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「運営さんのメッセージなんじゃないかな」

「み、皆様落ち着いてください! 下手に動くとまたトラップが発動して危険です!」


 狐ちゃんの一声で全員が大人しくなる。


「次は私が先頭を行きます! 皆様は私が通った後に一列になって付いて来て下さい!」


 そう言って狐ちゃんは一直線に走り出した。

 ――カチッ! ポチッ! ピコッ!

 当然色んなトラップが作動して、矢やら岩やらが飛んでくる。それらを抜いた刀で全てを両断した!


【小狐丸のアビリティが発動。居合切り】

【小狐丸のアビリティが発動。居合切り】

【小狐丸のアビリティが発動。居合切り】

【小狐丸のアビリティが発動。居合切り】


 おお~、狐ちゃんカッコいいよぉ!

 私達はトラップが全て作動したであろう今の道を、一列になって通り始めた。すると……

 ――ゴロゴロゴロゴロ……

 狭い通路の後ろから、巨大な岩が転がってくる……


「お約束のトラップだー!!」


 狐ちゃんが踏んだ、時間差で冒険者に迫るトラップから全員が逃げ始めた。

 よぉし! ここは私がジャストガードで喰い止めるよっ!

 そう思って大岩に立ち向かおうとした。しかし、ヒョイっと私の体は宙に浮き、みんなと同じ方向に進み始める。どうやら烏さんの小脇に抱えられてしまったらしい。


「主殿はこの中で一番AGIが低いのですから、自分が運びます!」


 むぅ……。なんだか宅急便の荷物になって運ばれてる気分だよぉ……

 直進した先を直角に曲がり、私達はなんとか大岩をやり過ごした。


「はぁ、なんとかなったわね……。けど、他の冒険者がいなくてよかったわ。こっちはタダでさえ人数が多くて誰かが動くとトラップ作動させちゃうし」


 瑞穂ちゃんの言う通り、この階層に来てから他の冒険者には会っていない。

 多分、他のサーバーか何かに分けられているんじゃないかな? そうじゃないと、大量の冒険者によってあっちこっちでトラップ地獄になっちゃうし。

 ボスのフロアに入ると他の冒険者が入って来ないのと同じような原理なのかもしれない。

 ――カチッ! ヒュー!!

 傍らで蜥蜴さんがまた落とし穴のトラップを踏んで落下していた。

 ……これは一種の持ちネタなの……?


「――様。沙南様! 聞こえますか!?」


 するとなぜか蜥蜴さんの声が聞こえてくる。ま、まさか落とし穴に落ちすぎて幽霊になっちゃったとか!?


「ここです! 落とし穴の中です! ここがこの階層の隠しフロアになっているんです!」


 そうなの!?

 私が穴の中を覗くと、蜥蜴さんが奥底で手を振っていた。


「どっかの落とし穴の中が隠しフロアだという事は知っていたんですが、どこかまでは覚えておらず、こうして探していた次第です」


 そうだったんだ。私はてっきりそういう路線か、もしくはギャグ要員でキャラ付けしているのかと……

 兎にも角にも、私は穴の中へ降りてみた。すると底から横穴が続いており、その先に宝箱が置いてある。もちろん私はそれを開けようとした。


『これを開けたくば、この階層で10回以上トラップを作動させろ』


 ……うん。もう十分すぎるほど作動させたからね? なんならパーティー全体で10回くらいはダメージ喰らってるからね?

 私はもう一度、宝箱を開けようと力を込める。するとガチャンと音を立て、宝箱は開いてくれた。

 その中身はいつもの通り、能力を習得するための習得書が入っていた。


【沙南は新たなアビリティを習得した。ブロッキング】


 このアビリティ、私が初めてガチャを引いた時に出てきたアビリティだ……


「このアビリティ、沙南様はすでに習得していましたよね。しかもブロッキングは被っても性能は上がらない。拙者が見つけたこの隠しフロアは完全に無駄だったという訳ですな……」


 蜥蜴さんがガッカリしたように俯いてしまった。


【ブロッキングは最大レベルのため、能力の結晶に変わった】


 そして私のアイテム覧に、『能力の結晶』というアイテムが追加される。けれど、今の私はそんな事よりも他の事を考えていた。


「蜥蜴さんがここを探してくれたのは無駄じゃないよ。だってさ、今こうして私は確信したんだもん」

「確信した? 何をですか?」

「瑞穂ちゃんが言ってたじゃない? 地下5階と10階以外は、ガチャの銀枠が習得できるようになってるって。私ね、最初はガチャの銀ってハズレだと思ってたんだ。けどそうじゃない。むしろ運営さんは、銀で出てくる能力を使ってほしいんじゃないかな? だってさ、こんな風に隠しフロアに設定しなくたって、ガチャで銀枠なんて嫌でも手に入るでしょ? それなのにしつこいくらいに出してくるって事は、これって運営さんのメッセージなんじゃないかな」


 私は段々と胸が熱くなるような感覚に陥る。


「運営の……メッセージ?」

「そう。そのクラスを極めたいのなら、まずは銀で出てくる能力を使いこなしてみろっていうメッセージ! 私の場合は武闘家だから、この圧倒的な攻撃力を持つ職業を扱いたいのなら、銀で出てくるジャストガードも、ソニックムーブも、そしてこのブロッキングも極めてからにしろ! そうじゃないと、この圧倒的な攻撃力は宝の持ち腐れだぞって! そして逆に言えば、それらを使いこなせれば、武闘家の攻撃力と合わせて『最強』になれるって事じゃないかな!?」


 ついつい熱く語ってしまった私が我に返ると、蜥蜴さんはポカンとした表情で聞いてくれていた。


「あ、あはは。だからね、蜥蜴さんがここを見つけてくれた事は無駄なんかじゃないよ。どの道見つけるまでは探すつもりだったしね。だから、ありがとう」


 私がそう言うと、蜥蜴さんはなぜか涙ぐんで、私に頭を下げてしまった。


「拙者にはもったいないお言葉! ……やはり我々は、あなたに仕えて正解だった」


 そんな事を、小声で呟いてくれるのだった。

「ねぇ。『能力の結晶』ってどんなアイテムなの?」


 私が蜥蜴さんとあんな会話をした事などいちいち伝えず、みんなの所に戻った私は開口一番にそう聞いた。

 そしてそれに答えてくれたのは瑞穂ちゃんだった。


「ガチャを引いていれば同じ能力が被る事ってあるでしょ? 基本的には+1ってなふうに、被ればその分だけ性能がよくなるのよ。それでも最大が+5までだし、中にはブロッキングみたいにそれ以上性能が良くならないものもあるわ。そういう能力を手に入れると、能力の結晶というアイテムの変わるのね。これを三つ集めると、ガチャの銀枠の中から一つだけランダムで獲得できるのよ。金枠なら十個。虹枠なら三十個よ。まぁ救済措置みたいなものかしら?」


 そっか。まぁガチャによくあるシステムかな。ランダムでもう一回引けるなら虹枠でも三十個は妥当かもしれない。


「んじゃ、そろそろボス戦に行きましょう。いい加減ここのトラップにもウンザリだし……」


 そして私達はようやくボスフロアへとたどり着いた。

 意を決して中へ入ると、ボスはかなりの大きさだ。まるでロボットのような光沢のあるボディだが、人形のように見えなくもない。

 一言で例えるなら、メタリックな色をした土偶だった。


「さて、と。あいつは全身がトラップみたいな奴よ。近付くと色んな機能が発動してガンガン遠距離から攻撃してくるわ。倒し方はいくつかあるけど、ここでベストなのはこっちも遠距離で倒しちゃう事ね」

「しかしあのボスは遠距離攻撃を仕掛けると、高性能なバリアを展開します。さらには一度だけ攻撃を無力化するとも聞いています」


 狐ちゃんがそう付け加えてくれた。


「大丈夫よ。こっちには強力な遠距離攻撃を使える人が三人もいるんだもの。んじゃ、私が先に仕掛けるわね」


 そう言って、瑞穂ちゃんは遠くでジッと動かないボスに向けて杖を掲げる。


【瑞穂がスキルを使用した。マジックアクティベーション+1】

【瑞穂がスキルを使用した。マジックエンハンス+2】


「それじゃ一丁ぶち抜きますか!」


【瑞穂が大技を使用した。秘技、マジックブレイカー】


 それは魔力を含んだ膨大な光!

 それは半透明に透き通る、膨大な波動!

 それが今、土偶のようなボスに向かって伸びていく!


【キラードールがスキルを使用した。結界】


 ボスがバリアに包み込まれる。そのバリアに、魔力の波動が直撃する!

 ――バリバリバリッ!!

 激しい音が響くのと同時に、強い熱風がここまで届いてくる。


「……瑞穂、少なくともバリアくらい壊して」


 ルリちゃんが煽る。


「うっさい! 本気出せばアンタよりも火力あるんだから! 黙って見てなさい!!」


 ――ピシッ!

 結界に亀裂が入る。それはドンドンと大きくなり、結界全体に広がって行く。そして……

 ――ガシャーン!!

 ついにボスの結界が砕け散った!

 しかし貫いた光の波動は随分と弱々しくなり、ボスに直撃しても小さな煙を上げるだけだった。


「次! ルリ!」

「わかってる……」


 静かに答えるルリちゃんが、剣を構える!


【ルリがスキルを使用した。マジックエンハンス+5】

【ルリがスキルを使用した。アタックエンハンス+5】

【ルリがスキルを使用した。マジックアクティベーション+5】

【ルリがスキルを使用した。精神統一+5】

【ルリがスキルを使用した。鍛冶研磨+5】


【ルリが大技を使用した。奥義、魔導砲】


 遥か先にいるボスへその剣を突き出すと、先端から波動砲が発射された。

 真っすぐに伸びるその砲撃がボスを襲う!


【キラードールがスキルを使用した。デッドリーキャンセラー】


 しかし直撃したかと思うと波動砲全体が砕け散り、その魔力は空気中へ霧散していく。


「無効化されるんだから別にスキルまで使う必要なんてないのに」

「いいの。こういうのは気分も大事。じゃあ後は沙南、お願い!」


 やっと私の番が回ってきた。

 私はしっかりと地面を踏みしめて、構えを取る!


【沙南がスキルを使用した。力溜め】

【沙南がスキルを使用した。ベルセルク】

【沙南がスキルを使用した。クリティカルチャージ】


 そして、両手を勢いよく前へとかざした!


【沙南が大技を使用した。秘技、獣王咆哮波】


 すると金色に輝くの衝撃波が放出される!


秘技、獣王咆哮波:消費180。遠距離物理攻撃と、遠距離魔法攻撃の両方の属性を持つ。攻撃力15倍。


 結界も無効化も使い切ったボスは、私の放った気の濁流に呑まれていく。そして粉々に砕けて消えていった。


【キラードールを倒した】


 当然の事だけど、前に出した一億ダメージには及ばない。それでもまぁ、みんなの力を合わせて倒したという高揚感はクセになりそうな気持良さがあった。


【沙南は新たな称号を手に入れた。キラードールを屠る者】

【沙南のレベルが88に上がった】

【沙南は宝箱を開けた。ガチャチケット】


「姫様お疲れ様です。この後はどうなされますか?」

「今日はそろそろ落ちる時間だから、ここまでにしよう。みんな、付き合ってくれてありがとう!」


 私はみんなにお礼を言ってから地上へ戻り、ログアウトをした。

 ふぅ。今日は一気に二階も降りる事ができた上に楽しかったなぁ。

 そんな事を思い返しながら、私の夜は過ぎていくのだった。


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