかけている。
「小狐丸さん落ち着いて下さい。相手はなんだかんだでイベント十位。むやみに喧嘩を売らないで下さい。オタクの結束力は高いとも言いますし」
ナーユちゃんが暴れる狐ちゃんを必死になだめていた。
「というか、私も小烏丸さんもお父さんを見つけられませんでしたね。沙南ちゃんごめんなさい……」
そうシルヴィアちゃんが申し訳なさそうにしていた。
「ううん。二人共私のために頑張ってくれたもん。謝る必要なんてないよぉ」
「その事なんだけど、ちょっといいかしら?」
そう切り出したのは、瑞穂ちゃんだった。
「アンタ達が『過去にしがらみを持った人物』を探した時にさ、地下ダンジョン攻略部隊の中にはそういう人物はいなかったの?」
「あの前回イベント一位のクランにですか? 順位が奇数のクランは私が調べる事になってましたが、気になる人物はいなかったと思いますよ?」
すると瑞穂ちゃんは怪訝そうな表情になった。
「私、モフモフ日和にいた時にさ。地下ダンジョン攻略部隊に入隊する時に、過去を捨てるために名前を変えたメンバーがいるって話を聞いた事あるわよ?」
その話に周りのみんなが反応する。
確かこのゲームは、いつでもプレイヤー名を変えられるはず……
「その人って、イグニスって名前だった!?」
私は思わず瑞穂ちゃんにそう聞いた。
「いや、さすがにそこまで覚えてないわ。けど、シルヴィアならそこまで調べてあると思ってたんだけど……」
「その話は初めて聞きましたね。ミズっち以外からは全く出てこなかった情報です……」
シルヴィアちゃんが口元に手を当てて考え込む。
「沙南ちゃん、私達にもう一度チャンスをください。その人物を明日までに調べておきます」
「う、うん。けど、無理する必要はないからね?」
「いえ、これは私の情報屋としての意地です! まぁそれはそうと、沙南ちゃんはそろそろ寝た方がいいですよ。もう夜も遅いですし」
時間を確認すると、もうすぐ22時になろうとしていた。
「うん。じゃあ私はもうログアウトするね。みんなお疲れ様~」
そうして私は現実世界へと戻ってきた。いつもこの時間に寝ているので、もうすでにまぶたが重い。
明日こそはお父さんの手がかりを掴めるのかな……?
そんな事を考えながら、私の意識は眠りへと落ちていくのだった。




