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「遊び心なくしてゲームは楽しめませんから!」

「仕方ありませんね。けど、なるべく他の人には言いふらさないでくださいよ? クラフトアイテムというのは、クラフターのDEXデクステの数字でランクが決まってきます。そして、最高ランクがSランクです」


 私が使っているアイテムが全てSランクの物ばかりなのは、彼女も身をもって知っているはず。


「しかし実は、最高のSランクになってたとしても、さらにDEXを伸ばし続けると、ランクはSのままなのに威力だけは上昇していくんです。これがクラフトアイテムの……いや、クラフターの秘密です。知っている人はほとんどいません」

「な……」


 彼女は驚いていました。まぁ驚くでしょうね。一般的にクラフターは、かなり弱いイメージのあるクラスですから。


「ま、待て、それはバグではないのか!? 大丈夫なのか!?」

「ん~……ウチのクランマスターがかなりゲームに詳しくて、イベント前に聞いてみたんです。彼女から言わせると、こういうのは仕様で他のゲームにもあるらしいですよ? 例えばレベルをカンストさせて、もう上がらないにも関わらず、それでも経験値を積むとステータスだけが上昇していくとかなんとか。GMゲームマスターに聞いたら、このゲームの開発者はかなりのオタクらしいですし」


 彼女は眉をヒクヒクさせながら、引きつった表情をしていました。

 

「……ちょっと待って。という事は、お前はアイテムがSランクになった後も、DEXにポイントを振って伸ばし続けたという事か!? こうなる事を知っていて!?」

「いやいや、知る訳ないじゃなですか。振ってから気付いたんですよ? だって私は――……」

 私は昔から物を作るのが好きでした。

 裁縫に、刺繍に、エトセトラ、エトセトラ……

 しかし、そんな私が常に悩んでいた事がありました。それが、究極に手先が不器用だったという事です……


「呪いの人形だね!? なんて禍々しい造形なんだ! でも大丈夫、うちの神社でちゃんと供養するから心配はいらないよ」


 私の初恋は、猫のぬいぐるみを悪魔のバフォメットと勘違いされて、その想いと共に燃やされました。

 しかしどうでしょう。私のモノづくりへの想いはさらに熱を増したのです!

 ……今思うとヤケクソだったのかもしれません。

 でもやっぱり、物を作るという行為は凄いと思うし、作れる人は尊敬してしまいます。だから、私は諦めずに作り続ける事を選びました。

 そんなある日でした。私はVRMMOという仮想世界にダイブするゲームを体験したんです。そのゲームには、クラフターというアイテムや装備を作り出す職業がありました。私は当たり前のようにそれを選択します。

 リアルでは不器用な私でも、ゲームの中ではDEXデクステリティを上げれば成功率を上げ、良質な物が作れるみたいです。私は夢中になってDEXを上げ続けました。

 どうやらこのゲームではクラフターを使う人は多くないようで、次第に色んな人から装備の加工を頼まれるようになりました。

 課金ガチャで手に入る装備は受け渡しはできませんが、通常アイテムから加工する装備は受け渡しが可能だからです。

 私はうれしかった。誰かのために装備を加工して、喜ばれる事が誇らしかった。

 リアルでは不器用な私でも、ゲームの中で頼られる事が自信に繋がったんです。

 だから――

――「DEXデクステ全振り。私はこのゲームを始めた時から、ポイントは全部DEXに振ろうって決めていたんですから」


 彼女は口をあんぐりと開けて驚愕していました。


「……狂ってる。これ以上意味があるかどうかも分からないステータスにポイントを入れ続けるなんて……」

「失敬ですね! ゲームをどうプレイするかは人それぞれですよ! 私は別に、このゲームをクリアするためにプレイしている訳ではありません。『ゲームを楽しむため』にプレイしているんです!」

「ゲームを……楽しむため……?」

「はい。遊び心なくしてゲームは楽しめませんから! あなただってそうでしょう? 『小狐丸』。これは平安時代に作られた日本刀の名前ですよね? あなたは刀が好きで、そこから名前を借りてきた。そして、同じ仲間が集う刀剣愛好家というクランに所属した。形は違えど、十分ゲームを楽しんでるじゃないですか」


 すると彼女は、クスリと笑うと刀を構えました。


「なるほど。どうやら私はあなたに好感を持ってしまったようだ。シルヴィア殿、私はあなたに敬意を払って全力で相手をする。さぁ、決着をつけよう」


 どうやら『お前』から『殿付け』に昇格したみたいです。


「そうですね。受けて立ちます!」

「刀剣愛好家所属、我が主の刀が一振り、小狐丸。いざ尋常に、勝負!」


 そう名乗ってから彼女は、刀を脇に構え、足を開き、前傾姿勢のまま私を見据えました。

 するとその気迫か、オーラか、はたまた殺気か……。体の産毛が逆立つような感覚をビリビリと感じます。

 先に仕掛けても良いという余裕か、それとも私が仕掛けてくる瞬間を狙っているのか、彼女は私を見据えたまま動きません。

 ここまで来たら、あとには引けません!


【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。単筒】

【小狐丸が大技を使用した。絶技、縮地の法・鬼神斬】


 ――ザッ!!


 私が彼女の真後ろに砲を設置した瞬間でした。まるで瞬間移動したかのような速さで、彼女は私の正面に滑り込んでいました。そして、私がハッとした時には、手に持つ刀を振り抜いていたのです。

 ズバッと血しぶきが舞い散るエフェクトが発生して、私の体には一直線の斬撃が刻まれ……


【小狐丸のアビリティが発動。ソニックスマッシュ】

【小狐丸のアビリティが発動。逆境+3】

【小狐丸のアビリティが発動。状態異常裂傷付与】

【小狐丸のアビリティが発動。斬鉄+1】

【小狐丸のアビリティが発動。アビリティブースト】

【小狐丸のアビリティが発動。無効貫通】


【シルヴィアに2336万2560のダメージ】


 グラリと揺れる体。ふら付く足元。漏れる吐息。

 そんな自分の体を酷使して、私は彼女に抱き付きました。


「……え?」


 困惑する彼女ですが、その答えはすぐに理解できるはずです。


【シルヴィアのアイテム、命の欠片が砕け散った】


 そして彼女の背後からは、私が設置した単筒の弾が発射され――


――【小狐丸に1万0000のダメージ】


 私が抑える彼女に命中しました。


「なっ!? そんな!?」


【小狐丸を倒した】


「私の仲間にかなり課金している子がいましてね、こういうアイテムをいくつか渡されているんですよ。結局、私自身さえもトラップだったという事です」

「くっ……無念……」


 小さくそう言い残して、彼女は私の腕の中で光となって消えていく。一時的にイベントエリアの外へと除外されたのです。

 感傷に浸っている暇もなく、私は奪ったボスの卵を転送装置へと投げ込みました。


「あの子、逃げ回る私を無視して転送装置を目指す事もできたのに……」


 戦いも、自分のキャラも真っすぐに貫き通した彼女に敬意を表して、私は周囲に残ったアイテムを全て削除しました。

 数分したら、またここに戻って来そうですからね。場所を変えますよ!


シルヴィア:レベル900超えの大物、打ち取ったり!

シルヴィア:m9っ`・ω・´)シャキーン!


 私はそんな内容をクランチャットに流します。

 すると仲間からは、すぐにお祝いのメッセージが届くのでした。

解説、小狐丸戦

ATK13000


スキル

力溜め:ATK2倍

一点集中:DEX2倍

背水の陣:HPの量でステータスが上昇する。HP1だと全ステータス2倍


アビリティ

心眼:動くものは探知できる。DEX2倍

ソニックスマッシュ:後日説明。攻撃力2倍

逆境+3 状態異常を受けていると発動。攻撃力2.6倍

斬鉄+1:刀を装備していると発動。防御力無視。攻撃力1.2

アビリティブースト:後日説明。この時2倍

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― 新着の感想 ―
[気になる点] シルヴィアやっぱりヤンデレ予備軍なのでは? [一言] 自爆特攻すると思ったら普通に特攻した、シルヴィア。 小狐丸課金アイテムに敗れたり! 課金アイテム強すぎ!いいじゃん!
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