「何があろうと必ず守ってやる。この命にかえてもな」
「ところでさ、私ってまだ地下10階までしか進んでないんだけど、その新ダンジョンには潜れるの?」
私はふと、そんな疑問を口にした。
「大丈夫モフ。メインダンジョンとは別の所に設置されたダンジョンだから、誰でも入れるモフ」
そう言って先頭を歩くモフモフさんに私はついていく。
いつものダンジョンへの入り口と、その隣に設置されている転送装置を通り過ぎた所に、もう一つの入り口が見えてきた。
「それじゃあ入るモフよ。ハルシオン、防御特化の装備は大丈夫モフか?」
「ああ、準備は万端だ。いつ魔物に襲われてもいいように俺が先頭になろう」
そう言って、ハルシオンさんが先頭となってダンジョンへと降りていく。続いてモフモフさんとアビスさんが。その後に私と黒猫ちゃんが。そして一番後ろにはくぅちゃんという順番だ。
なんだか今までにないパーティーという事もあり、期待と不安。そして斬新さと緊張で変に興奮してしまっていた。
内部は今までのダンジョンとそう変わらない。結構広くて、地下へと続く巨大な洞窟といった感じだった。
「ところで沙南さん。勝ち抜きトーナメントの上位報酬は何を選びましたの? わたくし、沙南さんと戦ってから武闘家に興味を持ちましたの」
ダンジョンを探索中に、黒猫ちゃんがそう聞いてきた。
「ふっふ~ん! よくぞ聞いてくれました! 実はね、前から欲しかったスキルが報酬として選べるようになってたんだ~。だから今回は迷わずにそれを選んだよ!」
そのスキルとは、『デッドリーキャンセラー』。ありとあらゆる大技を無効にして、塵と変えるスキルだ。
ルリちゃんが私を助けてくれた時に見てから、密かにずっと憧れていたスキル。役に立つし、何よりカッコいい!
「もしもボスが大技を使ってきたら私に任せて! みんなを守るよ!」
「ふふっ、頼もしいですわね」
そんな話をしていると、前を歩いていたアビスさんが会話に混ざってきた。
「デッドリーキャンセラーか。俺なんて初期のころにガチャを数回引いただけで当たっちまってよぉ。もういらねぇのにその後も出てくるんだよなぁ。こういうプラス値がないスキルは二度目以降はメダルになっていらねぇアイテムと交換しなくちゃいけねぇから、俺にとってはもう当たってほしくねぇスキルだぜ」
得意げな顔で語ってくる。
「むぅ~……アビスさん嫌い!! ぷぅ~!!」
「ガーーーーン!! な、なんで!?」
アビスさんは全然わかってない! もう知らないから!
「まったく……ガチャ自慢はゲーム内で最も嫌われる行為でしてよ? これだから自己中心的な人は……」
「そ、そんな……おい沙南! 俺たちはソウルメイトだろ!? なぁおい!」
私の周りをぐるぐる回りながら必死に取り繕おうしていた。
そんな時だった。
「魔物だ!」
先頭のハルシオンさんの声で緊張が走る。前に向かって駆け出そうとすると、足元がボコボコと盛り上がり、そこからも魔物が生まれた。
「なるほど。全然魔物がいないと思ったらこういう事ですのね。地面からも壁からも唐突に沸いて襲ってくる!」
私たちはあっという間に魔物に囲まれてしまっていた。
「各自、自分の近くにいる魔物を優先して撃破するモフ!」
すぐにモフモフさんが指示を出す。
むぅ……私が隊長なのにぃ~……
そんな膨れていても仕方がないから戦闘に集中する。私の攻撃が当たると、その一発で敵は吹き飛び、光となって消えていく。
他のみんなもさすがの強さだ。魔物の奇襲に対して冷静に、そして確実に撃破していく。
しかし魔物の数が多かった。どんどん現れるその物量に流されそうになる。
「えいっ! 震脚!!」
周囲の魔物を一気に吹き飛ばすけど、それでも魔物はまだまだ流れてくる。
う~ん。獣王咆哮波で一気に吹き飛ばした方がいいのかな?
「みなさん、ギリギリまで範囲攻撃は控えたほうがよさそうですわ。ここぞという時に使いましょう! 全員が惜しげもなく使ってしまったらいざという時に何もできなくなってしまいます!」
黒猫ちゃんが指示を飛ばす。
むぅ~。やっぱりみんな私が隊長だって忘れてるよぉ。まぁ私なんてみんなと比べたら的確な指示を出す自信ないけどさ……
「ちょ、この……きゃあっ!?」
その時、後方から悲鳴が聞こえた。あまりにも敵の数が多くて仲間同士が分断しすぎて、くぅちゃんが敵に取り囲まれてしまっていた。
まずい、助けに行かないと! 狩人だとこの数で接近されたらさすがにヤバいよ!
そう思って足を踏み出そうとした瞬間に――
【ハルシオンがスキルを使用した。ソニックムーブ+5】
すでに動いていたハルシオンさんが私の目の前を駆け抜ける。そしてくぅちゃんを取り囲む魔物に突撃をして、その剣を振り上げていた。
【ハルシオンが絶技を使用した。斬鉄破斬】
くぅちゃんの周囲の魔物が、剣からほとばしる衝撃波で消し飛んでいく。それでも残った魔物がくぅちゃんに攻撃を仕掛けると、ハルシオンさんはまた素早い動きで間に割って入り、装備している盾でくぅちゃんを守っていた。
「なっ!? ハルシオン!? なんであなたが私を助けるのよ!?」
「ふっ、勘違いするな。ここのボスを倒すことがパーティー全体の目的だ。今あなたが倒れると、その作戦に穴が開いてしまう。それが困るだけさ」
そう言って目の前の魔物を振り払い、鮮やかな剣捌きで一蹴する。
「ふ、ふん! ならお礼は言わないわよ。あなたが私を守るのは当然なんだからっ!」
「ふっ、ボスの討伐に貢献してくれたらそれでいいさ。とにかく今はこの状況を打開する。くぅよ、俺のそばを離れるなよ。何があろうと必ず守ってやる。この命にかえてもな」
ボフンッ! と、くぅちゃんの頭から大きな煙が噴き出したような気がした。
「な、ななな!? 何を言ってるのよ! 全く、男ってそうやってすぐにカッコつけたがるんだから! ばっかじゃないの!?」
顔を真っ赤にして文句を言っていた。
あれ? あれあれ? これってもしかして……ほうほう~♪
「ねぇねぇ黒猫ちゃん黒猫ちゃん!」
「なんですの? 戦闘中ですわよ?」
「あの二人、なんだか良いふいんきじゃない?」
「え? ああ、そうですわね。これをきっかけに仲良くなればいいのですけれど……って沙南さん、『ふいんき』ではなく『ふんいき』ですわよ! わたくし、言葉は正しく使わないと気が済みませんの!」
え? そこ? 気になるとこそこなの?
あ、でもそれって、あの二人の事よりも私の事を気にしてくれているって意味なんじゃないかな? 黒猫ちゃんに気にかけてもらえるなんてなんだか嬉しい!
私は黒猫ちゃんの手を包み込むように握った。
「わ、私もね、黒猫ちゃんともっと仲良しになりたかったんだ~」
「……何やら物凄く飛躍した解釈をされている気がするのですが……」
そんなやり取りをしている間でも魔物は増え続ける。
「ハ、ハルシオン、ちゃんと私を守りなさいよ。それが今回あなたの役目なんだからねっ!」
「やれやれ、わがままお姫様を守るのは骨が折れそうだな」
「なっ!? だ、誰が可愛いお姫様よっ! も、もう~……」
そんな中、必死に戦う二人がいる事を私は忘れていた。
「ちょっとキミたち~!? ちゃんと戦ってほしいモフ~!!」
「なんかさっきから俺たちしか戦ってねぇぞコラ!」
モフモフさんとアビスさんの叫び声が聞こえるまで、私たちはおしゃべりをしていたのだった。




