「どうして一人でログインしちゃた……の……?」
* * *
「それでは今から、誰が沙南ちゃんと結婚するかを決めたいと思います!」
チーン!
みんなが魂を抜かれたような顔になった……
「言っときますけど、私は譲る気はありませんから! 一応クラメンだから形だけ話し合いをしてるように見せてるけど、私は絶対に譲る気はありませんから! 沙南ちゃんの初めては私がもらいますから!!」
ビーッ! ビーッ!
警報と共に、シルヴィアちゃんの頭の上に『警告』と書かれた文字が出現した。
「シルヴィアさん、不適切な発言、および沙南さん安全のためにあなたのアカウントを凍結させていただきます。次にログアウトしたらもう入れないものと思って下さい……」
「ごめんなさい冗談です許して下さいなんでもしますから」
シルヴィアちゃんは土下座をして何度も頭を下げていた……
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「それでは明日のイベントの作戦会議を始めたいと思います!」
私達は現在、最初の街の酒場に集まって作戦会議を始めようとしていた。
時刻は22時。
ナーユちゃんとの戦闘後、お昼寝をしすぎた私とルリちゃんは未だに目がさえていた。
「はい! 一体どんなイベントなんですか!?」
私は手を挙げて質問してみた。
それに関してシルヴィアちゃんは丁寧に解説を始めてくれた。
「明日のイベントはレイドボスを討伐するっていう内容ですね。レイドボスを攻撃する係を一人待機させて、残りのメンバーはフィールドでレイドボスの卵を探します。卵を見つけたら各地に設置されている転送装置を使って仲間の元へ転送させて下さい。転送装置を使うと卵は孵化してボスに変わります。それを攻撃担当者が討伐して、どれだけダメージを与えてポイントを稼げるかで順位を決めるイベントです」
その説明でルリちゃんがフムフムと神妙に頷いた。
「なるほど。つまり卵を見つけてバンバン転送すればいいわけね」
「けれど、レイドボスの卵はアイテムバトルの対象となっています。転送装置付近はバトルエリアなので、相手の卵を狙う事も、狙われる事もある訳ですね」
そうナーユちゃんが付け足してくれた。
「それで、誰が攻撃役をやるの?」
私がそう聞くと、少しの沈黙が続き、三人が同時に私を見た。
……え? 私?
「ま、待ってよみんな。私一人でレイドボスと戦うなんてちょっと怖いよぉ」
「いや、沙南ちゃんってゲームマスターと戦ったんですよね? この人以上に怖い相手なんてそうそういませんよ……」
まぁ確かに、ナーユちゃんは強かったけど今回はボスだし……
するとナーユちゃんがイベント開催の告知ページを表示して見せてくれた。
「これが今回戦うレイドボスですね」
そのボスはなんと、丸々と太った鳥さんだった。
走るよりも転がった方が楽なんじゃないかと思うような体型がちょっとかわいい。
「あ、これなら怖くないかも。それに私、バードキラー持ってるし」
それを聞いたシルヴィアちゃんとナーユちゃんは顔を見合わせてから、ズズイと私に詰め寄ってきた。
「え!? 沙南さんバードキラーを持ってるんですか!? 今ガチャでピックアップ中のアビリティじゃないですか!?」
「というか沙南ちゃん、ちょっとアビリティやスキル一覧見せて下さい!」
二人に迫られた私は、言われた通りに自分のステータスを開いて見せた。
「……レ、レベル40で攻撃力5382。私、盗賊とは言えレベル785で攻撃力約7000なんですけど……」
「それにこのスキルとアビリティ……あれ? これイベント上位狙えるんじゃないですか!?」
二人共真剣な顔で唸り声をあげている。
「でもこのゲームって転職あるんでしょ? こういうイベントの時は武闘家を使う人が多くなるんじゃない?
「いえ、転職はあくまでも救済システムなので、メリットばかりがある訳でもありません。それに一度取った各階層の称号や隠しクエストも復活する訳ではないので、結局は今まで育てたクラスで挑んだ方が懸命です。サブアカウントで武闘家を使おうにも、それで参加するとメインアカウントで報酬がもらえなくなってしまうので、このケースも少ないですね」
そうナーユちゃんが教えてくれた。
なるほど。という事は、ここまで武闘家を育ててきた私が比較的有利なイベントなのかな。
「……ふにゅ……」
気が付くとルリちゃんがウトウトしていて、今にも寝落ちしてしまいそうだった。
「それじゃあ私達はこれでログアウトするね。ルリちゃん、もう落ちよ?」
「……にゅう……」
私は二人に手を振ってログアウトをする。そして現実世界に戻ってから、すぐにそのまま就寝につくのだった。
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次の日。日曜日の朝。
私とルリちゃんは顔を洗ったり、朝食を取ったりと準備を進めていた。
歯も磨いて、さぁまたゲームの世界にダイブしようと意気込んだ時だった。
「沙南、ちょっとお願いがあるんだけど」
ルリちゃんにそう言われて、私は用件を尋ねてみた。
「えっとね、その……そう! お花! 庭の花壇から、お花を摘んできてほしいの!」
「え? 別にいいけど、なんで?」
「それは……沙南が選んで摘んできたお花を私の部屋に飾りたいから! 場所は榊に案内してもらってね。榊、沙南をお花の棘で怪我させちゃダメだからね!」
「はぁ、かしこまりました」
榊さんはいつもルリちゃんの護衛や付き添いをしているおじいさんだ。ルリちゃんの唐突な用件に、榊さんも少し困惑しているような気がする。
とにかく私は案内されたお庭からお花を摘んだ。そしてそれを花瓶にさして、ルリちゃんの部屋へと向かう。
この時、花瓶を持って運んでくれている榊さんが私に話しかけてきた。
「沙南様、どうかるりは様の事をよろしくお願いします」
急にどうしたんだろう?
よく意味がわからない。
「るりは様はその……あまり空気が読めないといいますか、そのせいで習い事の先生や両親から、きつく言われる事がございます。そんな事が何度も重なるうちに、次第に感情を表に出さなくなるようになりました」
そう言えばルリちゃんは、リアルが嫌いだって言ってたっけ……
「しかし昨日から沙南様が遊びに来られてからは、とても嬉しそうにしておられます。あんなるりは様を見たのは久しぶりなのでございます。沙南様、るりは様は少し目を離すと何をしでかすかわからないような、危なっかしい所もあるお方ですが、どうかこれからも仲良くしてあげてくださいませ」
そう言われた。
そう言われて、私が返す言葉なんてものは決まっている。
「もちろんだよ。だって私は、一生ルリちゃんの友達をやめるつもりなんてないもん!」
そんな会話をしつつ、私達はルリちゃんの部屋へと到着した。
中へ入ると、なんとルリちゃんはすでにヘッドギアを装着してゲームの中へとダイブしていた。
「ええ~!? ルリちゃん先に入っちゃったのぉ!? 榊さん、お花を飾っておいて。私はすぐにルリちゃんを追いかけるから!」
「かしこまりました。いってらっしゃいませ」
私はすぐにヘッドギアを装着して、ゲームの中へとダイブする。
ログインすると、そこはダンジョン前のいつもの広場だ。
ルリちゃんはどこにいったんだろう? 私と一緒じゃないと、あまりログインしたがらないのに……
「沙南~!」
あ、ルリちゃんの声だ。
「も~ルリちゃん。どうして一人でログインしちゃた……の……?」
私はそんなルリちゃんの姿に疑問を覚えた。なんだか昨日と姿が違うような気がする。
あ、そうか、装備を変えたんだね。そういえば、ダンジョンを進めてお金も貯まった頃だもんね。
「ルリちゃん装備を買ってたんだね。その鎧カッコいいよぉ!」
軽装だけど、白銀に輝くその鎧は凝ったデザインの紋章まで施されていてカッコいい!
「これは特殊効果で仰け反り無効とノックバック無効がついてる。こういうのをスーパーアーマーっていうらしい」
格闘ゲームでよくある性能のやつだね。っというか、今どきの防具屋ってそんな凄い装備を置いてるんだね。
「盾も新調したんだね! 小型だけど軽そうでかわいい!」
「これはアビリティのオートガードが付与されてる盾。オートガードはカウンター無効の効果があるから結構便利」
あれ? なんだか性能良すぎない? 私も買っちゃおうかな~……
「頭装備のサークレットも変わったよね。ちょっとゴージャスになった?」
「これは受けるダメージを半減してくれる特殊効果がある」
ちょっと待ってええええええ!? おかしい! どう考えてもおかしいよぉ!?
「ルリちゃん、その装備どこで買ったの!?」
「……買ったんじゃない。装備ガチャで課金した」
ですよねー……
「もーだから私よりも早くログインしたんだね!」
「だって沙南、私が100万円あげようとしても受け取ってくれなかった。だったら私がこのゲームで課金して、沙南を助けるしかないんだもん」
その理屈はちょっとおかしい気もするけど、まさか私が原因だったなんて……
――「るりは様は少し目を離すと何をしでかすか分からないような、危なっかしい所もあるお方ですが……」
お方ですが……お方ですが……お方ですが……
私の頭の中でついさっき言われた榊さんの言葉がリピートされる。
ごめんね榊さん。すでに遅かったよ……
「一体どのくらい課金したの?」
「えっと、いち……に……さん……」
ルリちゃんが指折りで数え始める。
待って待って、その指一本でどれくらいのお金が動いてるの!?
「もういい! もういいよ! 数えなくていいから」
「そう? ちなみに、アビリティガチャやアイテムガチャも引いた」
いや~ん!! まさかのガチャ爆買い!?
――「どうかるりは様の事をよろしくお願いします」
お願いします……お願いします……お願いします……
ごめんね榊さん。お願いされた私が原因でルリちゃんがお金を溶かしました……
「さ、みんなの所に行こ!」
放心する私の手を引き、クランメンバーと待ち合せている酒場へと移動した。
……私は次に榊さんと会う時に、どんな顔して会えばいいのかを必死に考えていたけども……
「わっ!? どうしたんですかルリっち!! それ今のガチャの最新装備じゃないですか!?」
「ルリっち……? 当たるまで課金した」
酒場で合流したシルヴィアちゃんが驚愕している。
そして隣にいるナーユちゃんが、生まれたてのトムソンガゼルのようにプルプルと震えていた。
「あ、あわわ……ルリさん、ありがとうございます!!」
「……?……」
深々と頭を下げるナーユちゃんに、ルリちゃんは首を傾げる。
うん。ルリちゃんはあまり深く考えてないだろうけど、その課金は運営さんのお給料になるもんね……
なんだか因果を感じるクランメンバーの関係図を思い描きながら、私はそっとルリちゃんの肩に手を添えるのだった……




