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「クラフターと戦った事ないんだなって思って」

「どこに隠れている!?」


 子狐丸という名前のプレイヤーが私を探しています。

 名前の通り、狐を連想させるように頭からは狐の耳を生やし、少しつり目の小柄な少女です。

 巫女さんのような白と赤の袴を着ていて、その腰には刀を携えていました。

 見た目は可愛らしいですが、そのレベルは「916」。ナユっちよりも高いとなると、これはもうガチ勢の域ですね。レベル上げに時間を費やしていて、かなりやり込んでいるプレイヤーです。

 ……もうさっさと卵を転送させて、どっかに行ってほしいくらいですよ。


「クラフターであろう? 出てこないのなら、強引にいくぞ!」


 そう言って腰の刀を抜くと、周りにある設置物を攻撃し始めました。

 彼女のレベルが高いせいで、私がSランクでクラフトした耐久力のあるアイテムも一撃で破壊していきます。

 あぁ、もう降参してしまいましょうか。でもなぁ……

 そう迷っている時でした。


「あぅ!?」


【小狐丸に5000のダメージ】


 どうやら私のトラップにかかって、弓矢を受けたようです。

 ま、HPは推定15万くらいあるはずですから、この程度では全然動じないでしょう。

 しかし――


「なっ! ダメージ!? 防御アビリティが発動しない!? これは……固定ダメージか!?」


 などと困惑していました。

 ……あれ? この子もしかして、クラフターと戦った事がない……? まぁ確かに、クラフターが進んで対人戦を仕掛けるなんて事は珍しいですからね。初めてだとしてもおかしくはありません。

 なるほどなるほど、そうですか。初見プレイですか。だとしたら……


 この子、狩れるかもしれませんね。


 ――ゾクゾク!

 自分の心が疼くのを感じました。

 けど、そんな疼きを抑えながら私は冷静に情報を整理します。


 小狐丸。所属クランは『刀剣愛好家』。

 確かこのクランは刃物が好きなプレイヤーの集まりで、少数精鋭と言った意味では私達のクランと似ています。

 ここのクランのマスター、天羽々斬あめのはばきりがこれを最後に引退するらしく、今回のイベントはかなり気合が入っているって噂です。

 私の読みでは今回のイベントランキングで、この『刀剣愛好家』と、私達の『び~すとふぁんぐ!』は、いい勝負をすると予想しています。

 そんな状況で私が今、ここでこの子から卵を奪い、且つイベントエリアの外へ追い出したら、それはこちらが一歩優勢になる事を意味しています。

 そう、知名度の高い刀剣愛好家を、私達のクランが超えられるかもしれないんです。

 ――ゾクゾクゾク!

 私の心がさらに疼きました。

 楽しそう。挑戦したい。そんな気持ちで心が埋まっていきます。だとしたら、やるしかないでしょう!


【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。大砲S】


 彼女を横から狙って砲弾が発射されました。

 ドウン! という重低音が鳴り響くと同時に、その音で彼女は砲弾に反応します。すると鮮やかな足捌きで体を回し、大砲の攻撃をあっさりと避けてしまいました。

 うん。やっぱりこの子はクラフターには不慣れなようです。

 この子のクラス、『侍』は、遠距離攻撃ならば物理だろうが魔法だろうが、全てを切り裂いてダメージを無効にする『居合切り』というアビリティを持っています。発動条件は違えど、沙南ちゃんの使うジャストガードと同じ効果ですね。

 しかし今はそれを使わなかった。多分、さっき受けたダメージの影響で、「アビリティは発動しないのでは?」という疑念があるのでしょう。


「いや~、派手に壊してくれますね。大損害ですよ」


 私は木の上から飛び降りて、ゆっくりと彼女へと近付いていきます。


「……やっと出てきたか」


 一言、ただそれだけを言い、彼女は私に刀を向けます。

 そして、一瞬前のめりになったかと思うと、猛スピードで私に斬りかかってきました!


【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。高速移動マスS】


 自分の隣に設置した床に乗ると、私の体は高速で左方向へと流れていきます。彼女はそんな私を追いかけようと方向転換をしました。


【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。大型地雷S】


 カチッ! と、彼女の前に設置した地雷を見事に踏んでくれます。しかし、彼女は止まる事無く爆発から逃れる勢いで駆け出します!


【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。大壁S】


 爆発を振り切ろうと走り出す彼女の目の前に、私は巨大な壁を作り出しました。


【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。石柱S】

【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。巨木S】


 さらに、彼女が逃げられないように左右を設置物で塞ぎますよ!


「しまっ――」


 ズガアアアアアアアアアアアアン!!

 大型地雷が爆発して、その上空にはキノコ雲が浮かびました。

 私が設置した障害物を消去すると、彼女はその場に膝を付いて、刀で自分の体を支えていました。


【小狐丸に7万1050のダメージ】


「はぁ、はぁ……。7万超えのダメージ!? クラフターがこんな大ダメージを出せるなんて……」


 ひどく困惑していますね。反応が素直すぎてこっちは嬉しくなってきちゃいます。


「地雷はただの割合ダメージですから、あなたのHPがそれだけ多かったって事ですよ」

「割合ダメージ……。それにしたって、HPの半分近くを持っていくだなんて……」


【小狐丸がアイテムを使用した。回復薬】


「ぷっ……あっははは」


 私は思わず吹き出して笑ってしまいました。


「な、何がおかしい!?」

「す、すみません。あなた、本当に今までクラフターと戦った事ないんだなって思って。回復は無駄ですよ」


 私への警戒を緩めないまま、彼女は立ち上がって自分のHPを確認していました。そして、その表情はさらなる困惑へと変わっていきます。

 それもそのはず、彼女のHPゲージは全く変動が無く、満タンの状態なんですから。……変わっているとしたら、『最大HPの数字』が減っている事だけです。


「クラフトアイテムは全て、最大HPにダメージを与えるという効果です。そうやって相手の最大HPを無くせるかどうかの勝負になるんですよ。クラフトアイテムのダメージはそのほとんどが固定ダメージであり、大きなダメージはありません。なので回復をされると、それこそクラフターに勝ち目は無くなってしまいますからね。あ、もちろん戦闘が終わればあなたのHPは元に戻りますから、安心して下さい」

「……大きなダメージは無い? 7万も与えておいてよく言う」


 そう言って、彼女は再び刀を構えました。


【小狐丸がスキルを使用した。一点集中】

【小狐丸がスキルを使用した。力溜め】

【小狐丸がスキルを使用した。背水の陣】


 背水の陣はHPが減れば減るほどステータスが上昇するスキル。したがってこの勝負では意味を成しません。減るのは最大HPであって、ゲージは常に満タンなんですから。だからこれを使った理由は恐らく、私に対する威圧か、自分に勢いをつけるための行為。

 そうして、彼女は私に向かって刃を振りかざすのでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 巫女狐耳マジ天孤! 狐耳×巫女の組み合わせはマジ最高の構図すぎる! 結婚したい [気になる点] 気の強い幼女?ツンデレさん? [一言] 沙南←シルヴィア←小狐丸←私 って感じの構図になりそ…
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