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「よ~しよし! よ~しよしよし!」

「勝った!」


 そして私達は何事もなく魔物を討伐した。


「姫様!? 怪我はありませんか!?」


 すぐさま狐ちゃんが駆け寄ってきた。


「いやある訳ないでしょ。見てればわかるじゃん」


 瑞穂ちゃんはもうすっかりとツッコミ役になっている。


「も、もしかして自分達は、これからも戦闘に参加してはいけないのですか!?」

「ぬぅ……なんと歯がゆい……」


 二人も凄く残念そうにしているけど、大げさすぎるよぉ……


「ねぇ沙南、アンタ達ってこの階層の隠し報酬はもう取ったの?」


 瑞穂ちゃんがそう聞いてきた。


「うん。前に報酬だけ取りに来たことがあるんだ」

「じゃあレア魔物の討伐は?」

「あ、それはまだだよ」

「そう。それじゃあ刀三人衆、アンタ達に仕事をあげる。この階層のレア魔物を見つけてきなさい。こういうのは数を使って探した方が効率がいいからね。見つけたらクランチャットで知らせるのよ」

「はっ! その程度お安い御用!」


 なぜか瑞穂ちゃんが仕切って三人に指示を出していた。

 しかも結構使い方がうまい。


「ならば誰が一番早く見つけるか勝負といかないか? そして、その……勝った者には姫様からご褒美が貰える……とか?」

「お、おい小狐丸! それは主殿に失礼だろう! 我々は配下なのだぞ! ご褒美をせがむなどあってはならぬ」

「恥を知れ恥を!」


 そしてなぜか唐突に揉め始める。


「も、もちろん姫様が許してくれればの話だ! お前たちだってご褒美は欲しいだろう!」

「ふむ、まぁ確かにな。しかし主殿に失礼のないご褒美とは一体なんであろう?」


 すると狐ちゃんが頬を赤くして、恥ずかしそうに呟いた。


「た、例えば、姫様にナデナデしてもらえる……とか……」


 その言葉が出た瞬間だった。蜥蜴さんも烏さんも、目を見開いて驚愕する。


「な、なでなで!?」

「え? ナデナデしてもらえるのか!?」

「本当になでなで!?」

「ナデナデいいかも……」

「なでなで……」


 お兄さん的なフォルムの二人が、しきりにナデナデを連呼している。……ちょっと怖いよぉ。

 そして三人が一斉に、期待に満ちた眼差しを私に向けてくる。


「べ、別に私のナデナデなんかでいいなら、してあげるよ?」


 すると「うひょー!」などと歓声をあげ、両手を振るあげて喜んでいた。

 うん、なんかシュールだなぁ……


「よし! それじゃあ決まりだ。一番初めにレア魔物を見つけた者は姫様にナデナデしてもらえるという事で! では散開!」


 かなり真剣な……いや、本気で鬼気迫る表情の三人は、その場から脱兎だっとの如く散っていく。そして残された私の肩にポンと瑞穂ちゃんが手を乗せた。


「アンタも中々大変ね。お姫様」


 それはまるで、ピエロを見て楽しむ子供のような笑顔だったと、私はそう感じたのだった……

小狐丸:三つけました~!! 西の岩場にイルカら早く木てください~!!


 小狐丸ちゃんからクランチャットが入った。

 やたら慌てているせいか誤字だらけなんだけど、なんとか読む事はできる。とにかく私達は急いで狐ちゃんの元へと向かった!

 そしてその場へ着くと、まるで宝石のような綺麗な亀さんがノソノソと這っていて、HPゲージが表示された。これで称号を取得する条件が揃ったよ!


【沙南は新たな称号を手に入れた。エメラルドタートルを狩る者】


 倒すといつもの通り、100ポイントの割り振りが出来るので全部攻撃力に入れる。すると私のATK値は7072になった。

 うんうん。だいぶ上がってきたね。


「姫様。その……よろしいでしょうか……?」


 狐ちゃんが申し訳なさそうに、しかし期待を込めるような上目遣いで私を見てくる。そのふっくらとした尻尾は右へ左へせわしなく揺れて、頭の狐耳もピコンピコンと動いていた。


「あ、うん。狐ちゃん、ありがとね」


 私は狐ちゃんの頭を優しく撫でる。すると狐ちゃんはウットリとした表情のままひざまずく。


「あ、ありがたき幸せ!」


 トロンと蕩けるような目で、私の手を堪能するかのようにピクリとも動かない。

 はぅ~。なんだか本当に子狐のペットに懐かれている気分になってくるよぉ。


「よ~しよし! よ~しよしよし!」


 私は悪ノリをして、狐ちゃんの頭をこねくり回した。


「わわっ!? 姫様、激しいです! ふにゅぅ……」


 もしかすると嫌がるかもしれないと思ったけど、思いのほか気持ちよさそうだった……


「小狐丸、いいなぁ!」

「ナデナデ、いいなぁ!」


 烏さんと蜥蜴さんがジッとこちらを見つめていた。

 食い入るような真顔で、本当に羨ましそうだった……


「えっと……烏さんも蜥蜴さんも頑張ってくれたから、ナデナデくらいしてあげるよ?」

「誠ですか!? ひゃっほい!」

「主殿のなでなでぇ!!」


 そして年甲斐もなくはしゃいでいた……

 いや、これはこれで可愛いのかもしれない。


 そんな余興も終わりをつげ、私達は残す所ボスを倒すだけとなっていた。

 みんなでぞろぞろとボスのフロアへ向かっている最中に、私は今までずっと気になっていた事を聞いてみた。


「ところでみんなは、地下何階まで進んでいるの?」

「私は現在実装されている最下層、地下30階をクリア済みです」


 そう狐ちゃんが答えてくれた。


「自分は地下14階です」

「拙者も同じです」


 烏さんと蜥蜴さんは同じ所みたい。


「私は地下20よ。モフモフ日和のみんなが一気に進めさせてくれたからね」


 そう答えた瑞穂ちゃんは、さらに続けて教えてくれる。


「基本的に一階進むごとに、レベルを20上げた方がいいと言われているわ。つまりアンタ達は、普通だったらこの地下5階で100レベルまで上げた方がいいって事。今は私達がいるからガンガン降りて、行ける所まで行ってからレベルを上げた方が効率がいいけどね。大体レベル600を超えている人は地下30階をクリアしていると思っていいかもしれないわ」


 なるほど。結構深いんだね。まだまだ先は長いよぉ。


「ちなみに、各階層に隠しフロアが存在して、アビリティかスキルを習得できるけど、それは地下10階までだからね。大体地下10階までにガチャの銀枠が全て揃うように出来ていて、地下5階と10階にはそこそこいい報酬があるって感じかしら。あとは地下20階で奥義。25階で秘技。30階で絶技が習得できるわ」


 そっか。地下11階以降は隠しフロアがないんだ。けど仕方ないよね。そうしないとガチャを引く人がいなくなっちゃうもん。ボスがガチャチケットを落としてくれるだけでもありがたいよぉ!


「ところで姫様は秘技を使っておられましたが、どこで習得したのですか?」

「え? 地下一階の隠しフロアだよ。あそこの試練でいい結果を出すと、一気に全部習得できるんだ」


 するとその場のみんなが驚き始めた。


「え……、地下一階ってチュートリアルの所ですよね? あんなところに隠しフロアなんてありましたっけ!?」

「私も聞いた事ないわ。あ~またあの運営はお知らせに載せないで隠し要素を盛り込んできたか! たまにそう言う事をするのよねぇここの運営は」


 どうやら隠し要素をこっそりと実装するのが好きな運営さんみたい。


「それにしても姫様のステータスは独特ですよね。攻撃力に全振りしているんですか?」

「うん。実はね、私はこのゲームの中でお父さんを探しているんだ。見つけたら戦う事になるかもしれないから……」


 私はこの際なので、自分がこのゲームを始めたきっかけを話す事にした。


「そうだったのですね。それで、手がかりはあるのですか?」

「それが全然無いんだ。お父さんはゲームでよく、好きな車で『イグニス』って名前を付けていたんだけど、昨日のイベントではそんな名前のプレイヤーはいなかったし……」

「だったらウチの小烏丸をお使いください! おい小烏丸!」

「はっ! 自分は情報収集が得意なので、明日にでもシルヴィア様と連携して主殿の父君を探して参ります」

「本当に!? わぁ! 烏さんありがとう!」

「いえ、主殿のためならこれくらいは当然です」


 よかったぁ。これで見つけられる可能性が大きくなったよ!


「では、ここからボスフロアですね。姫様、さすがにボス戦は我々にも参加させてください。ここはHP回復無効のくせにボスが四匹もいるんです」

「そうなの!? わかった。なら私はその内の一匹を狙うね。称号も欲しいし」


 狐ちゃんと打ち合わせをしてからボスエリアに入った。

 中にはスモークでもたいているのかと思うようなモヤがかかっていて、その奥から真っ赤に染まる目玉が光る。徐々に姿が見えるようになると、その四匹のボスは真っ白い虎、赤い羽根を持つ鳥、巨大な亀、蒼い鱗の竜だった。

 あ、これ知ってる。確か四神っていう方角を司る神様だよね。とりあえず、ダメージを出せそうな鳥さんを狙おうかな。

 私が考えていると、ボスが一斉に動き出す。けれど、私もそれに合わせて駆け出して行った。

 真っ赤な鳥さんの元へ迫ると、その羽を羽ばたかせてカマイタチを巻き起こす。けれど、私にとっては中途半端な攻撃は狙いどころだ。なぜならば、攻撃モーション中に攻撃をすれば、わざわざブロッキングをする必要もなく『カウンター』を発動させることが出来るから!


【沙南がスキルを使用した。ソニックムーブ】


 私に攻撃を仕掛けたタイミングで高速移動を発動させる。そして一瞬で鳥さんの背後に回り込んだ!


【沙南が大技を使用した。絶技、獣神咆哮牙】


 高速移動の勢いを乗せたまま、私の一撃は完璧に決まる!


【沙南のアビリティが発動。先手必勝】

【沙南のアビリティが発動。カウンター+1】

【沙南のアビリティが発動。バードキラー】

【沙南のアビリティが発動。ソニックスマッシュ】

【沙南のアビリティが発動。状態異常打撲付与】

【沙南のアビリティが発動。アビリティブースト】

【沙南のアビリティが発動。無効貫通】


ソニックスマッシュ:高速移動中に攻撃を当てると攻撃力が2倍。


【朱雀に1億3442万4576のダメージ】

【朱雀を倒した】


 やった~! 一億超えのダメージだよ! さすがにこれは気持ちがいい!

 もう他のボスはみんなに任せようかな。


「姫様が決めた! 私達もゆくぞー!!」


 残り三匹のボスへ、みんなが突撃していく。

 本来、回復無効というボス戦ならば慎重に行動するのがいいのかもしれない。しかしレベル900超えの狐ちゃんを筆頭に、地下14階まで進めているメンバーは臆することなく突撃していく。

 ドカッ! バキッ! ズガッ! ザシュッ!

 そしてボス達は僅か十秒ほどで壊滅した。

 そして刀を鞘に納める狐ちゃんはというと……


 ――頑張ったよ! ねぇ褒めて褒めて!


 そう言いたげな表情で私を見つめてくるのであった。

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