「みんなもお疲れ様。今日はすっごく楽しかったよ!」
GMナーユ:沙南ちゃん、今ボスのレベルはいくつですか? 順位は?
クランチャットに、そんな書き込みが送られてきた。
沙南:レベルは680。順位は64位だよ。
GMナーユ:……わかりました。これからはレアボスの卵を狙って一発逆転を狙っていきましょう。うまくいけば50位に入れるかもしれません。
シルヴィア:ちょっと待って下さい! ボスのレベル680? 私、今までに20個くらいしか送ってなんですけど?
ルリ:私もシルヴィアと同じくらいだと思う。
え~っと、ボスを一体倒すと、8~10レベルの間で上がっていくから……
シルヴィア:ナユっち、私達の倍は運んでるんじゃないですか!? その上レアボスの卵を探すとしたら、さらに負担が増えるんですよ!? 体は大丈夫なんですか!?
レアボスの卵はアイテムバトルで奪う事ができない。所持したら確実に転送できる仕組みになっている。だからこそ、バトルで奪うだけでなく、探索する意味が出てくるんだ。
それにレアボスの卵をバトルで奪われたとしたら、かなりショックだと思うからこの仕様は頷ける。
GMナーユ:……残り30分くらいなら平気です!
シルヴィア:ほら~! って事は少しは辛いって事じゃないですか!
沙南:ナーユちゃん、具合悪いの?
シルヴィア:ナユっちはフィールドを高速で移動できるスキルを持っているから、それを駆使して動き続けているんだと思います。だけどそうなると、リアルの体に負担がかかるんですよ。当然でしょう。卵を探しながら、高速で流れる景色を見続けていたら脳が疲れるに決まっています。いわゆる乗物酔いをしてしまう原理ですね。
そう言えば私も一度なった事がある。かなり神経を使いながら戦っていたら、もの凄く勉強をした後のように疲れてしまった事が。
ゲームの中だと体の疲れは感じない。けど、脳は常に動いて疲労は溜まっていくんだ。
沙南:そんな……。ナーユちゃん、無理しないで!
GMナーユ:大丈夫ですよ。みんな大げさすぎです。私はまだまだ平気ですから、最後まで続けさせてください。
そうしてまた一つ、私の元へ卵が送られてボスへと孵化する。
GMナーユ:イベント前に話し合った作戦通りに行きましょう。ここからが踏ん張りどころですよ!
そうしてチャット覧は静かになった。
シルヴィアちゃんは刀剣愛好家を一つの目標として頑張ってる。ナーユちゃんも、50位に入れるように死力を尽くしてくれている。ルリちゃんだって、イベント前に課金をして気合いは十分だ。
……みんなが頑張ってくれている。一つでも順位を上げようと挑んでくれている。だったら、私はみんなを信じて自分にできる事をやるしかないんだ!
沙南:わかった。送られてきたボスは私が全部やっつける! 最後までみんなで頑張ろう!
ルリ:了解。
シルヴィア:("`д´)ゞ ラジャ!!
GMナーユ:了解です!!
送られてきたボスを叩く!
すると順位が63位に上昇した。刀剣愛好家は60位にいる。届きそうで届かない。
またボスが送られてきた。
それを叩くと順位が61位に上がった。
ボスが送られてくるペースが早くなったような気がする。みんながラストスパートをかけてくれているのかもしれない。
順位が60位に上がった。しかし刀剣愛好家は58位になっていた。向こうも必死だろうから、そう簡単には追いつかせてくれないみたい。
順位が59位になった。ここにきて順位が少しずつ上がっていく。きっとボスを一撃で倒しきれないクランが出てきて、そういったところを抜いているんだ!
ボスのレベルが900を超えた! HPは900万以上だけど大丈夫。通常のボスならまだまだ一撃で倒せる範囲だよ!
残り時間が10分を切った。現在の順位は55位。
どうやら最後にレアボスで一気に順位を上げようと考えているクランは多いらしく、周りでは金色の派手なボスが出現していた。
私の所にはまだレアボスは送られてこない。通常のボスを討伐し続けている。
残り時間が3分になった時だった。突然クランチャットから新着メッセージが届いた。
GMナーユ:レアボスの卵を入手しました。もうすぐで送りますので決めて下さい!
現在のボスのレベルは968。これだとレアボスのHPは9680万になる。
一人だけでは絶対に倒しきれるHPじゃない……
ルリ:作戦通り、もうすぐで沙南の所に到着する。ラスト1分のタイミングで転送して!
GMナーユ:了解しました!
そしてイベント終了残り1分というタイミングで、本当にレアボスが送られてきた。全身が金色の羽で覆われた、ゴージャスな雰囲気のひよこちゃんだ。
けれど、まだルリちゃんの姿は見えない。
ルリ:沙南、残り30秒のタイミングで攻撃を仕掛けて! 私が必ずそれに合わせるから!
ルリちゃんを信じよう。
私は時間を調整するために、デブピヨちゃんから距離を空けながら引き付ける。
そして残り40秒ほどのタイミングでボスに近付き、攻撃してくるように誘導をした。
私の思惑通り、ボスが私を踏みつける攻撃を仕掛けてきた。イベント終了まで残り35秒。
4……3……。
私は押し返すように手のひらを突き出して、ブロッキングを発動させた!
2……1……。
そしてそのまま時間と同時に、渾身の絶技を発動させる!
「0!!」
その瞬間に、私の後方からレーザー光線のような眩い光が飛来した!
ルリちゃんの奥義、魔導砲! 周囲の建物の合間を縫い、それが私の絶技と同時にレアボスに直撃する!
――デュアルアタック。
それは私のダメージをさらに伸ばす最終手段。さらにアビリティが五つ発動する事で無効貫通をも誘発する。
これが正真正銘、私の究極の一撃!
【沙南が8302万6944のダメージを与えた】
【ルリが2262万6000のダメージを与えた】
ボスは倒せたの!?
頭で計算する余裕すらなく、ボスに目を向ける。するとボスは光となって消えていく最中だった。
勢い余って私はその場に膝を付いてしまったけど、もうこれ以上ボスが送られてくることはなく、私はイベントポイントを確認する。
なんと、最後に倒したレアボスで1億0648万0000ポイントがプラスされていた。
【イベントの終了時間です。プレイヤーの皆様は、少しずつイベントエリアから退場してください】
そんなメッセージが、いたる所に出現してくる。
「沙南、大丈夫!?」
ルリちゃんが駆け寄って、私に寄り添ってくれた。
私は小さく頷いて、イベント順位を確認してみた。
すると……
――び~すとふぁんぐ! 46位。
そして刀剣愛好家は47位となっていて、そのポイント差は僅か、ボス一体分だけだった。
「や、やった……? 私達、やったの!?」
「うん! 最高報酬に届いた。……けど、ずっと沙南にだけ戦わせてごめんね」
そっか。イベントが始まってからの約二時間、私はずっと一人でボスと戦い続けていたんだ。他のクランはほとんどが二名以上をボスの討伐に残していたけど、それはデュアルアタックの他にも休憩とかを考慮していたからなんだね。
「ううん。みんなもずっと戦っていたんでしょ? 私の方こそみんなに感謝だよ」
私達は手を取り合って喜んだ。
確かに少し疲れたけど、すっごく楽しかったよ!
「沙南ちゃん、ルリっち、お疲れ様です」
するとシルヴィアちゃんの声が聞こえてきた。戻ってきたんだと思い振り返ってみると、なんとナーユちゃんをオンブしていた。
「ナ、ナーユちゃん!? 大丈夫なの!?」
「Hエリア付近でぶっ倒れてましたよ。まったく無茶して……」
ナーユちゃんは目をグルグルと回しながら、バテバテの状態だった。
「す、すみましぇん……ひ、一人でも歩けましゅから……」
呂律が全然回ってないよぉ……
「ダメです! ログアウトするまではこのままオブっていきますから、大人しくしていてください! ナユっちも意外とやんちゃなんですから」
「ナーユちゃん、卵集めすっごい頑張ってくれてたもんね。ありがとう!」
「い、いえいえ、楽しんでやった事でしゅから……」
やっぱり回復するには時間がかかりそうだった……
「みんなもお疲れ様。今日はすっごく楽しかったよ!」
みんなと手を合わせて祝福し合う。そうして今回のイベントは幕を閉じた。
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「ふぃ~……今日は楽しかったね~」
私はルリちゃんの部屋で目を覚ました。土曜日、日曜日とルリちゃんの家に遊びに来ていたからだ。
もうずいぶん長い事ここで過ごしたような気さえする。
「沙南、イベント報酬どうするの?」
イベント報酬は特技、スキル、アビリティの中から好きなものを一つだけ選んで獲得する事ができるシステムだった。
私の場合、特技は絶技まで習得してるし、やっぱり一番欲しいのはアビリティかな。一人でも沢山発動してくれないと無効貫通が発動しないし。
「私はアビリティの『アビリティブースト』ってのを選ぶよ。ルリちゃんは?」
「私は特技を選ぶ。魔法を使えるクラス特有の魔法が習得できるし、沙南の役にも立つから」
こうして、ログイン六日目にして初めてのイベントをルリちゃんの家で遊びつくした。明日はイベントの報酬が届くし、七日目のログインボーナスでガチャチケットも届くよ!
そうしてかなり満たされた気持ちのまま、私はルリちゃんの家から帰宅をするのだった。
今回のイベント報酬。
・称号
デブピヨ討伐Sランク:デブピヨ討伐イベントにて最高ランクに輝いた。ステータスに300ポイントの振り分けができる。
・アビリティ
アビリティブースト:アビリティを三つ以上同時に発動させると攻撃力が増加する。三つで1.5倍。さらに一つ増えるごとに+0.5。
これによる現在のステータス。
LV :85
HP :7620
MP :530
ATK:5340(6942)
DEF:510
INT:154
RES:386
AGI:762
DEX:574




