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「このダンジョンでは『神化』が使えないらしいですわ」

「ちょ、ちょっと待ちなさい! 沙南をパーティーに入れるのでギリギリ妥協できる範囲なのに、ハルシオンともパーティーを組む!? それだけはごめんだわ!」


 くぅちゃんが力強く否定していた。

 というか、私もギリギリなの!? いつの間にか嫌われてる!?


「ふっ。それは俺も同じだな。もしも彼女とパーティーを組む事になっても連携は取れないだろう。なにせこちらの指示に従うような性格ではないからな」

「当然よ! あなたに指示されるくらいなら自分で判断して動いた方がマシだわ!」


 そして二人だけで口論が始まってしまった。

 そんな二人を見ながら、私はそっと黒猫ちゃんに耳打ちをする。


「ねぇ黒猫ちゃん。あの二人って仲が悪いの?」

「まぁ、地下ダンジョン攻略部隊とフラムベルクと言ったら犬猿の仲ですから。少なくとも、これまでずっとイベントランキングトップのハルシオンさんに対して、万年二位だったくぅさんはかなりフラストレーションが溜まっているでしょうね」


 そうなんだ。けどバトルロイヤルの時はフラムベルクが一位だったし、この前の勝ち抜きトーナメントの時もくぅちゃんの方が順位が高かった。もういい加減に仲よくしたらいいのになぁ。


「僕は沙南たんの意見に賛成モフ」


 そう言ってくれたのは、背中にチャックでもありそうなクマの格好をしたモフモフさんだった。


「こうして見ると、ここに集まった六人は『武闘家』、『魔法剣士』、『ソルジャー』、『盗賊』、『狩人』、そして『剣士』とバランスがいいモフ。実力だって知っての通りの折り紙付き。むしろこんなパーティーで挑めるのは願ったり叶ったりモフ」


 「確かに」と続いたのはアビスさんだった。


「うちのクランはメンバーが少ねぇからな。沙南を独占できねぇのはちょいと癪だが、今は新ダンジョンを攻略するのが先決だぜ。お前らだって自分の目でボスを見て、今後自分とこのクランメンバーだけで周回できるか気になってんだろ?」


 「そうね」と黒猫ちゃんも首を縦に振った。


「わたくしも賛成ですわ。流石にこれだけのメンツが組めば、高難易度のボスといえ遅れを取る事はないはず。否定する理由はありませんわ」


 するといがみ合っていたハルシオンさんがくぅちゃんを無視して会話に混ざってきた。


「決まりだな。俺たちだけでパーティーを組もう。あ、フラムベルクのくぅは嫌がっているようだからそっとしておこう。なので最後の一人は……ゲームマスターに頼もうじゃないか。彼女ならくぅ以上の戦力になる」

「ちょっと!? 勝手に外さないでくれる!? 誰も行かないなんて言ってないでしょう!!」

「ふっ。あんなに俺と組むのは嫌がっていたではないか」

「私が行く代わりにアンタとゲームマスターが交代しなさいよ!」

「やれやれ。その発言は正気を疑うな。このメンツで唯一防御力が高いのはこの俺だ。俺を外したら誰が防御面をカバーするんだ? もう少し考えて発言できないものか……」

「な、なんですってー!!」


 そして二人はまた口論となる。


「確かにハルシオンの言う通りモフ。情報屋の話じゃ、ボスは定期的に回避不能の全体攻撃を使うみたいモフ。『剣士』なら装備で防御重視にカスタマイズできるから、彼を盾士の代わりとして仲間を守る役になってもらうのが一番モフ」


 そうして、いがみ合っている二人は無視しながらメンバーの役割を決めていく。


「沙南たんはもちろんパーティーの要、攻撃担当モフ。支援は魔法剣士の黒猫たん。スピードでヘイトをかき乱すのが必要な時は、盗賊のアビスに任せるモフ」

「わかっているわ。サポートなら任せて下さいな」

「へっ! 仕方ねぇな。けど細かい指示を出されるのは苦手だ。ある程度は好きにやらせてもらうぜ」


 そうして少しずつ話が進んでいく。


「沙南たんに攻撃を合わせて『デュアルアタック』を発動させる役はくぅたんが最適だモフ。僕は全体を見渡して、手の足りないところをカバーするモフよ」


 おお~! こういう難易度の高いダンジョンに向かう前の作戦会議って、それだけで面白いよね! 仲間との絆を感じられる瞬間だよぉ。


「いいこと? 私の邪魔だけは絶対にしないでよねっ!」

「ふっ。どっちが邪魔になるかは始まる前から分かっているがな」


 ……あの二人を除いては。でも一周回って仲良しに思えてきた……


「そうそう。このダンジョンでは『神化』が使えないらしいですわ。それだけは注意しておかなければいけません。沙南さん、神化無しだとどれくらいダメージを与えられるか計算できます?」


 ふえっ!? 神化できないんだ!


「ボスの種類って何かな? 私、鳥系なら『バードキラー』持ってるよ?」

「今回はドラゴンらしいモフよ」


 あ、そういえばドラゴンキラーも持ってる!

 それに私の攻撃力が11592だから……


「神化してた時は『先手必勝』が使えなかったけど、今回は入るんだよね? そこに『ドラゴンキラー』が入って、『デュアルアタック』も加わるでしょ? あと、パーティーの人数で攻撃力が増える『マルチブースト』っていうアビリティも前にガチャで当ててるから……」


 うぅ~……52点も取れた私の頭でもこの計算は難しいよ……


「あ、あら? もしかして、わたくし達の想像以上にいい感じのダメージが入るんじゃないかしら?」

「沙南たん、恐ろしい子……モフ」


 とにもかくにも、実際に殴ってみればいいんだよ! その方が確実だし!


「ではこのパーティーのリーダーは沙南さんって事にして、皆さんでパーティーの申請を送りましょう」


 ふえぇ!? 私がリーダーなの!?


「そうモフね。みんな沙南たん狙いで集まったわけだし、沙南たんが指示を出してくれた方が言うことを聞く人もいそうモフ」


 そうしてみんなからパーティーの申請が飛んでくる。私はそれを承認した。


「なによ! 勝ち抜きトーナメントの時は私に負けたくせに偉そうに!」

「ふっ! 神化バトルが浸透していない状態で一度勝っただけで吠えていると、それだけで小者に見えるな」


 未だにいがみ合っている二人を置いて私たちはダンジョンに向かって歩き出す。


「二人ともー、早く申請出さないと置いていくモフよー?」


 こうして、上級者向けの高難易度ダンジョンを攻略するための新しいパーティーが結成された。

 見送ってくれるび~すとふぁんぐのみんなに手を振りながら、私の戦いが始まろうとしているのだった。

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