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「音速は一秒で約331メートル進む……」

『これを開けたくば、エターナルハンティングを習得すべし』


 隠しエリアに置かれた宝箱を開けようとしたら、そんな条件を提示された。


「エターナルハンティングって何!? なんか名前がカッコいい!!」

「魔物の討伐数が1000を超えると貰える称号よ。私が持ってるから、開けてあげようか?」

「待って!!」


 私は手のひらを向けて瑞穂ちゃんを止めた。


「ここって魔物の数が多いよね。だったら、私もすぐに貰えるんじゃないかな!」

「まぁそうね。ここって一回の波で200匹くらいは出てくるから、そこまで時間はかからないと思うけど……。え、何? アンタ自分で開けたいの?」


 私は必死に頷いた。

 それがゲーマーってものだよ!


「まぁいいけどね。ここで休みながらやればリキャストタイムも気にする事ないし、あとはMPが持つかどうかよ? 回復アイテムって沢山あるの?」

「それなら大丈夫!」


 ルリちゃんが、そう得意気に言った。


「アイテムは私が大量に確保してる。瑞穂にはまだ渡してなかったから、今のうちに送っておく」


【瑞穂にプレゼントが送られた。回復薬×500】

【瑞穂にプレゼントが送られた。魔法薬×500】

【瑞穂にプレゼントが送られた。万能薬×500】


「どんだけ持ってんのよ!!」

「沙南はMPが低いから、魔法薬が大量に必要。だから課金して、ついでに他のアイテムも一通り購入した」


 ルリちゃんいつもありがとう。ほんと助かるよぉ。


「……店で買える回復アイテムを買うのに課金する人って初めて見たわ」

「お金も愛の形だって、テレビで言ってた」

「そのお金で堕落する人もいるけどね。あんまり貢ぐとヒモになるわよ?」


 ヒモって確か、自分は働かずに、相手にお金を出させる人の事だっけ?

 私そんな事しないよ!!


「大丈夫。私の最終的な目的は、沙南と結婚して財産を共有する事。そうすれば全ての問題が一気に解決する。ふふん!」


 ルリちゃんそんなこと考えてたの!?

 でも、私の事をそこまで考えてくれていたなんて……


「もう~ルリちゃんったら~。いつも気にかけてくれてありがとね」

「ん。私はいつでも沙南の味方」


 私がルリちゃんのほっぺたをつつくと、きゃいきゃいと嬉しそうな悲鳴をあげる。


「いや、結婚は無理でしょ……」


 そんな中、瑞穂ちゃんは冷静にツッコミを入れてくれるのだった。

【沙南は新たな称号を手に入れた。エターナルハンティング】

エターナルハンティング:魔物の討伐数が1000を超えた。ステータスに100ポイントの振り分けができる。


 やったー! ついに手に入れたよ!!

 さらに、どうせ戦うなら余っているアイテムを使おうとルリちゃんに言われて、全員で経験値二倍薬を使用した結果、私のレベルは98にまで上がっていた。


「……すごい数と戦った割に、そこまでレベルは上がらなかったね」

「ここって魔物の数は多いけど、その分経験値が少ないからね。まぁ普通はここでレベル140くらいまで稼ぐ階層だから、アンタ達はまだスイスイと上がった方なんじゃない?」


 休憩も兼ねて、約一時間戦ってレベルが6上がるのは確かに速い方かも。

 まぁそんな事よりも……


「早く報酬を貰いに行こう!」


 私は急いで隠しエリアにある宝箱まで走って戻った。そして、宝箱をそっと開ける。


【沙南は新たなスキルを習得した。コンボプラス】

コンボプラス:消費40。その戦闘中、どんな攻撃でも1コンボ加算されるようになる。


 おお!? このスキルはなんか斬新だね。今まであまり意識しなかったコンボを稼ぐことができるんだ。


「へぇ~、面白いスキルね。良かったじゃない。頑張って習得したスキルが被らなくて」

「うん! 二人が手伝ってくれたおかげだよ。ありがとね」

「ふん! か、勘違いしないでよ。せっかくこっちのクランに移ったんだもの。役立たずだなんて思われたくなかっただけなんだから!」


 相変わらず瑞穂ちゃんは素直になれないみたいだった。


「最初は暇だって言ってたのに……。瑞穂の理由はコロコロ変わる」

「う、うっさいわね! どっちも本当の事なの!」


 素直にはなれないけど、少なくとも気兼ねなく話し合えてはいる。ちゃんとクランに馴染んでいるようで嬉しい!


「よし! それじゃあそろそろボス戦に行こう!」


 私が立ち上がると、二人も笑って立ち上がる。その表情は頼もしいの一言だ。

 私達が隠しエリアから外に出ると、すぐに魔物が奥から湧いて出る。しかし、もう戦い方に慣れた私達は、安定して魔物を撃退していく。お互いの役割をしっかりとこなす連携の取れた動きで、魔物の波を無事乗り切った。


「あと1、2回は今の戦闘をしないとボスまではたどり着けそうにないわね」


 瑞穂ちゃんがそう言った。しかし、私にはある考えがあった。


「その事なんだけど、私に任せてほしいんだ」


 不思議そうに首を傾げる二人を、私は両脇に抱えるように固定する。


「ま、まさかアンタ……」

「それじゃあ行くよ!!」


【沙南がスキルを使用した。ソニックムーブ】


 ギュン! と、超加速で私は走り出す。とてつもない速さだけど、ただ直進するだけなので景色は変わらないように見えた。


「ぎゃあああぁぁ……」


 小脇に抱える瑞穂ちゃんの悲鳴が、風に流れて遠くに聞こえる。

 大げさだなぁ。別に落としたりしないよぉ。

 すると、一瞬奥の方で魔物の陰が見えた気がする。

 また湧き始めたんだ。

 そしてさらにその奥にはボスへの扉がそびえ立つ。ついに最奥まで辿り着いた!

 ソニックムーブは一秒間使用するごとに体力を消費するスキル。ここは、もう一秒追加する!

 私は地面を蹴って壁を走った。こうすることで魔物をやり過ごし、距離を稼ぐ事ができるから!

 さらに壁を蹴り、扉に向かって大きく跳んだ。真下の魔物を飛び越えて、私はボスへの扉を蹴破った!

 飛び込んだボスフロアの地面をしっかりと踏みしめてブレーキをかける。着地は見事成功した。


「ちょっと沙南! アンタ私達を殺す気!?」


 抱えていた二人を地面に降ろすと、瑞穂ちゃんは涙目で文句を言ってくる。

 やっぱり素直になれない性格みたい。ツンデレさんなんだね。


「ジェットコースターってこんな感じなんでしょ? あ、もしかして瑞穂ちゃん、ジェットコースター乗った事ない?」

「あるわよ! けど今のはジェットコースターどころか、戦闘機よりも酷いわ!! アンタこそジェットコースター乗った事あんの!?」

「え? ないよ。だって私、家族とはゲームでしか遊んだことないもん」


 そう伝えると、瑞穂ちゃんは口をあんぐりと開けて黙ってしまった。

 次に、ルリちゃんが私の肩にポンと手を乗せる。


「……沙南、音速は一秒で約331メートル進む……」

「わぁ、さすがルリちゃん物知りだね。勉強になるよぉ」


 するとルリちゃんも黙ってしまった。結局何が言いたかったんだろう……?


「グモモモモモモ!!」


 私達がおしゃべりをしていると、ここのボスが輪郭を表した。それは、とても巨大な木の魔物だ。木の幹に人の顔が浮かび上がっていて、結構気味が悪い。

 上の葉っぱからは虫型の魔物がボトボトと落ちてきて、少しずつ増えていく。


「あいつはどんどんザコを生み出すから、うまく立ち回らなくちゃダメよ」

「ふ~ん。前の階層みたいに、遠距離攻撃でまとめてやっつけちゃえばいいんじゃない?」

「それは無理。あいつはアビリティに、『遠距離攻撃耐性+5』っていうのを持ってる。調べた人が言うには、ダメージ99%カットされるらしいわ」


 へぇ~。遠距離攻撃99%カットかぁ……


「それってさ、仮に1億ダメージを出したら、どれだけ減らされるの?」

「アンタ勉強苦手なの? 1億の99%カットって言ったら……ええっと、1万くらいしか与えられないって事よ」

「瑞穂違う。1億の99%カットは、100万」


 ポッ、と瑞穂ちゃんの頬が赤くなった。


「と、とにかく、遠距離攻撃じゃ倒せないって事なの!」

「わかった。それじゃあ私が攻撃してみるね」


 私はみんなよりも一歩前へ出る。


【沙南がスキルを使用した。力溜め】

【沙南がスキルを使用した。ベルセルク】

【沙南がスキルを使用した。クリティカルチャージ】

【沙南がスキルを使用した。コンボプラス】


 そして、蹴り出す足に力を込めた。


【沙南がスキルを使用した。ソニックムーブ】


 ――ギュン!!

 私は一気に加速して正面から突っ込んだ。虫型の魔物の間を縫い、ボスとの間合いを一気に詰める。しかしその瞬間、私の目の前に振り下ろされた触手が迫っていた。

 ――ズガアアン!

 触手は地面を叩きつけ、クレーターを作る。

 私は直角に曲がり、ギリギリでその攻撃を回避していた。


「避けた!?」

「沙南凄い!!」


 ボスの側面に移動した私は、一気に飛び掛かり両手を突き出した。


【沙南が大技を使用した。絶技、獣神咆哮牙】


 渾身の一撃がボスへと直撃した!


【沙南のアビリティが発動。コンボコネクト+2コンボ】

【沙南のアビリティが発動。先手必勝+1】

【沙南のアビリティが発動。カウンター+1】

【沙南のアビリティが発動。ソニックスマッシュ】

【沙南のアビリティが発動。状態異常打撲付与】

【沙南のアビリティが発動。アビリティブースト】

【沙南のアビリティが発動。無効貫通】


【巨大人面樹に8562万1536のダメージ】

【巨大人面樹を倒した】

【沙南のレベルが99に上がった】

【沙南は新たな称号を手に入れた。巨大人面樹を屠る者】

【沙南は宝箱を開けた。ガチャチケット】


 うあ~! キラー系が発動しないから1億までいかなかった~。けどなんとか倒せたし、まぁいいかな。


「沙南、お疲れ様。今日もカッコよかった!」

「それにしても、アンタよくあのスピードで敵の攻撃が避けれたわね」

「えへへ、私、動体視力には自信あるから!」


 私は二人とハイタッチで喜びを分かち合った。


「ソニックムーブの扱いといい、動体視力でどうにかなるレベルじゃない気がするんだけど……」

「沙南は最強だから誰にも負けない!」

「いや信者かアンタは!」


 私達はそんなおしゃべりをしながら、一旦街へと戻ることにした。もう夕方になって、家の事で一旦ログアウトをしなくてはならないから……

 街へと戻った私が、ガチャだけ引こうか迷っている時だった。


「あ、沙南ちゃん戻ったんですね」


 シルヴィアちゃんと街で鉢合わせになった。


「聞いて下さい。沙南ちゃんのお父さんを見つけましたよ」

「……え……?」


 その言葉に、私の思考は一瞬止まるのだった……


現在の沙南のステータス。

LV :99

HP :8740

MP :600

ATK:6420(8346)

DEF:580

INT:168

RES:442

AGI:874

DEX:658

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