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「緊急メンテナンスを行うように伝えます」

「んんっ……」


 ノックバックで大きく後退するナーユちゃんが、地を踏みしめて体を支える。そうやってなんとか倒れる事なく堪えたナーユちゃんだけど、そのHPゲージはどんどん減少していった。


「やった! ず~っとあたしにイチャモン付けてたからいい気味ね!」


 胸を張るプニちゃんだけど、私はもうどっちを応援していいのかさえわからなくなっていた。

 いや、応援とかもうそういう次元の話じゃない。これはもう私たち個人がどうこうできる問題じゃないのかもしれない……

 すると、とてつもないダメージを受けて減少していたナーユちゃんのHPゲージが止まった。ちょうどゲージの半分くらいまでだ。

 さらに――


【GMナーユのアビリティが発動。ジャッジメント】


 そんなログが書き込まれた。

 ジャッジメント? 初めて見るアビリティだよ。今まで発動したところを見た事がないけど。

 それに、あんな膨大なダメージを受けたのにHPが残っているなんて、どういう事なんだろう?


「……なるほど。やはりそうでしたか……」


 ナーユちゃんが目を落としながらそう呟いた。


「な、なんであたしの攻撃で倒れないのよ!?」


 するとナーユちゃんは、プニちゃんを真剣なまなざしで見つめながら答えた。


「私は一応運営側の人間ですが、基本的には普通のプレイヤーとして行動しています。そうやってゲームに参加することで、このゲームのバランスを直接見たり、どこかに不具合がないかを確認しているんです」


 そう言ってからナーユちゃんは、申し訳なさそうな目で私を見てきた。


「そんな私ですが、実は一つだけ運営としての権限で特殊なアビリティを持たされています。それが今発動した『ジャッジメント』なんです。これは主に、チートを使うプレイヤーに対抗するためのもので、普段はまず発動する事がありません」


 そして再び、厳しい目でプニちゃんを見つめなおす。


「これの発動条件は、運営がプログラムした手順以外で能力が使われる事、もしくは、運営の予期していないプログラムが使われる事。……つまり、チートを使うと反応するようになっています」

「ちょ、ちょっと待って! プニちゃんがチートを使っているって言うの? それはいくらなんでもおかしいよ!」


 つい叫んでしまった私に、ナーユちゃんは静かに首を横に振った。


「いいえ違います。この場合はチートではありません。バグです!」

「……バグ……」


 その可能性は十分に納得できるものだった。なぜなら、守護精霊のたまごを使用した時からすでにおかしかったのだから……


「おそらくプニプニさん自身も無自覚なほど、質の悪いバグが発生しています。だからこそジャッジメントが反応したんです」

「あ、あたしに……バグが……?」


 プニちゃんも意味を理解しているようで、困惑した表情を浮かべていた。


「私はすぐにログアウトをして、緊急メンテナンスを行うように伝えます。みなさんもすぐにログアウトをしてください。何が起こるかわかりませんので」

「ま、待って! 待ってよ!!」


 そう叫んだのはプニちゃんだった。


「そうしたらあたしはどうなるの!?」

「っ……」

「もしかして、削除されたりするんじゃないの!?」

「そ、それは……」


 ナーユちゃんが言葉に詰まると、プニちゃんは震えだした。


「い、イヤだ……消されるなんて絶対イヤ!!」

「お、落ち着いてください。少しの間眠るだけです。その間に終わりますから」

「眠る? あたしはたまごの中でずっと意識があったのよ!? ずっと暗い闇の中で震えてたの! あなたにわかる!? あの時の恐怖が!! またあの闇の中に戻れっていうの!? そんなの絶対にイヤ!!」


 半狂乱となって喚きだす。そんなプニちゃんに、その場の誰もが気の利いた事なんて言えなかった。


「ねぇお姉ちゃん! 助けてよ!! あたしの味方なんでしょ!? どんな時でも一緒にいてくれるんでしょ!? あたしまた一人になるのはイヤだよ!!」

「あ……う……」


 何も言えなかった。本当にどうしていいのかわからなかった。

 緊急メンテナンスを開く事が普通に考えて最善なんだろうけど、こんなプニちゃんを無視するわけにもいかなくて……

 結局どうしていいのかわからなくて、何も言えなくなってしまっていた……


「とにかく、メンテナンスを行わなければならないのは確実です。できる限り最善を尽くしますから」


 そう言って、ナーユちゃんはログアウトをしようとする。


「イヤ……イヤだ!! 絶対に行かせるもんかー!!」


 そんなナーユちゃんに、プニちゃんが飛び掛かっていった!


【プニプニが大技を使用した。神技、爪薙】


 大きく振るった巨大な爪が、再びナーユちゃんに襲い掛かる!

 しかし――


【GMナーユに0のダメージ】


 ナーユちゃんはダメージを受けない。仰け反る事もなく、ノックバックも発生しなかった。


「な、なんで!? この! このぉ!!」


【プニプニが大技を使用した。絶技、獣神咆哮牙】

【GMナーユに0のダメージ】

【プニプニが大技を使用した。奥義、咆哮牙・極】

【GMナーユに0のダメージ】


「無駄です。ジャッジメントはチートに対抗する手段です。一度発動するとステータスがカウンターストップを起こすまで上昇して、完全無敵状態になるんです。いくら暴れても無駄ですよ」

「そ、それなら……これをこうして……」


 プニちゃんが何かを溜めるような素振りを見せる。そしてすぐに、それを解き放つ!


【プニプニのアビリティが発動。ジャッジメント】


「なっ!? なぜその能力を!?」

「言ったでしょ!! お姉ちゃんが一度でも見た能力は復元できるのよ!!」


 そうして、右手をナーユちゃんに掲げて高らかに叫んだ!


「あたしを消そうとするアンタなんか嫌い! 消えちゃえーー!!」


 グニャリ!!

 突然ナーユちゃんの体がうねるように歪み始めた。波打つように歪んだ体は、次の瞬間にバツンと音を立てて消滅する。

 一瞬だった。まるでテレビを消した時のような感じで、一瞬でナーユちゃんの姿は完全に消えてしまっていた……


「……え? ナーユ……ちゃん……?」


 小さく呼んだ私の声がその場に響く。

 あまりにも衝撃的で、静まり返ったその場には私の声だけが大きく聞こえるのだった……

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