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「それにこの技、ちょっと気になるんだよね」

「えっと、午前中はどうしよっか」


 私はみんなに相談をした。イベントが始まるのは午後からだからだ。


「そうですね。沙南さんはレベル上げをしたらいいと思います。地下五階まで進んでいるのだとしたら、そこで結構稼げますよ。……そもそも、そのレベルで地下四階をクリア出来た事がビックリですから」


 ナーユちゃんが呆れたようにそう提案してくれた。

 なるほどね。そう言えば今まで、全然レベル上げとかしなかったよ。


「なら、これを沙南にあげる」


 そう言って、ルリちゃんはプレゼントでアイテムを送ってくれた。


【沙南はプレゼントを受け取った。経験値3倍薬】


「え? えぇ~!? ルリちゃんこのアイテムどうしたの!?」

「ん? アイテムガチャで沢山出てきた。多分ハズレのアイテム」

「あ~、ハズレは経験値2倍薬で、それは小当たりですね」


 シルヴィアちゃんがそう教えてくれた。

 ……あれ? でも待って。私は友達からお金は貰えないと言って100万円を受け取らなかった。ならこの課金アイテムは受け取っていいの?

 段々と分らなくなってくる。


「沙南はこのゲームでお父さんを探すんでしょ? そしてそれにはレベル上げは必須。だとしたら迷っている暇は無いんじゃないの!」

「えっと、そう……だよね。うん。私は絶対お父さんを見つけるんだから!」


 私はこのアイテムを使う事を決意した。

 その瞬間、ルリちゃんが、『作戦成功!』、みたいな表情をしていたのが若干気になった……


「3倍薬は私達が使うから、2倍薬はシルヴィアとナーユにあげる。沢山ありすぎていらないから」

「わお! サンキューですよルリっち!」


 ナーユちゃんは抵抗を感じているようで、シルヴィアちゃんは遠慮なく受け取っていた。

 ……私もあまり深く考えない事にする。

 コレハ目的ノタメノ助ケ合イダヨネ。

 そうして私とルリちゃんは、地下五階へと向かうのだった。

「きゃああっ」


 私の体は跳ね飛ばされて地面を転がる。


「うぅ……」


 砂埃を上げて止まった体を必死に起こすと、その目に映るのはルリちゃんの姿だ。


「ル、ルリちゃん……どうして、こんな……」


 ふらつく私に、ルリちゃんが突進をかけて迫って来た。

 そして、私の目の前で手に持つ剣を振りかざす。


 ――ポイッ!


 その剣を捨てて私に抱き付いてきた。


「沙南大丈夫!? ごめん、ごめんね……」

「ルリちゃん……どうして、こんな……こんな天才なの!? こんな戦い方があったなんて!」


 現在私達は、プレイヤーバトルで手軽に対戦が楽しめるプラクティスモードで遊んでいた。

 というのも、ルリちゃんが私に知ってもらいたい闘い方があるとの事だからだ。


「天才なんかじゃない。いつも沙南の闘いを見てて、こんな戦い方をされたら沙南は困るだろうなっていうのを思いついたの。だから、敵がその戦術を使う前に沙南に伝えたくて……」

「そっかぁ。私にダメージを与えたのは、ルリちゃんが初めてだね」


 私はルリちゃんに引っ張られて立ち上がる。そして服の汚れを払い落とした。


「それと、沙南の天敵と呼べる相手は他に何人かいる。それはAGI特化でもDEF特化でもない。本当にヤバいのは……魔法使い!」

「魔法使い? あ、そうか。発生のタイミングを知っておかないと初見じゃジャストガードできないもんね」

「そう。魔法の中には突然地面から吹き上げるものや、上空から飛来してくるものもある。沙南はできるだけ魔法の種類を把握しておいた方がいい。私が使える魔法は全部見せるから」


 そうして、私とルリちゃんはしばらくの間、そんな特訓を繰り返すのだった。

「じゅーしんほーこーがー!」


 どっかーーーん!

 魔物は粉砕し、光となって消えていく。

 現在11時半。私達は経験値3倍薬を使用してレベル上げを行っていた。

 この薬の効力は一時間のみだから、その間は徹底的に魔物と戦う。


「じゅーしんほーこーがー!」


 どっかーーーん!!

 またしても私の絶技が決まり、魔物は木っ端みじんとなった。


「さ、沙南がご乱心に……」


 少し離れた所でルリちゃんが青ざめながらガタガタと震えている。


「なんかさ、強力な技を覚えると使いたくなるよね!」

「さ、沙南が覇道の道に……」


 違う違う。そんな事ないから……


「それにこの技、ちょっと気になるんだよね」

「……? どういう事?」

「ん~……やっぱなんでもない。なんの確信もないし」


 そうして効果時間目一杯まで魔物を倒し続ける。薬の効果が切れた頃には、私のレベルは85になっていた。


「そろそろ戻ろうか」

「うん。ログアウトしてお昼食べる。お腹減った……」


 私達は転送装置から街へと帰還した。


「ねぇルリちゃん。ちょっと酒場に寄っていい?」

「うん。いいよ」


 大体クランに入っている人は酒場に集まる事が多い。なぜならば、ゲームの中ならばいくら飲み食いしても太らないからだ。味覚を刺激しているとかなんとかで、ゲームの中でも食事を楽しむ事ができる上に太らないなんて最高だよ。

 ……もちろんゲームのお金は減るけどね。


「沙南さんルリさん。お疲れ様です」


 酒場ではナーユちゃんがアイテムの整理をしていた。


「お疲れ様。シルヴィアちゃんは?」

「シルヴィアさんならアイテムの調達に行きましたよ。クラフターは戦闘になると自分でクラフトしたアイテムを使って戦うのが主になります。だから常にアイテムの管理が必要なんです。彼女が情報屋として活動しているのも、元々はアイテムのトレードが目的だと聞きました」


 そうなんだ。それはそうと、私はナーユちゃんに聞きたい事があったんだ。


「ナーユちゃんって、確か絶技が使えたよね? もしよければ説明覧を見せてほしいんだけど」

「はぁ、構いませんけど」


 ナーユちゃんはキョトンとしながら自分の特技一覧を開いて私に見せてくれた。


絶技、紅斬華くれないざんか:消費200。紅姫くれないひめの力が宿る渾身の一撃。攻撃力17倍。


 そう書かれている。

 ……やっぱり、私の絶技と似ている。


「ねぇナーユちゃん。この紅姫って誰なの?」

「えぇ!? いや、考えた事なんてありませんでしたね。ゲームとかでありがちな設定なんじゃないですか? ほら、目に見えない高位の存在の力を借りて繰り出す必殺技、みたいな?」


 私はちょっとだけ考え込んでから、もう一つ聞いてみる。


「ナーユちゃんは運営として、このゲームの全てを知ってたりしないの?」

「いえ、実は私はこのゲームの情報を何も聞かされていません。私の役目はチートを使っている相手を見つけた場合の処置ですが、それ以外にもバグがないかを探したり、ゲームバランスを見て意見を聞かされる事もあります。ゲームの内容を事前に知らされるとそれらの先入観が邪魔になる時もあるらしいですからね。それに私は名前にGMと付いていますが、結局はまだ高校生です。一人のプレイヤーとして時間がある時にログインするだけなので、運営としての仕事を完全に任されている訳ではありません」


 そっか。ナーユちゃんはどっちかっていうと、デバッカーに近いのかな?


「沙南さんは何か気になる事でもあるんですか?」

「沙南は絶技の事をずっと気にしてる。レベル上げの最中もナーユから貰った魔法薬を使いまくって絶技ばっかり使ってた」

「そうなんですか。お役に立てず、すみません」


 ナーユちゃんがぺこりと頭を下げて謝ってしまった。


「ううん。変なことを聞いてごめんね。私が勝手に気になってるだけだから。それともう一ついいかな?」

「なんですか?」

「武闘家も魔法って使えるのかな? 何か一つ覚えておきたいんだけど」

「魔法屋に行けば何かは覚えられるはずですよ。沙南さんは魔法を使いたいんですか?」


 私はイタズラっぽく笑って見せた。

 それを見たナーユちゃんは、私が何を考えているのかを察してくれた。


「も、もしかして沙南さん、『詠唱キャンセル』を使うつもりですか!?」

「もちろんだよ。やっぱり出来るのに使わないのはもったいないからね。詠唱キャンセルがあるゲームじゃ通常攻撃を無限に繰り出したりとか当然のようにやるよ」


「沙南、お昼ごはん……」

「それにしてもこのゲームって凄いよねぇ。武闘家でも魔法を覚えられるなんて、正に詠唱キャンセルをうまく使いこなしてみろって言ってるようなもんだよね! でもそのくせノックバックをちゃんと設定してるから無限コンボとかはできず、その辺バランスを考えている所がにくいと思うんだ!」


「沙南、ごは――」

「しかも格闘ゲームの要素を取り入れてのブロッキング。音楽ゲームの要素からはジャストガードとか、これを作った人はかなりのゲーマーなんじゃないかな? それを考えると、やっぱりあの絶技には何か秘密が隠されているとしか思えないんだよね! あ、それとそれと~」


 恐らく、この時の私はかなり早口でしゃべっていたと思う。

 そして呆気にとられるナーユちゃんと、空腹でうな垂れているルリちゃんに気が付くのは、もう少したってからになるのだった……

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― 新着の感想 ―
[良い点] アイテムあげる発想はなかった! [気になる点] ごはん(意味深)? [一言] 幼女にボコされる大人の絵…考えるだけで笑えるw
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