表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/147

「プニちゃん、また来たよ」

【地下二階】


 私たち六人はボスの部屋を目指して進んでいく。普段は、このゲームを始めたばかりの初心者が魔物と戦う姿をよく見るのに対して、今はほぼ誰もいない。

 それも当然だと思う。いつ緊急メンテナンスが始まるか分からない状態で敵と戦っても、次の瞬間には落とされるかもしれないのだから。

 街の中にはまだ多くのプレイヤーが残っているけれど、ダンジョンの中はガランとして静かだった。

 たまに急いで地上に戻ろうと走っているプレイヤーを見かける。私たちはそんな人たちとすれ違いながらボスの部屋へと急いでいた。


「グルルルゥゥ……」


 低い唸り声が響いてくる。通路の奥から不気味にこだまする猛獣の呻き……

 そんな向かい風に抗うようにして進むと、そこにはやっぱりヘルカオスドラゴンが寝そべるようにして道を塞いでいた。


「プニちゃん、また来たよ」


 ドラゴンから付かず離れず、私はそう声をかける。


「お姉ちゃん!? へぇ~、何しにきたの?」


 ちょっと驚いた様子で、ドラゴンの後ろからプニちゃんが顔を出した。


「プニちゃんを止めにきたんだよ。もう通せんぼするのやめよ? みんな迷惑してるよ」

「何度同じやり取りするの? あたしがこうしないと運営に消されるんだってば!」


 プニちゃんが私を睨みつけてくる。


「ううん。今ならまだ間に合うよ。絶対に消させたりしない。約束する。だから――」

「嘘だよ!! こんな事までして助かるわけがない! あたしはもう誰も信じない! 一人で身を護っていくしかないんだ!! ヘルカオスドラゴン、全員殺しちゃって!!」


 ダメだ。全然聞く耳を持ってくれない。

 そしてプニちゃんに従うように、ドラゴンがゆっくりと身を起こし、こちらを威嚇してくる。次の瞬間にはHPゲージが表示され、戦闘開始の合図となった。


「みんなやろう。まずはこのボスを倒さないと、ちゃんとお話できない」


 みんなが戦闘態勢を取る。すると真っ先にドラゴンが動き出した!


【ヘルカオスドラゴンがスキルを使用した。我を傷つけることなど不可能だ】


 まずは防御結界を張る。うん、行動パターンは新ダンジョンのままみたい。


「まずは相手の先制攻撃がすぐに来るよ。ルリちゃん、チコちゃん、お願い!」

「了解! なのです!」

「任せて」


【チコリーヌがスキルを使用した。鋼鉄化+3】

【チコリーヌがスキルを使用した。護りの構え+1】

【チコリーヌがスキルを使用した。防御結界】

【チコリーヌがスキルを使用した。守り人の加護+2】


 チコちゃんは巨大な盾を構えてスキルを使用する。


【ルリが大技を使用した。絶技、竜神の舞】


 さらにその後ろでルリちゃんが絶技を使用する。これで私たちの全ステータスが二倍になった!


【ヘルカオスドラゴンが特技を使用した。地獄の炎で骨も残さん】


 そしてドラゴンが煉獄の炎を噴き出した。

 私たちの先頭に立つチコちゃんは足を開き、押し返すような恰好でその炎を盾で受ける。するとまるで火炎放射の炎が周りに四散するように熱風が広がった。


【チコリーヌのアビリティが発動。オートガード】

【チコリーヌのアビリティが発動。守護者の誓い+1】

【チコリーヌのアビリティが発動。ディフェンスガード+2】

【チコリーヌのアビリティが発動。気合い受け+1】

【チコリーヌのアビリティが発動。気功防御】


【チコリーヌに2万1540のダメージ】


 チコちゃんのHPゲージが、およそ半分近くまで減少する。


「す、凄い! ハルシオンさんでさえもっと大きなダメージを喰らってたよ! 流石盾士! チコちゃん凄い!!」

「いえ、シルヴィア先輩の装備のおかげなのです。魔法攻撃を受ける時、DEFの40%をREGに加算する効果があるみたいなのです」


 これで防御面での心配はなくなった。後は……私の攻撃でどこまで早く倒せるか!

 モタモタするわけにはいかない。運営さんが来る前に終わらせなくちゃいけないから。


「チコちゃんはアイテムでHPを回復しておいて。狐ちゃん、まず結界を壊さなくちゃいけないから全力で攻撃して! ナーユちゃんは私の攻撃に合わせてデュアルアタックを!」

「はいなのです!」


【チコリーヌがアイテムを使用した。回復薬】


「お任せください!」


【小狐丸がスキルを使用した。力溜め+2】

【小狐丸がスキルを使用した。一点集中+1】

【小狐丸がスキルを使用した。背水の陣】

【小狐丸がスキルを使用した。自傷】


 スキルを使用した狐ちゃんは、腰を落として鞘に納めた刀に手を当てる。

 少し前のめりの格好で呼吸を整え、蹴りだす右足に力を込めた。


【小狐丸が大技を使用した。絶技、縮地の法・鬼神斬】


 ギュンと距離を詰めて、狐ちゃんの一撃が結界を砕く。威力は十分すぎるほどだった。


「今だ! ナーユちゃん行くよ!」

「はい!!」


【沙南がスキルを使用した。ソニックムーブ+1】

【GMナーユがスキルを使用した。ソニックムーブ+5】


 二人並んでドラゴンに突撃する。


【沙南がスキルを使用した。力溜め】

【沙南がスキルを使用した。ベルセルク】

【沙南がスキルを使用した。クリティカルチャージ】

【沙南がスキルを使用した。コンボプラス】

【沙南がスキルを使用した。気功術】


 その間に全てのスキルを使用する。

 そしてナーユちゃんと同時に、ドラゴンの体に攻撃を仕掛けた!


【沙南が大技を使用した。絶技、獣神咆哮牙】

【GMナーユが大技を使用した。絶技、紅斬華】


 私とナーユちゃんの攻撃は、見事なまでに同時にヒットした!


【沙南のアビリティが発動。コンボコネクト+2コンボ】

【沙南のアビリティが発動。先手必勝+1】

【沙南のアビリティが発動。HPMaxチャージ】

【沙南のアビリティが発動。状態異常打撲付与】

【沙南のアビリティが発動。ドラゴンキラー】

【沙南のアビリティが発動。デュアルアタック】

【沙南のアビリティが発動。スキルブースト】

【沙南のアビリティが発動。マルチブースト】

【沙南のアビリティが発動。アビリティブースト】

【沙南のアビリティが発動。無効貫通】


【ヘルカオスドラゴンに84億1126万8096のダメージ】


 大きなダメージが入ってドラゴンの体が激しく揺れる。


「ちょ、ちょっと!? なに大ダメージ受けてんのよ! 早くやっつけちゃってよ!!」


 ドラゴンの後ろに隠れているプニちゃんが喚き散らす。それと同時にドラゴンの全身が発光し始めた。


【ヘルカオスドラゴンがスキルを使用した。我を傷つけることなど不可能だ】

【ヘルカオスドラゴンが大技を使用した。破滅の光はいかなるスキルも打ち砕く】


 回避不能の全体攻撃……

 これを凌ぐことが絶対条件だけど、うちのクランにはチコちゃんがいる!


「みんなチコちゃんの後ろに隠れて! チコちゃん頼んだよ!」

「はいなのです!」


 再び全員が、盾を構えるチコちゃんの後ろに並ぶように隠れた。

 ドラゴンの体が光を帯びて膨れ上がっていく。それはまるで爆発前の爆弾のようだ。


「へ!? ちょ、なにこれ、なんかヤバそうなんだけど……」


 プニちゃんが困惑するのもお構いなしに、ドラゴンはその光を解き放ち、大爆発を引き起こした!


【プニプニのアビリティが発動。ジャッジメント】

【チコリーヌが大技を使用した。奥義、ハイパーガード】


 凄まじい爆風が通路全体に吹き荒れる。

 ハルシオンさんたちと潜ったダンジョンではボスの部屋はドームのように広かった。けど、ここは精々片側二車線ほどの広さしかない。膨大なエネルギーは通路を一気に駆け巡っていた。


【プニプニに0のダメージ】

【チコリーヌに0のダメージ】


 盾士の完全無敵になる大技、ハイパーガード。これがあるだけでかなり心強い!


「あっぶな! ちょっと危ないじゃない!」


 そしてプニちゃんも文句を言いながらドラゴンをペチペチと叩いていた。

 とにかく今がチャンス!


「シルヴィアちゃん!」

「オッケーですよ!」


【シルヴィアが大技を使用した。秘技、リムーブメント】


 ジュワっと私たちの体から湯気が立ち上った。

 リムーブメントは周囲の仲間のリキャストタイムをゼロにする事が出来る技。つまり、もう一度全力で攻撃ができる!

 ドラゴンが翼を動かし飛ぼうとしている。けど、その前にもう一発いけるはず!


「狐ちゃん、すぐにお願い!」

「承知!」


【小狐丸が大技を使用した。絶技、縮地の法・鬼神斬】


 再び、瞬間移動をしたような動きで狐ちゃんが刀を振るう。その後も動きも完全に再現だった。


【沙南がスキルを使用した。ソニックムーブ+1】

【GMナーユがスキルを使用した。ソニックムーブ+5】


 浮かび上がる前にドラゴンの懐に滑り込み、渾身の一撃を叩き込む!


【沙南が大技を使用した。絶技、獣神咆哮牙】

【GMナーユが大技を使用した。絶技、紅斬華】


 飛ぼうとしているところに私たちの攻撃が入り、ドラゴンは大きく吹き飛んだ。そして地下二階のボスの扉にドガンと激突をする。


「うひゃあ! 巨体と扉に挟まれてぺちゃんこになるかと思った」


 後ろに隠れていたプニちゃんがワタワタと移動をしている。


【ヘルカオスドラゴンに44億6052万0960のダメージ】


 コンボ数は伸びたけど、先手必勝がもう発動しないせいでダメージが大きく下がる。けどこれで、ドラゴンのHPは残り30万くらいのはず!


【ヘルカオスドラゴンがスキルを使用した。我を傷つけることなど不可能だ】

【ヘルカオスドラゴンが大技を使用した。破滅の光はいかなるスキルも打ち砕く】


 またドラゴンの体が光を集めていく。今度はその翼を羽ばたかせて空中での使用だ。だけどリムーブメントのおかげで防御面もカバーできている。


「チコちゃん、またよろしくね!」

「了解なのです!」


【チコリーヌが大技を使用した。奥義、ハイパーガード】


 爆発による熱風が吹き荒れるこの回廊で、チコちゃんの巨大な盾が私たちを確実に守ってくれていた。


【ヘルカオスドラゴンが大技を使用した。我が槍はいかなる防御も貫通する】


 ここでドラゴンの行動が変わる。前回だと空中に浮かび上がっての攻撃なので、この攻撃を凌ぐまで待機するしかなかった。けれどここは新ダンジョンのように広くはない。だから壁を蹴るなりしすれば、いくらでもその巨体まで近づく事は難しくないと思えた。


「ナーユちゃん、ヘイトを取ってあの攻撃を引き付けてもらえる? アビスさんは凄く速い動きで全部回避してたんだけど」

「……なるほど。他の人にできたのなら、私も負けるわけにはいきませんね!」


 別に煽るつもりはなかったんだけど、結果としてナーユちゃんの対抗心に火をつけちゃったみたい……


【GMナーユが特技を使用した。風斬かざぎり


 カマイタチを飛ばすと結界に弾かれてダメージは通らない。けど、ドラゴンの周りに出現した槍はナーユちゃんへと矛先を変えていた。


「さぁ、私に当てられるものなら当ててみなさい」


 光の槍が一斉に動き出し、ナーユちゃんへと降り注ぐ!


「……ソニックムーブ改・残視!」


 刹那、ナーユちゃんの姿が急激に増えた。いや、残像を残したまま動き続けている。

 周囲のあちこちに浮かび上がるナーユちゃんの残像で、頭上から降り注ぐ槍はもはや本人を捉え切れていなかった。

 きっとナーユちゃんを狙ったであろう槍は、すでにその場にいないナーユちゃんの残像に向かって落ちてくるだけ。その結果、避けるというよりは誘導しているように見えちゃったりするのだった。


「姫様、デュアルアタックはどうするおつもりでしょうか?」

「それは私に任せて下さい」


 少し悩む私だけど、名乗りを上げたのはシルヴィアちゃんだった。


「私が沙南ちゃんに攻撃を合わせるので、好きに攻めていいですよ」

「わかった。お願いねシルヴィアちゃん。じゃあ行くよ、狐ちゃん!」


 狐ちゃんが壁に沿って走り出す。光の槍が降り注ぐ範囲に入り込んでも迷うことなく進んでいく。

 そのままの勢いで跳び上がり、さらに壁を蹴って自分の間合いまで寄せていった。


【小狐丸が大技を使用した。奥義、抜刀燕返し】


 一瞬で抜かれた刀は綺麗な弧を描く。その刃先は確実にドラゴンの肉体まで届いていた。

 ガシャンとガラスが割れるような音と共に、結界が消える。そのタイミングで私もまた突撃を開始した!


【沙南がスキルを使用した。ソニックムーブ+1】


 ギュンと加速する勢いのまま、壁を上るように走り込む。そのまま一気にドラゴンに向かって飛び掛かった!


【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。弓矢S】

【沙南が大技を使用した。奥義、咆哮牙・極】


 腕を振りかぶると、シルヴィアちゃんが飛ばした矢が飛んでくる。そして私の一撃は同時にドラゴンにヒットした!


【ヘルカオスドラゴンに27億8782万5600のダメージ】


 HPゲージは減少して、ついには見えなくなりそのまま砕け散る。するとドラゴンは落下を始めて地面にめり込む勢いで墜落した。


「……勝った」

「姫様、お見事でした!」


 ドラゴンが光の粒子になって消えていく。するとそこには落下した時に押しつぶされたであろうプニちゃんが地面にへばりついていた。


「うぅ……死ぬかと思った……」

「プニちゃん……」


 頭を振りながら起き上がるプニちゃんに、私はそっと名前を呼んだ。


「もうやめよ? 私たちの勝ちだよ。だから――」

「ほんっと使えない。最強のボスだって認識だったから期待してたのに、あっさり負けちゃってさぁ。期待外れもいいとこね」


 プニちゃんは面白くなさそうにむくれていた。


「じゃあ、もうメンテナンス受けよ? 大丈夫、私からも運営さんにお願いしてあげるから」

「……何言ってるの? 負けたのはあの竜であって、私は負けたつもりなんてないわよ?」


 目の座ったプニちゃんが、トーンの低い声でそんな事を言った。


「プニちゃん!?」

「言ったでしょ? メンテナンスを受けたらあたしは消されるの。これはもうそういう戦いなんだよ。抗って抗って抗って、あたしが消されるその時まで抗うしかない戦いなの!!」


 目を見開いたプニちゃんが、背中の羽を動かして宙に浮かぶ。


「それにさお姉ちゃん、忘れたわけじゃないよね? バグかなんだか知らないけど、あたしは無限に魔物を構築できる! これで終わりだなんて、そんな生ぬるいわけないんだよっ!!」


 すると再び地震が起こる。私とプニちゃんの間の地面が盛り上がり、また何かが地面から這い出してきた。


「姫様、お下がりください!」


 狐ちゃんに手を引かれて後退すると、そこには今倒したはずのヘルカオスドラゴンが蘇っていた。

 ……しかも三匹も。


「あっはははは! 一匹でダメなら三匹で相手にすればいいんだよ! これに勝てたら本当に諦めてもいいよ? 倒せるものならねっ!!」


 プニちゃんの悲しい笑い声と、新たに出現したドラゴンの咆哮が交じり合う。

 そうして私たちは、三匹もの最悪の敵と対峙するのだった……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ