「そのドロップアイテムが大当たりだったんだよ」
「みんなー!! 凄いアイテムをドロップし……ふぎゃあ~!?」
び~すとふぁんぐの拠点とも言えるお家に戻った私は、中へ入るなり入り口の出っ張りに躓いて盛大に転んでしまった。
「沙南が文字通り転がり込んできたー!?」
ルリちゃんがすぐに私を抱き起してくれた。
「沙南大丈夫? バリアフリーにする? フラット化進める?」
ルリちゃんは難しい言葉知ってるね。けど今はそんな事どうでもいいんだよ!
「ボ、ボスをね! 倒してね! みんなと協力してね! ドロップ品がね!」
「沙南ちゃん落ち着いてください。ひとまずボスは倒せたんですか?」
シルヴィアちゃんがそう聞いてきたので、私はうんうんと何度も頷いた。
「それでね、そのドロップアイテムが大当たりだったんだよ」
アイテム欄から『たまご』を具現化させて、その場の床にそっと置いた。
綺麗な水玉模様のたまごは、2リットルのペットボトルくらいの大きさだ。
「なんと、『守護精霊』っていうのと契約できて、育成できるみたいなんだよね!」
「へぇ~。だとしたら、あの高難易度ダンジョンはこれが目玉って事になるんじゃないですか?」
このドロップ品が私だけだった事を伝えると、ナーユちゃんは手を合わせて驚いていた。
そして今この場にはメンバーの全員がいる。そのみんなが、私の置いたたまごに関心を持って周りに集まっていた。
「じゃあいい? たまごを使うよ?」
私はコマンドから、たまごの使用する、というボタンを押した!
その瞬間――
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジ
体が跳ね上がるほどの大きな音が鳴り響いて、反射的に耳を塞いでいた。
それは言うなら、パソコンがフリーズをした時のような、または突然目の前で道路工事が始まったかのような、そんな尋常じゃないけたたましい異音だった。
「な、なんですかこれは!?」
「う、うるさい……」
みんなも同じように耳を塞いでいる。そうして次にたまごに目を向けた私に、さらなる衝撃が走った。
床に置いたたまごが、変に歪曲してその形を変えていた……
テレビの砂嵐のようにチラついたり、モザイクがかかったり、ピントが合っていないようにその姿がボケたりしている。
しまいには綺麗な水玉模様が変色をして、毒々しい紫色になったりもしていた。
「な、なに? 何が起こっているの……!?」
明らかに異常だった。
この異音も、たまごの姿も、昔のゲーム機を叩いてバグらせたかのような、そんな今にも壊れてしまいそうな状態に不安が止まらなかった。
だから、塞いでいた耳から手を離してたまごへと伸ばす。
「沙南さんダメです!!」
後ろからナーユちゃんにしがみ付かれて、私の手はたまごに届かなかった。
「離して!! 私のたまごが!! 守護精霊が!!」
「姫様危険です! 離れてください!!」
狐ちゃんも私をたまごから遮るように立ち塞がる。そして手を伸ばす私を必死に押し返していた。
「二人とも離してよ!! 私のたまごなの!! 私だけの精霊なの!!」
大切にしようと思っていた。
初めての育成だから、愛情をもって育てようと思っていた。
……なのに、今何が起きているのかさえわからない! どうなってしまうのかさえわからない!!
不安で胸がはち切れそうで、二人を振り払おうと暴れ続けた。
すると、フッと音が鳴り止んだ。たまごの色も形も最初の時と同じままで、何事も無かったかのように床に置かれていた。
「音が……止んだ……?」
静まり返る。異音でうるさかっただけに、やたら静かに感じられた。
誰も何もしゃべらない。塞いでいた耳からそっと手を離して、みんながたまごに注目していた。
――ピシッ!
突然たまごにヒビが入った。
私の体に腕を回していたナーユちゃんに再び力が入る。
私をたまごに近づけさせないように遮っている狐ちゃんからも、ゴクリと息を呑む音が聞こえた。
たまごに入るヒビはどんどん広がり、ついに殻全体が砕け散り……
そこには、小さな女の子が膝を抱えて座り込んでいた。
たまごの半分ほどの大きさで、肩紐が外れかけた薄いピンク色のワンピースを着た少女。
目立つ金色の髪をツインテールにして、背中には半透明の羽が見え隠れしていた。
その子は精霊と言うよりも、妖精と呼んだ方が似合う外見で私の方をジッと見ている。
その瞳に大粒の涙を溜めて、怯え切った表情を浮かべながら……




