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「じゃあクランは私が作るよ」

「う~ん……」


 ログアウトをしてから目を覚ますと、そこは見知らぬ天井だった。


「沙南、大丈夫?」


 隣でルリちゃんが心配そうな顔で覗き込んでくる。

 そっか。今日はルリちゃんの家に遊びにきてて、同じベッドでダイブしてたんだったね。

 それにしてもナーユちゃんとのバトルはかなり疲れた。まるで丸一日中勉強をさせられていたかのような疲労感だよ。


「ねぇ沙南、少しお昼寝したら? 凄く疲れてそう……」

「で、でも、せっかく遊びに来てるのに……」

「沙南の体の方が大事! 私のベッド、すごくフカフカで気持ちいいよ?」


 確かに、ルリちゃんのベッドに横たわっていると物凄く気持ちが良かった。


「ありがと。それじゃあ……少しだけ……休む……ね……」


 気が緩むと、私の意識はすぐに深い闇へと落ちていった……

「むにゃ……あれ?」


 私は再び見知らぬ天井に疑問を抱く。

 次に、隣から聞こえる寝息に視線を移すと、そこには私と密着して眠っているルリちゃんが横たわっていた。

 ああ、そうだった。ルリちゃんのベッドでお昼寝をして、そのまま暗くなるまで眠っていたんだ。

 ……ん? 暗くなるまで?

 段々と意識が覚醒してきて、周囲を見渡すと部屋の中は真っ暗だった。

 私は勢いよく身を起こし時計を確認すると、時刻はすでに21時だった。


「うわ~ルリちゃん起きてぇ~、私、帰らないと~!」

「むにゃむにゃ……沙南、大好き……」


 ほわ~! かわいい寝言だよぉ。も~ルリちゃんたら~……

 って、そんなほんわかしている場合じゃないよっ!

 私はルリちゃんをユサユサと揺らして強引に起こした!


「うみゅ……沙南おはよう~……」

「おはよう! けどもうお休みの時間だからねっ! 私帰らないと!」


 すると部屋の扉が開いて、まばゆい光が入り込んできた。


「それには及びませんよ。沙南様、今日はもう遅いので、ここに泊まっていかれてはどうでしょうか」


 部屋に入ってきたのはルリちゃんにいつも付き添っているおじいさんだった。


「えぇ!? でも、お母さんが……」

「実は二人が中々起きないもので、勝手ながら沙南様のご自宅に連絡を入れておきました。お母様から宿泊の許可は取っています」

「そうなの!? でもお母さん一人で大丈夫かなぁ……」

「その際に、お母様から沙南様に伝言をうけたまわっております。『いつも家の事をさせてゴメンね。休みの日くらい友達と遊んでおいで』、だそうです」


 お、お母さん……うぅ、ありがとう!


「沙南、ウチに泊まるの? ねぇ沙南」


 ルリちゃんが私の腕にしがみ付き、目を輝かせながら聞いてくる。


「それじゃあ、そうさせてもらおうかな。今夜はよろしくお願いします」

「歓迎しますよ沙南様。では、食事にしましょう。すでに準備はできております」


 そうして私は、はしゃぐルリちゃんと一緒に遅めの夕食を取った。

 その後は物凄く広いお風呂に入って、歯を磨いて寝る準備を整える。

 道具は全部貸してもらえたけど、パジャマはなんだかヒラヒラしたドレスみたいなものを用意されて困惑しちゃった。ネグリジェって言うらしいけど、私もお嬢様になったような気分だった。


「沙南、明日の日曜日はイベントだけど、結局クランはどうするの?」


 さっきまで二人で爆睡していたベッドに横たわり、小さな灯りに照らされたルリちゃんがそう聞いてきた。


「う~ん。どうしよっか……」

「やっぱりクランは沙南が作った方がいいと思う。GMにも勝ったんだから、沙南はもっと胸を張るべき。……それに」


 それに?


「やっぱり私は、知らない人達が多いクランに入るのはちょっと怖いよ……」


 あ、そうか。ルリちゃんはまだ他のプレイヤーが怖いんだ。

 私、友達のそんな大事な事情も考えてあげられなかったなんて……


「うん、わかった! じゃあクランは私が作るよ。二人で頑張ろう」

「やった! 実はね、もうクラン名は考えてあるんだ~。ねぇ、沙南はもう眠たい?」

「ううん。さっきまで寝てたから、全然眠くないよ」

「じゃあ、今からまたダイブしない? 向こうでクラン作ろ」


 確かに、明日は日曜日で学校もないから夜更かしができる。なんだかちょっとイケない事をしているようでドキドキするよぉ。

 そして私達は、再びゲームの中へとダイブをすることになった。

【沙南さん宛てにメールが届いています】


 ゲームにダイブして、最初に目についたのがそんなお知らせだった。

 私はメールを開封してみると、それはナーユちゃんからだった。


 件名:本当にすみませんでした。

 内容:先ほどは私の勘違いで迷惑をかけて本当にすみませんでした。お詫びの品としてアイテムを送ります。課金アイテムは原則として贈るのは禁止されているので、本当につまらない物ですが、どうぞ受け取って下さい。


 何やらお店で買えるアイテムがごっそりと添付されていた。


「……ショボい……」


 ルリちゃんがばっさりと斬り捨てる。


「こ、こういうのは気持ちだから! あ、返信しないと」


 私はナーユちゃんに返信メールを打つ。

 え~っと、ありがとうございます。大事に使わせてもらいます。っと。

 メールを返すと、僅か数秒で個人チャットからメッセージが届いた。


GMナーユ:沙南さんログインしたんですね。今どこですか? 会ってからちゃんと謝りたいのですが。


沙南:気にしなくていいよ。今は街でルリちゃんと作戦会議だよ!


GMナーユ:そう言う訳にはいきません。今はダンジョンにいますが、すぐに向かいますね。


 律儀な人だなぁ。運営だから当たり前なのかな?

 とりあえずルリちゃんとクランを作るために、街に設置されているベンチに並んで座った。

 そしてクラン作成画面を表示させる。


「それでルリちゃん、考えてた名前ってどんなの?」

「うん。沙南は扱うのが難しいって言われる武闘家を使ってて、その武闘家って獣を連想させる特技が多いって思ったんだ。だから……」


 ルリちゃんがクラン名の覧を私の代わりに入力していく。

 「Beast fang」

 それがルリちゃんの考えた名前だった。

 ん~……えと、なんて読むんだろう……


「ビーストファングっていうのはどうかな? 獣の牙って意味」

「わぁ~、ルリちゃん英語使えるんだね! 凄いよぉ!」

「ちょっとだけ習ってる。あとは沙南が決めてくれて構わないから」


 悩むよぉ。

 正直、英語って私達に合うのかな……?

 それにお父さんが言ってた。あまりカッコつけすぎる名前は中二病って呼ばれるから気を付けろって。


「ねぇルリちゃん、あの人のクラン名どう思う?」


 私は道行く人の簡易画面を開き、その人が所属しているクラン名を見せてみた。

 †漆黒の翼† ~Jet black Wings~

 そういうクラン名らしい。


「カッコいいけど、これでメンバーが弱かったら逆にダサい。名前負けしてる」


 そうなんだよねぇ……

 あ、そうだ!


「ならこれはどうかな? 『び~すとふぁんぐ!』」

「あ、かわいい! さすが沙南!」

「じゃあこれに決めちゃおう!」


 私はこれで入力決定ボタンを押した。


【新クラン、『び~すとふぁんぐ!』が設立された】


 あとはルリちゃんにメンバーの申請を送ってっと……

 そしてすぐに承認されて、メンバーが二人になった。

 よ~し、これで明日のイベントに参加するよ! 大丈夫、なんとかなるなる!


「沙南さん、お待たせしました!」


 そんな時だった。ナーユちゃんが私の前に到着していた。


「あ、ナーユちゃんお疲れ様~」

「あ、はい、お疲れ様です。……ってそうじゃなくて、先ほどは本当にごめんなさい。何度謝っても足りないくらいです……」


 そして深々と頭を下げて謝り出した。


「分かってくれたのなら別にいいよぉ。もう気にしないで。ナーユちゃんはこのゲームが好きで、守りたかっただけなんでしょ? ちゃんとわかってるから」

「うぅ……お恥ずかしい限りです……」


 申し訳なさそうに俯いていたナーユちゃんだけど、ハッとしたように顔を上げた。


「あれ? 沙南さんクランに入ったんですか? 戦った時は無所属だったと思いましたが」

「えへへ。たった今立ち上げたんだ~」

「そう……なんですか……」


 なぜかナーユちゃんがモジモジと指を弄りだした。どうしたのかな?


「あ、あの、沙南さん。もしよければ、そのクランに私も入れてくれませんか?」


 突然すぎて、一瞬その言葉が信じられなかった。


「えぇ~!? ナーユちゃんって運営でしょ!? クランに入ってもいいの!?」

「私は元々一人のプレイヤーとしてゲーム内を巡回するのが役目です。クランに所属したりイベントに参加するのは認められているんですよ。今までは興味のあるクランが無かっただけの話で……」


 するとルリちゃんが目つきを鋭くして私のとナーユちゃんの間に割って入った。


「また何か沙南に酷い事するつもりじゃないの!? フーッ!!」


 猫のように威嚇を始めた……


「いえいえ、純粋に沙南さんの強さに惹かれただけです。もちろんダメなら諦めますから……」

「ううん。歓迎するよ!」


 そう言ってから私はナーユちゃんに申請を飛ばした。


「沙南、いいの?」

「うん! 昨日の敵は今日の友っていうしね! 運営ならルリちゃんに酷い事を言ったりしないでしょ? こうやってみんなと仲良くなれたら、それだけで私は楽しいよ!」

「……沙南は……優しすぎるよ……」


 ナーユちゃんが承認を押してくれて、メンバーが三人へと増えた。


「ありがとうございます! これがクランなんですね。ちょっとドキドキです!」


 ナーユちゃんもちょっと浮かれている。

 私が言うのもなんだけど、子供みたいにキラキラしてるよ。


「じゃあこれで明日のイベントについて話し合う?」

「ううん。実はあと一人、心当たりがあるんだ~。ルリちゃんが納得してくれるかは分からないけど……」

「……まぁ、沙南が信用している人なら……」


 私は二人を引きつれて、この街の路地裏に入っていく。するとそこには銀色のセミロングをバサリと翻す美人なお姉さんが座り込んでいた。


「シルヴィアちゃんこんばんわ」

「きゃー沙南ちゃんお久しぶりですー!!」


 お久しぶりって言うほど会ってなかったかは分からないけど、取りあえずシルヴィアちゃんは今日も元気だ。


「私の彼女になってくれるんですか!? それとも結婚してくれるんですか!?」


 そして今日も暴走していた……


「何この変態! 沙南に近付かないで!」


 ルリちゃんがまた私の前に立ち、守ろうとしてくれていた。

 ルリちゃんはほんと健気だよぉ!


「なんですかあなた。私と沙南ちゃんの邪魔をしないで下さい! 幼女みたいなアバター使って、どうせ中身はおっさんでしょ!」

「おっさんじゃないもん! 沙南とは同い年だもん!」


 なんかすごい揉めてる……

 私はそんなルリちゃんをなだめながら、シルヴィアちゃんに用件を切り出した。


「あのね、私達新しいクランを作ったんだ。確かシルヴィアちゃんって無所属だったでしょ? もしよかったら、私のクランに入らないかなって」


 すると、なぜかシルヴィアちゃんの表情が険しくなった。


「沙南ちゃん、何か勘違いをしていませんか?」


 そう怒ったように言われて、私の胸は締め付けられるように苦しくなった。

 そっか。私のレベルは40で、シルヴィアちゃんはもう600近い。こんな私の作り立てのクランにトップランカーを誘うだなんて失礼な行為なんだ。シルヴィアちゃんに嫌な想いをさせちゃった。謝らないと……


「シルヴィアちゃん、ごめんなさ――」

「そこは『入らない?』 じゃなくて、『申請を飛ばしておいたよ』でしょう!? 私これ何番目なんですか!? なんだかゲームマスターも一緒にいるし!!」


 なんだか私の考えている事と全然違う事で怒っているみたいだった……


「えっと、それじゃあ入ってくれるの?」

「当たり前じゃないですか! というか、誘ってくれなかったら泣いてましたよ!」


 泣いちゃうんだ……

 とにかく私が申請を送ると、シルヴィアちゃんは待ちきれない様子で承認を連打し始める。


「ほら~! 私四番目じゃないですか!? デフォルトだと一番上がクランマスターで、その次からは登録順に並ぶんですよ! だから二番目に表示される人が自然とサブマスターみたいな立ち位置になっちゃうのに、これじゃ私が微妙な順番じゃないですか! しかも三番目がゲームマスターだから結局私のレベルが微妙に見えちゃいますよこれ!」


 なんだかすごい嘆いてるよ。シルヴィアちゃんのレベルも普通に凄いと思うんだけど……


「最初から作り直しません? それで私を二番目にして下さいよ!」

「ダメ! 沙南の二番目は私がやるの!」

「二人共落ち着いて下さい! あんまり騒ぐとアカウント凍結させますよ!」


 こうして私のクランが結成された。

 うんうん。すごく賑やかなクランになったよ。これからもっと楽しくなりそう!

 そんな私の期待に応えるように、三人は騒ぎ続けるのだった。


クラン名:び~すとふぁんぐ!

メンバー表

沙南   :武闘家   レベル40  クランマスター

ルリ   :魔法剣士  レベル42

GMナーユ :盗賊    レベル785

シルヴィア:クラフター レベル576

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― 新着の感想 ―
[良い点] クラン名がゆるかわ [気になる点] ナーユは実は...ロリコン? ならあなたも実はロリコン? 愛読してる私はもちろんロリコン! [一言] 少しずつ独占欲が強くなってきた気がする?なんかハー…
[一言] 素人の私服警備員が仲間になった程度に脳内解決しておく、VRゲームの中でもかなり珍しい作品になったと思う。 今回はGMが仲間になるというVRゲームタグではほぼありえない話だが「運営から許可を得…
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