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「初めてを大切に思わない人なんて、そんなのゲーマーじゃない!!」

「くっ……魔物を作り出したとは聞いていましたが、こんなにポンポンと生み出せるなんて……。沙南さん、いったん引きましょう。いくらなんでも三匹は無理です!」


 ナーユちゃんが私の後ろからそう叫ぶ。だけど私は考えていた。どうすればプニちゃんを説得できるのか。どうすればこの状況を切り抜けられるのか……

 少なくとも逃げるという選択肢はない。だって運営がここに辿りついたその時がゲームオーバーだから。

 運営ならヘルカオスドラゴンが何匹集まろうが、なんらかの方法でデータを削除するはず。抗う猶予すらないかもしれない。だから……ここで逃げるわけにはいかない!


「沙南さん聞こえていますか!? もうこれはどうしようもありません! まとめて一撃で倒す方法があるならまだしも、それができない以上は引くしかありませんよ!」


 ……まとめて一撃で倒す方法……?


「そうだ、イチかバチか……」

「沙南さん!? どうしたんですか? 早く退避を――」

「ナーユちゃんたちは下がってて、私が……なんとかするから!」


 そう言って、自分の腕を前に伸ばす。


「なんとかって……一体どうするつもりなんですか!?」

「こうするんだよ。……リンク!!」


 コンセントを繋いだように、バチンと電気が流れるような感覚に陥る。これで今、私とプニちゃんは繋がった!


「お姉ちゃん!? 何するのよ! 勝手に繋げないで! あたしの中に入ってこないで!!」


 プニちゃんが胸を押さえて睨みつけてくる。けれどそう言われて止めるわけにはいかない。


「プニちゃんが私とのリンクで技を引き出せるんだとしたら、その逆で私もプニちゃんから技を引き出せるかもしれない!」


 伸ばした手を泳がせて、必要な情報を探し続ける。


「ちょっと待ってください沙南さん! それはバグの力を故意に使うという事になります。けどそれは明らかな違反行為なんですよ!? あとから運営にログを調べられたときにそれが判明したら、それこそアカウントを凍結させられる可能性も出てきます! それでもいいんですか!?」

「……いいよ!」


 私ははっきりとそう答える。


「プニちゃんを説得するためならなんでもやる! アカウントが停止になっても構わない! ……だってさ、ここで私が諦めたら、本当にプニちゃんが消されちゃうんだよ!? 私はアカウントを作り直せばいいだけかもしれないけど、プニちゃんはそうじゃない! これが正真正銘のたった一つの命なんだ!!」

「お、お姉ちゃん……?」


 プニちゃんとリンクした私は必要な情報を求めてデータのなかをかき分ける。


「……もういいよお姉ちゃん。どうせ私が消されてもさ、メンテナンスの後でバグを取り除いた正規の守護精霊が配布されるよ。お姉ちゃんはそれで元通りじゃん……」

「それは……違うよっ!!」


 全力で否定する!

 声を荒げて、それは間違いだと訴える!


「プニちゃんを消されて、その補填で新しい守護精霊が私に配布されたとしても、それって全くの別ものだよ! たとえ同じ姿で、同じ声だったとしても、それはもうプニちゃんじゃないんだよ!? 見た目が同じってだけの別人だよ!!」

「な、なんで……? どうしてお姉ちゃんはあたしにそこまで拘るのよっ!?」


 胸を押さえながら、プニちゃんが困惑しながら聞いてくる。

 だから、私は……


「特別だからだよ! プニちゃんは私の特別だから!!」

「特……別……? あたしが?」

「そう、特別だよ。プニちゃんにはわからないかもしれないけど、ゲーマーって初めてを大事にするものなんだよ? ゲームの中で出来た初めての友達、特別だよ! 初めて作ったクランは、とっても思い入れが強くなるんだよ。そして初めての守護精霊、とってもとっても大事に育てようって思ったんだよ? 初めてを大切に思わない人なんて、そんなのゲーマーじゃない!!」


 プニちゃんが震える。

 苦しそうに、その全身を震わせていた。


「私にとって守護精霊はプニちゃんだけなんだよ! 他の守護精霊なんていらない! プニちゃんだけでいい! それくらい大切で、特別で、代わりなんてどこにもいない存在なんだっ!!」

「う……あぁ……ああぁ……」


 頭を抱えて打ち震えるプニちゃんを横目に、私は伸ばした手で情報を探る。


「あうぅ、胸が……熱い! お姉ちゃんの想いが流れ込んでくる……」


 私が探れば探るほど、プニちゃんは悶えて表情を歪める。必要なスキル、その情報をまさぐって手を伸ばし続ける。


「私はプニちゃんの事、絶対に止めるよ! もちろん、運営さんに消させるつもりもない! だからそのための力、借りるからねっ!!」


 そうしてついに、目当てのスキルを見つけ出せた。私はそのスキルを掴み、解き放つ!


「転……身!!」


【沙南がスキルを使用した。神獣転身】


 バチンと電気が弾ける音が鳴り、私の体が変化する。


「神化!? 本来、対戦相手を戦闘不能にしないと使えないはずの転身をバグの力で強引に使用した!?」


 ナーユちゃんが私の後ろで驚いている。こんな事をして後で怒られるかもしれないけど、それでも今は、プニちゃんに触れるだけの距離まで近づきたい。ただそれだけなんだ!


「グルルルゥゥ!」


【ヘルカオスドラゴンがスキルを使用した。我を傷つけることなど不可能だ】

【ヘルカオスドラゴンが特技を使用した。地獄の炎で骨も残さん】


 三匹のドラゴンが、その口から炎を漏らす。


【沙南がスキルを使用した。力溜め】

【沙南がスキルを使用した。ベルセルク】

【沙南がスキルを使用した。クリティカルチャージ】

【沙南がスキルを使用した。コンボプラス】

【沙南がスキルを使用した。気功術】


「プニちゃん、今そっちにいくから。必ずもう一度、抱きしめてあげるから!」

「う、ああ……お姉……ちゃん……あたし……」


 そして三匹のドラゴンが、私に向かって同時に炎を放射した!


「そこ、通してもらうから! 爪ぉぉぉぉ薙ぃぃぃぃ!!」


 全力で、渾身の力で、向かってくる炎をその爪で薙ぎ払う!!


【沙南が大技を使用した。神技、爪薙】


 私の爪は、三匹分の炎を切り裂いて無力化させる!


爪薙そうなぎ:消費5000。巨大な不可視の爪で広範囲を攻撃できる。この技は相手の遠距離攻撃を弾く効果がある。攻撃力40倍。


 さらにドラゴンの結界をも切り裂き、三匹同時に引き裂いた!


【沙南のアビリティが発動。神獣の爪】

【沙南のアビリティが発動。コンボコネクト+2コンボ】

【沙南のアビリティが発動。先手必勝+1】

【沙南のアビリティが発動。カウンター+2】

【沙南のアビリティが発動。HPMaxチャージ】

【沙南のアビリティが発動。状態異常打撲付与】

【沙南のアビリティが発動。ドラゴンキラー】

【沙南のアビリティが発動。スキルブースト】

【沙南のアビリティが発動。マルチブースト】

【沙南のアビリティが発動。アビリティブースト】

【沙南のアビリティが発動。無効貫通】


【ヘルカオスドラゴンに372億2129万8330のダメージ】

【ヘルカオスドラゴンに200億5187万7888のダメージ】

【ヘルカオスドラゴンに250億6484万7360のダメージ】


【ヘルカオスドラゴンを倒した】

【ヘルカオスドラゴンを倒した】

【ヘルカオスドラゴンを倒した】


 シュウシュウと、ドラゴンはそろって光になって消えていく。

 その後に残されたのは、未だ胸を押さえつけて息を荒くするプニちゃんだけだった。


「プニちゃん、魔物、やっつけたよ」


 私はゆっくりと、プニちゃんに向かって歩き出す。


「い、いや……来ないで……」


 恐怖心か、それとも罪悪感か、プニちゃんは震えていた。


「約束したよね。三匹倒したら諦めるって」

「そ、それ……は……」


 一歩ずつ歩みよって、目をキュッと瞑るプニちゃんを、できるだけ優しく抱きしめた。


「ごめんね。プニちゃん」

「……え……」


 プニちゃんの体はまだ震えていて、強張っていた。


「不安にさせちゃったよね。辛かったよね。だから、ごめんね」

「あ、ああぁ……」


 今にも泣きそうな、涙ぐんだ声が漏れた。


「ち、違うの。お姉ちゃんは悪くない。あ、あたしが……エグッ……あたしが悪いの! みんなを信じる事ができなかった……お姉ちゃんを疑う事しかできなかった……ひっく……だから、ごめんなさい……」


 体を跳ね上げて、声に嗚咽を混じらせて、プニちゃんは謝ってくれた。


「ご、ごめんなさい……みんなに迷惑かけてごめんなさい! お姉ちゃんに死んじゃえなんて言ってごめんなさい……勝手な事ばっかりやってごめんなさい……だから、だからお姉ちゃんと一緒にいさせてよぉ……」


 ボロボロと涙をこぼすプニちゃんを、私はさらに強く抱きしめる。

 もう二度と、この子を悲しませたくなかった。


「うん。私もね、プニちゃんとずっと一緒にいたいと思ってるんだよ?」

「う、うわああああああぁぁぁ……」


 声を裏返して、周りの事も気にせずに、プニちゃんはついに大声で泣きじゃくった。

 私にしがみ付くその小さな体は小刻みに震え、涙で私の服を濡らすけれど、ようやく信頼してもらえたことが嬉しくて……

 強く抱きしめながらも、その小さな頭を優しく撫で続けるのだった。

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