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「あたし……あたしは……そう、守護精霊」

「か、かわいい~~♪」


 力の抜けたナーユちゃんの腕を振りほどいて、あっけにとられている狐ちゃんの横をすり抜ける。


「あ! ちょ、沙南さん!?」


 そして困惑している妖精ちゃんを鷲掴みにした。


「ひょわっ!?」

「あなた、どうして泣いているの?」


 高い高いするよう持ち上げて、妖精ちゃんにそう聞いてみた。


「え……? べ、別に泣いてない!」


 妖精ちゃんはグシグシと目を擦って涙を拭い去ろうとしていた。


「きっと怖かったんだね! でももう大丈夫だよ。これからは私が一緒だから♪」

「一緒……? ほんとに……?」

「本当だよ。だからもう泣かないで!」

「う、うん……。って、だから泣いてないって言ってるでしょ!」


 強がっちゃって可愛い! きっと頑張り屋さんなんだね。


「ま、待ってください沙南さん、少し無警戒すぎます!」


 そう慌てた声を上げたのはナーユちゃんだった。


「え? 大丈夫だよ。だってこんなに可愛いんだもん!」

「ひにゃああああ!?」


 妖精ちゃんに頬ずりすると、かわいい悲鳴をあげてくれた。


「いや、理屈になってないと思うんですが……とにかくあなた! 私たちの質問に受け答えできるんですか?」


 ナーユちゃんがそう聞くと、妖精ちゃんはムムムと考え込んだ。


「受け答えは……できるわ」

「では、あなたは何者ですか?」

「あたし……あたしは……そう、守護精霊。……たまごの持ち主のパートナーとなって……サポートをする存在」


 一つ一つ思い出すように、ゆっくりと妖精ちゃんは答えていく。


「やっぱりそうなんだ! ねぇ、名前はなんていうの?」


 私がそう聞くと、妖精ちゃんは首を傾げてしまった。


「名前……? 名前はないわ。あたしを拾った人に付けてもらう決まりみたい」

「そっかぁ。やっぱそうだよね。育成ゲームは自分で名付けないとね。それじゃあねぇ……」


 ちょっとだけ悩んだけど、私の中ではすでに答えは出ていた。


「よぉし! あなたの名前は『プニプニ』だよっ!」

「……え?」


 プニプニちゃんは微妙そうな顔をしていた。


「ちょっと待って、何その変な名前は……」

「変だなんて酷いよぉ……。私ね、今までにプレイしてきた育成ゲームは全部プニプニって名前にしてるんだ。だからあなたもプニプニなんだよ」

「いやいやいや、それって動物とかに付ける名前よね? 人に付ける名前じゃないわよね!?」


 必死に抗議されちゃってる。まぁ確かに、これまでやってきた育成ゲームのキャラは全部動物か魔物だったけど……


「……ちょっと待ってください」


 私たちの会話を遮ったのはナーユちゃんだった。

 なんだかすごく難しい顔をしている。


「プニプニさん、今あなた、沙南さんが付けた名前を否定しましたよね?」

「え? うん。だって変な名前だし」


 がーん!? そんな変かなぁ? かわいいのに……


「あなたは沙南さんの守護精霊なんですよね? なのになんで沙南さんが付けようとした名前を否定するんですか!? それともそういうAIを積んでいるんですか!?」

「そんな事あたしに聞かれても……だって変じゃない。あなたは変だって思わないの?」

「いや、まぁ、変な名前だとは思いますけど――」


 ナーユちゃんまで!? そんな変な名前じゃないもん!!


「――それにしたって、名前を付ける機能があるのにそれを否定するプログラムなんて聞いたことありませんよ!! 沙南さんもそう思いませんか!?」

「プニプニは変な名前じゃないもん! ふーんだ!!」

「沙南さーん!? 可愛らしく頬っぺた膨らませてる場合じゃないですよー!?」


 とにかくこの子の名前はプニプニなの! 決定なの!!


「まぁ、長いから私はプニちゃんって呼ぶけどね」

「……自分で長いとか思ってるんじゃないですか……」


 ナーユちゃんの言葉を流しつつ、次の議題に移ろうと思う!


「他には何か決められるの?」

「そうねぇ。あたしになんて呼ばれたいか決める事ができるわよ」


 おお~!? それはいいね! なんて呼んでもらおうかなぁ。


「ご主人様でも、マスターでも、好きな呼ばせ方を決められるわ」

「それなら~……『お姉ちゃん』って呼んでほしいかも!」

「ふ~ん。まぁいいけど」


 そう淡白な返事が返ってくる。


「沙南、妹が欲しかったのかな?」

「知らなかったのです。言ってくれればそう呼んだのです……」


 ルリちゃんとチコちゃんがそんな事をはなしていた。


「じゃあプニちゃん、呼んでみて!」

「う~……それじゃいくわよ? ……沙南お姉ちゃん……」


 恥ずかしそうに頬を赤くしながら、上目遣いでそう呼んでくれた。


「キャ~可愛い~!!」

「ひぎゃーーー!? お姉ちゃんに握りつぶされる~!!」


 あまりの可愛さにまた鷲掴みにして頬ずりしてしまっていた。


「……好きに呼ばせられるのか。小烏丸、お前ならなんて呼んでもらう?」


 蜥蜴さんと烏さんも興味があるのか、そんな話題を持ち出していた。


「う~む、自分なら、『お兄たま』かな?」

「甘いな小烏丸。拙者なら、『世界中で一番大好きなお兄たま』って呼ばせるぞ」

「お前……天才か!?」

「……アンタたち、頼むから人前で守護精霊出さないでよね……」


 瑞穂ちゃんは相変わらず、そんな二人にツッコミを入れてくれていた。


「ねぇねぇプニちゃん、育成ってどうすれば育つのかな? どんなふうに私のサポートをしてくれるの?」

「私たち守護精霊はね、魔物と戦うことでプレイヤーと同じようにレベルが上がって強くなっていくの。そうやってレベルが上がるとスキルやアビリティを覚えて、その中から設定した能力をお姉ちゃんも使う事ができるのよ」


 おお~!? 凄いね。それって、武闘家以外の能力を覚えさせれば私も使えるって事だよね? 色々と戦略の幅が広がるんじゃないかな?


「お姉ちゃん、とりあえずここまでの設定は完了したから、後はあたしとリンクして契約を完了させましょ」

「リンク?」

「そう。あたしとお姉ちゃんが繋がる事で、正式なパートナーになるのよ。あたしが覚えた能力を使いたいときもリンクが必要だから、覚えておいてね」

「わかった。じゃあやってみるね」


 慣れれば頭の中で使えるとは思うけど、まずは最初だからコマンド画面を開いて丁寧にやってみる事にしよう。

 新しく守護精霊っていう選択画面が追加されていて、その中に『LINKリンク』という項目がある。私はそれを押してみた。


「ちょ、待ってください沙南さ――」


 バチンと電気が流れるような感じがして、プニちゃんの存在を認識できるようになった。

 目を閉じていてもわかる。近くにプニちゃんがいるという事実が。

 何かこう、見えない線で繋がっているような、そんな確かな繋がりを感じる事ができた。

 これが、守護精霊とのリンク!


「はいお終い! これであたしとお姉ちゃんは、正式な契約で結ばれてパートナーになったわよ」

「わ~い! これからよろしくね、プニちゃん!」


 するとナーユちゃんが慌てた様子で私に寄り添ってきた。


「大丈夫ですか沙南さん! どこか体がおかしくなったりしていませんか?」

「ほえ? 大丈夫だよ? ナーユちゃんは心配性だなぁ」


 私がそう言っても、ナーユちゃんは心配そうに私をジッと見つめていた。


「それじゃあ私、プニちゃんのレベルを上げるためにダンジョンに潜ってくるね」

「ちょ……本当に待ってください!」


 私が立ち上がると、ナーユちゃんは私の腕を掴んできた。

 しっかりと掴まれたその手には力が込められていて、少し痛みを感じるほどだった。


「沙南さん、もうちょっと慎重に行動してください! さっきのたまごのアレ、忘れたわけじゃありませんよね!? 何が起きるかわからない状態なんですよ!?」

「え? でも本当になんともないし……プニちゃんは何かおかしなことってある?」


 私がそう聞くと、プニちゃんもキョトンとした表情をして答えてくれた。


「別にないけど?」

「体に異常とかは?」

「ないわね」

「今のリンクで気になった事は?」

「特になし!」

「ほら~。ナーユちゃんの考えすぎだよ~」

「……」


 私が笑いながらそう言うと、諦めたように掴んだ手を離してくれた。

 けど、その表情はやっぱり煮え切らないという感じで……


「……最後に一つ、聞きたいことがあります」


 ナーユちゃんは俯いたまま、静かにそう言った。


「プニプニさんの受け答えが的確すぎて、とてもプログラムだとは思えないのですが、これって普通なんですか? 私はこれ以外のゲームはやった事がないのでよくわからないんですが、最近のAIというのはこれほどまでに進化しているんですか?」


 私はすぐに答える事ができなかった。正直、それは私にもわからないから。

 周りのみんなも私に注目して、誰もしゃべらずにシンと静まり返っていた。


「ごめん、私もVRってこれが初めてだからよくわからないんだ」

「……」

「でも、こんな凄いゲームが作れるんだから、これくらいが普通なんじゃないかな?」

「……」

「……それじゃあ私、プニちゃんのレベルを上げてくるね」


 私が外へ出ようとすると、『自分も』『私も』と、みんながついて来る。

 後ろをチラッと振り返ってみると、その中には結局ナーユちゃんもいて、浮かない顔つきでついて来ていた。


「どうなさいますか、ナーユ様」

「……多少気になるところはありますが、今のところ危険な存在とは思えません。もう少し様子を見ましょう。ですが、小狐丸さんもできれば警戒を緩めないでください」

「承知いたしました。私は何が起ころうと、姫様の安全を最優先に行動しますので」

「それで構いません。私はプニプニさんから目を離さないようにします」


 ナーユちゃんと狐ちゃんは、後ろの方でそんな事をはなしているのだった。

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