「私の知っているクラフターとは違う」
シルヴィアvs小狐丸戦は一話で終わらせるつもりだったのに、思った以上に長くなってしまいました。
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。土壁S】
レベル差が大きいこの現状では、どの道一撃を喰らっただけでやられてしまいますからね。
私は障害物を設置して彼女の接近を妨害しようとしました。けれど……
――斬っ!
耐久力の低い土壁とは言え、巨大な壁を一振りで真っ二つにされてしまいました。
そうしてさらに私に向かって突進してくる彼女を前に……
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。毒沼S】
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。痺れガスS】
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。硫酸S】
土壁を目くらましに、彼女の足元に毒の沼を出現させ、そこを駆け抜けた先には硫酸のたまり場とガスを発生させました。
【小狐丸が毒になった】
【小狐丸が麻痺になった】
【小狐丸が火傷になった】
【小狐丸に5000のダメージ】
「くっ!? こざかしい真似を!?」
【小狐丸がアイテムを使用した。万能薬】
一気に全ての状態異常を回復させたようですが、それが狙いですよ!
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。墨煙S】
真っ黒な煙が発生して、それを突き抜けた彼女の目元は炭に覆われていました。
【小狐丸が盲目になった】
「くっ、目が……」
私の前で闇雲に振るう刀をバックステップを踏んで、なんとか回避成功です。するとようやく彼女の動きが止まってくれました。
状態異常の暗闇は完全に目が見えなくなるわけではありません。視界が狭まり、見えにくくなるだけです。けれど、私のトラップの命中率を上げるには十分でしょう。
大分いい感じに戦闘が進んでいる事ににやけちゃいますねぇ。
するとこの時、彼女が静かに目を閉じるのが見えました。呼吸を整え、刀を正面に構え、一呼吸置いたその瞬間に、ピリッと空気が変わるのを感じました。
【小狐丸のアビリティが発動。心眼】
「なんだ。アビリティ発動するんだ……」
小さくそう呟く彼女の言葉に、私の背中にヒヤリと冷たい物が流れました。
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。弓矢S】
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。毒矢S】
私は反射的に彼女を狙いました。
左右から矢が発射され、目を閉じた彼女に向かって飛んで行きます。
しかし……
【小狐丸のアビリティが発動。居合切り】
凄まじい速さで振るわれた刀によって、矢が両断されてしまいました。
……やばいです。またやってしまいました。『心眼』は侍特有のアビリティ。盲目になると発動して、DEXが2倍になります。
そしてDEXは侍にとって重要なステータスなのです。
居合切りの精度を高めるにはDEXが関係してきますし、特技の中にはDEXの値によってダメージが変化するものもあります。
……つまり私は、余計な事をしてしまった訳ですね……
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。石像S】
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。銅像S】
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。仏像S】
とりあえず足止めの障害物を設置して――
斬!
一瞬にして三つの像が真っ二つにされてしまいました。
……これ、本格的にヤバいですね。
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。爆雷S】
元々手ごわい相手なのは分かっていたので、出し惜しみなしで行きますよ!
空中に設置された爆雷が、ドンピシャで彼女の頭の上に落ちてきました。それすら彼女は刀で両断しようと振りかざし……。
刀身が触れる前に、それは爆発を起こしました。
【小狐丸に1万0000のダメージ】
まだです。まだ全然ダメージが足りません。
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。落とし穴S】
彼女がそこを通り、地面が崩れ落ちます。しかし、彼女の体が落下を始める前に素早くステップを踏み、跳び上がって脱出してきました。
彼女はそのまま私に斬りかかってきます。
……ここは一つ、覚悟を決めるしかなさそうですね!
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。小型地雷S】
彼女が私の目の前まで迫った瞬間に、私はその地雷を自分で踏みました。
――ズドオオオォォン……
爆風が広がり、ノックバックが発生して私と彼女の距離が再び広がりました。
【小狐丸に1万1790のダメージ】
【シルヴィアに1万5190のダメージ】
「げほっ……。お、お前は正気か!? 自分で地雷を踏むなんて!?」
「ゲホッ……。あなたにダメージを与えるためならなんでもやりますよ♪」
ぐぬぬ、と、悔しそうにする仕草が可愛いんですが、こっちも必死ですからね。
すると彼女は一旦冷静になって、刀を下しました。
「わかった。私も覚悟が足りなかったようだ。今から全力で、お前を討つ!!」
【小狐丸がスキルを使用した。自傷】
これは自らHPを1にするスキルのはず。一体何を考えて……?
あ、なるほど。彼女は今、『背水の陣』を使っています。HPが下がれば下がるほどステータスが強化される上に、盲目状態で『心眼』も発動している訳ですから……
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。機関銃S】
私は恐怖に駆られて思わず奥の手を使いました。
これで一気にHPを削りますよ!
私の隣の機関銃が発射するより早く、彼女が動きました。
ギュン! と、素早さの上限に達したような速さで急接近してきます。
――ズダダダダダダダダダダダ!
ここで機関銃がようやく反応してくれて、弾丸を乱射し始めます。
【小狐丸が特技を使用した。刀舞】
すると彼女は全ての銃弾を刀で弾き始めました。
【小狐丸のアビリティが発動。居合切り】
まるで攻撃モーションなんて無いかのように、連続で刀を振り、その弾丸は一発たりとも彼女の体には当たりません。
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。拳銃S】
私は手元に銃を出現させて、彼女に向かって発砲します。
【小狐丸のアビリティが発動。居合切り】
全て切り裂かれます。全然効きません! 本当に盲目なんですか!?
しかも彼女のHPは残り1ですが、結局私は最大HPを0にしなくてはいけないのでこれも裏目になっています!
そして機関銃と私の拳銃の残弾数が無くなっても、結局彼女のHPを削る事はできませんでした。
すると彼女は、凄まじい速さで私の目の前まで一瞬で到達してしまいました。
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。ジャンプ台S】
彼女が刀を振るうと同時に、私はジャンプ台に乗り大きく跳躍して逃げに徹します!
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。ミサイルS】
空中に跳び上がっても休んでいる暇はありません。とにかく攻撃を仕掛けないと!
【小狐丸のアビリティが発動。居合切り】
しかし見事にミサイルを真っ二つに切り裂いてしまいました。
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。クッションS】
落下ダメージを防いで着地をします。そしてどうすればこれ以上ダメージを与えられるかを考えなくてはいけません。今の状態だと飛来物は全て切り裂かれてしまいますからね。
なんとか仰け反らせる事ができれば……
しかし、私が考える暇を与えてくれるはずもなく、彼女は猛スピードで向かって来ます。
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。鉄柱S】
斬っ! と、一撃で両断されてしまいました。
……これ、鉄でかなり耐久力のあるアイテムなんですけど……
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。鉄格子S】
これが私のアイテム内で最強の捕縛アイテムです! かなり耐久力で、壊すのにはかなり時間がかかるはず――
【小狐丸が特技を使用した。回転乱舞】
ガラガラ……
彼女を囲った鉄格子が、一瞬で短い鉄パイプになってしまいました……
マズいマズいマズい!! これは本格的に手が付けられなくなってきましたよ!
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。大木S】
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。柱S】
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。電柱S】
とにかく彼女の足を止めるために、障害物を乱雑に設置していきます。
しかし全ての物があっという間に両断されてしまいました。
その脅威は正に、鬼神の如し。
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。案山子S】
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。雪だるまS】
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。立て札S】
当然、こんなもので彼女が止まるはずもなく、一気に私との距離を縮められてしまいました。
っていうか、もうとっておきのアイテム以外は全部リキャストタイムに入っちゃって設置するものがありませんよ!
残ってるのは……コレくらいしか。
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。でっぱり石S】
彼女の足元にポコンと石が出現します。
ガッ!
なんとその石に、彼女は躓きました。
心眼とはいえ、足元までは見通せなかったのでしょうか?
……とにかくこれは――
「チャンスです!!」
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。丸太砲S】
ここぞとばかりに温存しておいたアイテムを使います!
躓いた彼女の横から、巨大な丸太が飛んでき行きます。
「きゃふっ!?」
彼女は丸太にぶつかり吹き飛ばされていきます。
【小狐丸に1万0000のダメージ】
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。茨の落とし穴S】
彼女の倒れた場所が崩れ、トゲトゲの茨が敷き詰められている穴に落ちていきます。
【小狐丸に1万0000のダメージ】
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。雷管S】
さらに穴の中に電撃を流し込みます。
【小狐丸に1万0000のダメージ】
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。落石S】
トドメに空中から巨大な石を降らせます!
【小狐丸に1万0000のダメージ】
斬っ!
降らせた石が消滅して、彼女が穴から飛び出してきました。
かなりボロボロですが、HPを0にする事はできなかったようです。
多分、あとちょっとのはずなんですが……
「……お前、何者だ?」
動かなければ私のトラップも作動しないと悟ったのか、彼女は少し離れたその場から問いかけて来ました。
「私はクラフターですよ?」
「……いや、私の知っているクラフターとは違う。……確かに私はクラフターと戦うのは初めてだが、話くらいは聞いている。クラフターはこんなに大きなダメージを出す事はできない! 現に、今のコンボだってレベル400前後のプレイヤーなら即死するダメージだ! どう考えたって威力がおかしい!」
彼女は私のアイテムに、かなりの不信感を抱いているようです。ここは一旦ちゃんと説明しないとダメみたいですね。
そうして私は、仕方なく彼女の疑問に答えるのでした。




